「暑すぎてヤバい!」――これは、2024年に放送されたテレビアニメーション「わんだふるぷりきゅあ!」第26話(7月28日放送)に付けられた、あまりにも率直とも言えるタイトルである。この回では、普段は犬の姿に擬態しているプリキュアのこむぎと、その仲間であり飼い主でもあるいろはが、いつものように散歩へ出かける。しかし、あまりの猛暑に二人の足取りは重くなり、やがて他のプリキュアたちも暑さで朦朧とし、言動がおかしくなっていく様が描かれる。超人的な力を持つプリキュアでさえ、「暑いものは暑い」。そんな当たり前の身体感覚を正面から描いたことで、同話は放送後に視聴者の高い評価を得た。
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【フォトギャラリー】太秦映画村に誕生した「史上最恐のお化け屋敷 ~京都奇譚 一条戻橋~」会場の模様
だが、よく考えてみれば、いまの日本の夏は、アニメのなかでも誇張されている暑さをはるかに超えている。かつて、フランスの作家テオフィル・ゴーチエは、スペインを旅した時の旅行記「スペイン旅行(Voyage en Espagne)」のなかで、猛暑のトレドの街路を、「靴のない哀れな犬たちが、嘆きに満ちた遠吠えを上げながら大急ぎで横切っていく」場所として描いたが、犬でさえ外を歩くことをためらうほどの暑さという表現は、いまや日本の夏にも重なって見える。とはいえ、お盆を迎え、帰省やレジャーに出かける人も多いこの時期、できることなら涼しい場所へ逃げ込みたい、あるいはせめて気分だけでも涼しくなりたいと思う人も少なくないだろう。
そのような夏の暑さを吹き飛ばしてくれる恐怖体験ができるお化け屋敷が、太秦映画村に誕生した。8月11日にリニューアルオープンした「史上最恐のお化け屋敷 ~京都奇譚 一条戻橋~」は、京都に伝わる怪異譚を題材とし、夕闇の迫るなか一条戻橋を渡った先に「あの世」が待ち受けるという設定のもとで制作されたアトラクションであり、恐怖のレベルは、初心者向けの「甘恐」、標準的な「中恐」、そして最も怖い「大恐」の三段階から選ぶことができる。開業前日の8月10日には、報道関係者および体験券を入手した一般客を対象とした内覧体験会が行われた。クオリティの高さで知られてきた太秦映画村のお化け屋敷が今回どのように進化したのか、その恐怖をいち早く体感しようと、多数の報道陣と一般客が詰めかけた。
暑さに弱い筆者は、涼を求めて、今回最高レベルとなる「大恐」を選んで体験してみることにした。まず注意事項の説明を受け、光るお札を渡される。これを首から下げて入場するのだが、このお札によって、内部のギミックやおどかしの程度も変化するという。なお、そのさじ加減については、長年お化け屋敷の制作・運営に携わってきたスタッフたちが、適切に設定しているとのことだ。
中へ入ると、早速、一条戻橋へと至る小屋やさまざまな装飾が目に飛び込んでくる。なかでもひときわ大きな墓石が、不穏な雰囲気を醸し出している。そもそも一条戻橋には、源頼光の四天王の一人である渡辺綱が、深夜、この橋で美しい女性に姿を変えた鬼・茨木童子と遭遇し、その腕を切り落としたという逸話が残されている。つまり、この場所そのものが、古くから生と死、そして人ならざるものが交錯する場として語り継がれてきたのである。そうした伝承を踏まえて設計された空間に足を踏み入れると、単なる怖い装飾とは異なる、京都の怪異譚そのものへ入り込んでいくような感覚を覚える。
お化け屋敷のなかでは、いくつもの衝撃音に加え、俳優によるさまざまな恐怖の仕掛けを体験することができる。たとえば、人形だと思っていたものが突然動き出したり、何気なくお札に触れてしまったことでお化けが出現したりする。次に何が起こるのかを、あらかじめ予測することは難しい。実際、体験会に参加した報道関係者のなかにも、思わず絶叫する人や、恐怖に身を震わせる人が少なくなかった。
この「何が起こるかわからない」という感覚こそ、お化け屋敷の恐怖を成立させる重要な要素なのだろう。ホラーを論じた哲学者ノエル・キャロルは、明確な怪物などの登場を要する「アート・ホラー」と区別して、原因の知れない超自然的な出来事によって観客に不安や畏怖を生じさせる物語の類型を「テイルズ・オブ・ドレッド」と呼んだ(ノエル・キャロル『ホラーの哲学』を参照)。本アトラクションもまた、単に「お化けが出てきて驚かせる」だけではなく、次に何が起こるかわからないという不安を持続させることで、恐怖そのものを味わわせる。暑さから逃れるために足を踏み入れたはずが、気づけば別の意味で全身に汗をかいている――「史上最恐」の看板に偽りのない、まさしく身震いするような涼を味わうことができた。
取材に応じてくれた担当者は、今回のリニューアルについてこう語る。太秦における映画製作が100周年を迎え、今年3月から太秦映画村も段階的なリニューアル開業を進めるなかで、お化け屋敷の伝統を受け継ぎながら、「京都」という場所そのものを体感してもらうことを目指したのだ、と。インバウンドを含め、このお化け屋敷をきっかけに、一条戻橋をはじめとする京都のさまざまな場所へも足を運んでもらえれば――。そこには、アトラクション単体で完結させるのではなく、京都の歴史や怪異譚へと観客を誘う入口として、改めてお化け屋敷を位置づけようとする意図があると言えよう。
また、太秦映画村のお化け屋敷は、恐怖の度合いだけでなく、東映京都撮影所の美術スタッフによる内部装飾のクオリティの高さでも、国内のお化け屋敷のなかで随一との評価を受けてきたという。今回のリニューアルでは、その伝統を保ちながら、より多くの人が楽しめるよう「甘恐」「中恐」「大恐」という三つの難易度が用意されている。どの恐怖を選ぶかは、あなた次第。まだまだ厳しい暑さが続くなか、今年は一条戻橋を渡り、背筋の凍る「涼」を体験してみてはいかがだろうか。(小城大知)
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太秦映画村「史上最恐のお化け屋敷 ~京都奇譚 一条戻橋~」公式HP
https://eigamura.com/attraction/ichijyou-modoribashi/
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