未来世代のはばたきを応援するはばたけラボは、第31回ハットリキッズ食育クッキングコンテストの本選大会を取材。併せて、コンテストを主催する服部栄養専門学校の服部吉彦校長に取り組みについて話を聞いた。
小学生が料理の技術や創造性を競う「第31回ハットリキッズ食育クッキングコンテスト」の優勝者を決める本選大会が7月31日、同コンテストを主催する服部栄養専門学校(東京都渋谷区)で開かれ、小学生4~6年生10人が、6人の審査員の前で、制限時間内に各自が考えた朝ごはんを作るなど料理の腕前を披露した。審査の結果、おにぎりとふくさ焼き(卵料理)、ひっつみ汁、炒めもののシンプルな構成で栄養バランスにも十分配慮した朝食を作った神奈川県鎌倉市の小学6年、加藤そらさん(11)が2年連続で優勝した。2連覇は同コンテスト史上2人目の快挙という。
2連覇した加藤そらさん(右)。隣は服部栄養専門学校の服部吉彦校長=2026年7月31日、東京都渋谷区の服部栄養専門学校別館3階キッチンスタジオ
このコンテストは、「食」の大切さや調理の楽しさを多くの子どもたちに知ってもらおうと1996年から毎年開催。今年は「元気に登校!頭と身体がめざめる朝ごはん」をテーマに参加者を募り、テーマに沿い考案した朝ごはんレシピ(主食・主菜・副菜・汁物=一汁三菜)の応募書類(材料、作り方を明記し完成写真を添付)およそ100通の中からから、この日の本選出場者10人を決めた。
本選では、リンゴの皮むき、キャベツの千切り、アジの3枚おろしで料理の基本技術を審査する「規定競技」(制限時間30分)と、各自考案した朝ごはんを実際に作ってもらい、創造性やおいしさや、見た目の美しさ、盛り付けの工夫、朝ごはんに適した調理の簡便性、調理時の段取り・手際の良さ、後片付けの状態、衛生面への配慮などを評定する「オリジナルレシピ調理競技」(制限時間60分)の二つの“実技”で成果を競った。
10人は、規定競技の開始前に、服部栄養専門学校で講師を務めるプロの料理人の手本を目の前で見る機会に恵まれ、分かりやすくポイントを伝える解説を聞きながら、アジをおろす際の講師の流れるような手際のよい包丁さばき、食材を扱う際の所作の美しさ、包丁でむかれたリンゴの皮、千切りキャベツの均質の形・大きさなど、プロの腕前に見入っていた。
二つの競技中、会場となったキッチン台の並ぶ実習室では、10人が黙々と料理に集中、制限時間をにらみながら、切る、焼く、煮る、沸かす、洗う、片付けと、一連の調理作業をてきぱきとこなしていった。全員、事前に家のキッチンで何回も練習しており、オリジナル朝ごはんを作る競技は今年、制限時間まで数分程度残し、10人全員が盛り付けを終えた。
料理に集中する本選出場者=2026年7月31日、東京都渋谷区の服部栄養専門学校別館4階第7実習室
本選出場者の保護者はキッチンの周囲で緊張した面持ちで静かに応援。母親の1人は子どもが集中力を切らさぬよう、言葉ではなく、時折、うなずいたりして励ましていた。40代の母親は「昨年も本選に出場した息子は制限時間内に調理が終わらず、泣いてしまいました。今年は立派にやっています。1年でたくましく成長した姿を見ることができて、とてもうれしいです」と笑顔で話した。
調理会場の実習室は終始、緊張感に包まれ、食材を刻むトントンという響き、水がシンクに落ちる音、ボウル同士がぶつかる金属音、審査員が審査のため移動する靴音などのほかは、わずかに空調音だけが聞こえる“静寂の瞬間”が、たびたび訪れた。
会場には、日本の食育を学ぶため来日しているマレーシア保健省ペナン州保健局主任補佐官のファイザルさんの姿もあった。ファイザルさんは「マレーシアでは最近、日本語の“ショクイク”と言う言葉が使われ始めています。服部栄養専門学校の食育の取り組みは素晴らしいと思います。例えば、食べ物の事だけでなく、食品ロスや環境への負荷の問題なども踏まえた包括的な視点から食に関わる問題を捉えている点が参考になります。このような日本の食育の良い点を持ち帰ってマレーシアでも食育を進めていきたい」と話した。
競技後は、ファイザルさんが「マレーシアの首都はどこ?」などクイズで、子どもたちと交流する催しも行われた。
ハットリキッズ食育クッキングコンテストを見学するマレーシア保健省ペナン州保健局主任補佐官のファイザルさん(左)
優勝した加藤そらさんの朝ごはんは、題して「思い出の故郷へひとっ飛び!!日本の栄養満点郷土料理朝食」。再生かつお節を使ったおにぎりと卵料理のふくさ焼きやモロヘイヤと鷹の爪のスパイス炒め、岩手県の郷土料理ひっつみ汁で構成。両親の出身地である岩手県産の食材を使ったレシピで、忙しい朝にふさわしく、さっと作れ、野菜もふんだんに取れる栄養たっぷりの健康的な「これぞ日本の朝ごはん」として高い評価を受けた。
加藤さんは「2連覇は難しいと思っていましたが、達成できてとてもうれしい」と話し、将来は「なれるなら料理人になりたい」と語った。加藤さんには表彰状のほか奨学金3万円などが贈られた。
本選出場者(左)の料理の技量を確認する2人の審査員
審査員を務めた服部学園・服部栄養料理研究会の服部津貴子会長は「やっぱり料理は気持ちが入っているととてもおいしくなるものです。皆さん、本当に心を込めた朝ごはんを作っていたのでおいしかったです。加藤さんの朝ごはんレシピは、忙しい朝にも効率よく作ることができ、十分な栄養も取れるよう、よく考えられています。盛り付け、お味、朝ごはんに適した経済性すべてを満たしていたので最高の評価になりました」と講評した。
取材に対しては「コンテストが始まったおよそ30年前に比べますと、子どもたちの手先は器用になっています。またインターネットなどの普及で料理の知識は増えています」と時代の変化を指摘した上で「最近はAI(人工知能)が進化していますが、AIは味見ができません。やっぱり食べ物は人間が関わらなければならないものです。そこが食べ物、料理の素晴らしいところです。やはり、人の気持ちや考えとの関りが人間の命を支える“食”の基本にあると思います」と今後も大切となる食と人間の関係の在り方の“基本”を強調した。
優勝した加藤そらさん考案の朝ごはん
準優勝は岐阜県可児市の小学4年安藤凜さん(10)と千葉県柏市の小学5年佐藤早桜さん(10)が受賞した。キッチン台が少し高く、踏み台の上に立って作業した安藤さんは「中華せいろの湯気で目覚める夏の朝ごはん」に挑戦。「優勝できなくて悔しいけれど、準優勝できて良かったです」と語った。「カラフル野菜で心が目覚める~腸も喜ぶエナジー朝ごはん」レシピで挑んだ佐藤さんは「優勝を逃して悔しい。来年も本選に出場して優勝を目指したい」と話した。
安藤さん、佐藤さんには表彰状のほか奨学金1万円などが贈られた。
準優勝に輝いた(手前左から)安藤凜さん、佐藤早桜さん。後ろは服部栄養料理研究会の服部津貴子会長
2024年10月に亡くなった父親の服部幸應(ゆきお)・服部栄養専門学校前校長が始めた「ハットリキッズ食育クッキングコンテスト」を主催する服部栄養専門学校の服部吉彦校長は「コンテストは今回31回目となりますが、昔も今も“料理が好き”という子どもたちが参加してくれます。子どもたちの食、料理への関心は基本的な部分では大きな変化はないと思います」と述べた上で、「ただ現代は共働き世帯や核家族の増加で昔のように、家族らで一緒に朝ごはんを食べるという環境を維持することは難しくなっている一面もあります。当校主催の食育クッキングコンテストが、子どもたちや社会の食への関心を高めるきっかけとなり、毎日は無理だとしても休日などに家族らで一緒にそろって朝ごはんを食べる環境の促進に貢献できればと思います」と話す。
服部家では朝ごはんは家族そろって食べていたという。服部校長は「なかなか家族そろって毎日食事することは難しい時代と承知していますが、だからこそ朝ごはんを大切にしてください。朝ごはんだけはなるべく一緒にそろって食べることが食への関心を高める一番の近道だと思います。食育推進を提唱してこのコンテストを始めた父は多忙でしたが、朝ごはんは毎日私たち家族と一緒に食べました。簡単な料理でもいいですから、家族や子どもがある方などは、朝ごはんだけでも家族で一緒に食べることをお勧めします。一緒に食べるとおいしいし、いろいろ会話することにもつながります。会話を通じて食への思いは自然に継承されていくはずです」と語った。
また、食への関心は小さいころから持ってもらうことが大切と、幼少期からの食育の重要性も強調した。「10歳ごろまでの間に、体の成長の土台となる十分な食事、栄養を取ってしっかりとした体をつくっておくことが大事です。その後の本格的な成長期に向けた体づくりをしっかりした土台の上で行うことが可能となるからです」と述べた。
審査員らと一緒に記念写真に納まる本選出場者の10人(手前)
コンテストに参加した子どもたちへの今後に関しては「子どもたちにはこのコンテストを通じて、自分の作った料理が人を喜ばせ、幸せな気持ちにさせることを知ってほしい。またその人の喜びが巡り巡って自身の料理することへの喜びや自身の幸福、健康にもつながることも感じてほしいと思います。食は多くの人を幸せに健康にします。このことをコンテストに参加することで体感してほしい」と指摘。
その上で「コンテストに参加した子どもは、審査員や保護者が見詰め、カメラマンが撮影するという、とても緊張する雰囲気の中で料理に挑みます。この“非日常的な空間”でトライ(挑戦)することは、子どもたちにとってはさらなる成長への第一歩になり、今後大きく羽ばたくための扉を開けてくれる特別な体験になると確信しています」と将来の飛躍への期待を語った。
審査委員長として本選出場者の朝ごはんの出来栄えを審査する服部栄養専門学校の服部吉彦校長
服部校長によると、コンテストの本選出場者が料理人を目指して、服部栄養専門学校に入学する例は少なくないという。服部校長はコンテスト閉会のあいさつの中で「当コンテストの受賞者が当校に入学する場合は入学金の免除をしたい」と述べた。
優勝、準優勝以外の受賞者は次の皆さん。
【審査員特別賞】佐々木杏芭(小6、静岡県磐田市)
【技術賞】相馬尚幸(小5、神奈川県鎌倉市)
【味覚賞】平川奈緒(小5、東京都足立区)
【アイデア賞】渡邊湊太(小4、福島県郡山市)▽後藤喜晴(小6、東京都足立区)
【努力賞】遠藤潤(小6、東京都中野区)▽山本壮一朗(小6年、東京都杉並区)
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