原泰久の大人気漫画を初めて舞台化し、2023年に帝国劇場で上演された舞台「キングダム」。戦争孤児の信(しん)と若き泰王・嬴政(えいせい)が出会い、王弟・成蟜(せいきょう)から玉座を奪還するまでを描いて大好評を博した舞台から3年。待望の第二章「キングダムII継承」が幕を開ける。
2006年に「週刊ヤングジャンプ」で連載を開始した原作は、アニメや実写映画シリーズにも展開され、熱狂的な支持を集めてきた。映画版は、2019年公開の第1作「キングダム」から、信の初陣を描く「キングダム2 遥かなる大地へ」、王騎が趙との戦いに挑む「キングダム 運命の炎」「キングダム 大将軍の帰還」、秦と六国が激しくぶつかり合う、現在公開中の「キングダム 魂の決戦」へと続いている。
今回の舞台では、信が歩兵として初めて戦場に立つ蛇甘平原の戦いから、秦国の大将軍・王騎(おうき)が趙軍との決戦に挑む馬陽の戦いまでが描かれる。映画シリーズでいえば、第2作から第4作にまたがる物語を、一つの舞台作品として紡ぐことになる。
信役は、初演に続いて三浦宏規と高野洸のダブルキャスト。王騎役の山口祐一郎も続投。驚異的な剣技を持つ羌瘣役には、中国武術の経験をもち、映画版では羌象(きょうしょう)を演じた山本千尋が新たに加わる。熱気を帯びた稽古場で、2人の信に話を聞いた。
まずは、映画版「キングダム」シリーズの印象から話してもらおう。
三浦「舞台で信という役を演じるにあたって、すごく刺激を受けました。映画はロケーションも含めて、映像の美しさや迫力が本当にすごいなと思いましたし、実際に我々がやるにあたって、舞台ではどうしても表現しきれないものがあるんです。どういうロケーションで、そこに何百人という人間がいて、という描写はできない。だから初演のときは映画を見て、『ああ、こういう景色なんだ』ということを自分の身に入れて、参考にした部分はすごく多かったです」
高野「映像の力を感じましたし、スケールが大きくてアクションもすごいので、圧倒されました。信役の山﨑賢人さんはすごくアクションがうまい方で、気迫たっぷり。尊敬しますね」
同じ信を演じる山﨑賢人を、ライバルとして意識することは?
三浦「いや、まったくそんなふうには思っていません。ただただ尊敬する先輩俳優です」
高野「僕も同じです!」
だが舞台には、映像の壮大な表現とはひと味違う、舞台でしか実現させられない豊かな表現と迫力が、確かに息づいている。それを感じさせる初演だった。
三浦「舞台にしかないところで明らかにいちばん大きいのは、生である、ライブであるというところですね。『キングダム』を好きな方、原作が好きという方やアニメが好きな方、映画を好きだという方も実際、劇場にいらしていただけたら、いままで二次元で見て好きだったものが三次元で、リアルに動いているというところに感動を覚えてくださる方はいらっしゃるのではないかと思います」
高野「舞台でしか表現できない見せ方、ちょっと抽象的にすることによって見え方が変わるというような部分もたくさんあると思いますけど、リアルな足音だったり、声だったり、本当に直接響くもの、聞こえてくるものが舞台にはあるので。そこはやはり舞台の魅力かなと思います。映画は映画として本当にすごかったですけどね。砂ぼこりとかがすご過ぎて、『撮影は大変なんだろうな』と思います(笑)」
初演は大きな反響を呼んだ。続編となれば、前作を超えなければならないという闘いも生まれるのではないか。だが、2人の答えは意外なほど冷静だった。
三浦「作品の戦略は、我々が決めることではありませんから。我々がそこを考えてしまうと、すごく狭まってしまうような気がしているんです。だから、あまり前作へのプレッシャーを感じたということはないですね。ただ舞台って、絶対に再演をやった方が楽だし、効率がいいんですよ。採算的にも。その作品がよくできていたんだったら、それをまた見たいと思うお客さんも当然たくさんいらっしゃるわけで、普通なら再演をやる方が多いですよね。でも、あえてそこで続編をやるんだという、プロデューサーの覚悟みたいなものがすごいな、かっこいいなと思います。舞台を1本作るのって、すごく大変な作業じゃないですか。当たり前ですけど。それでも、どうしても祐様(山口祐一郎)演じる王騎の最後を描きたい、やりたいという思いが強かったんだと思うんです。それは我々もぜひ見たいですからね(笑)」
今作の大きな見どころとなるのが、“ミュージカル界の帝王”こと山口祐一郎が演じる王騎将軍の壮絶なる戦いと、信との絆だ。
高野「舞台としてはやはり祐様が王騎を演じているからこそ、という部分が大きいと思っています。このストーリーで祐様と一緒に立てている、信として一緒に立てているということもすごく幸せに感じるので、最後まで楽しみながらやっていきたいなと思います」
原作や映画でも絶大な存在感を放つ王騎だが、王騎のために兵士たちが士気を上げる劇中さながらに、山口の人柄が稽古場の空気を引き上げているそう。
三浦「祐様はとにかく、気遣いの人なんです。今回は絶対に、ご自分が大変だと思うんですよ。なのに、自分のためじゃなく、僕らに声をかけてくださったり、僕らのことを考えていろいろしてくださっていて。自分のことは二の次なんですよ。そういう、この方の居方が好きなんです。『この人は本当にすごいな』と思いますし、だから全員が、『この人のために気持ちを上げて戦おう!』という態勢になっている。役としてだけではなく、そう思えているんです」
高野「本当に、もう祐様は偉大すぎて。尊敬の気持ちがどんどん湧いてきますね。稽古場では入り口に近いところにいつも席があるので、稽古場に入ってきた人がまず祐様に挨拶をするんですけど、誰に対しても(ちょっと高めの大きな声で)『オハヨー!』って(笑)。明るく大きく挨拶を返してくださるので、そこからテンションが上がります」
もちろん、「キングダム」に欠かせないアクションも大きく進化している。
取材の日、シーンの稽古を一部、稽古場で見ることができた。披露されたのはほんの短い場面だったが、俳優たちが一斉に床を蹴り、剣を振るい、身体ごと相手の懐へ飛び込んでいくと、稽古場の空気が一変。間近で見る動きは想像以上に速く、鋭い。ぶつかり合う寸前まで踏み込み、転がり、すぐさま次の一撃へ向かう。張り詰めた気迫と圧倒的な運動量に、見ているこちらも思わず息を飲んだ。
ともに「刀剣乱舞」で立ち回りを経験してきた三浦と高野だが、持ち味は違う。バレエで鍛えた三浦の動きは、どれほど激しく戦っていてもしなやかだ。大きく跳躍した瞬間には、身体がふっと重力から解き放たれたように宙へ浮かび、そこから鋭い一撃へとつながっていく。高いジャンプ力と、身体の隅々まで意識が通った身のこなしによって、荒々しい信のアクションの中にも、美しい軌道が描き出される。
一方、ヒップホップダンスや2.5次元作品でアクションを経験してきた高野の信は、前へ押し出す力が強い。攻撃されてもその反動を勢いに変えてすぐに立て直し、再び敵へ向かっていく。信の負けん気と、戦場を駆け抜ける爆発力が、その身体からストレートに伝わってくる。
また、今回、三浦が真っ先に見どころとして挙げたのが、山本千尋演じる羌瘣の人並み外れた身体能力だ。
三浦「みなさん期待をされているとは思うんですけど、人間業じゃないんですよ(笑)。まさに羌瘣の驚異的なアクションを体現されているので、そこは必見かなと思います」
では、2人の信のアクションは、前作からどんな進化をしたと感じている?
三浦「我々はね。どうなんでしょう?」
高野「どうなんですかね?(笑)。でも、一発一発が前作とは違うというか。そこに信の成長を感じていただけたらいいなと思うんですが、破壊力みたいなものが出ているかもしれないです」
三浦「相変わらず、床と仲よくやってるよね。強いやつが出てきたら、這いつくばって」
高野「這いつくばってね(笑)」
三浦「型とかじゃないんですよ、僕らは。めちゃくちゃだもんね。ケツアタックとかあるんですよ!びっくりしました。『じゃあ、ここケツアタックで思いっきり』『ケツアタックってなんですか?』みたいな(笑)。型破りなんです。びっくりですよ、人に体当たりすることなんてあんまりないじゃないですか(笑)」
高野「アンサンブルのすごい人たちと戦うなかで、当てないように気を遣ってやっていたら、『当てて』と言われて。『え、いいんですか?』みたいな。本当に体当たりなんです。実際に当てにいくというのは、怖くもありますね」
三浦「フィジカルを強く、というのがテーマです!」
そして2人が口を揃えるのは、初演のときに命がけで戦ってきた時間があるからこその今作だということ。初演の熱を受け継ぎながら、新たな闘いに身を投じる2人の間にも、確かな信頼と共鳴、絆が見える。
三浦「これが何よりお客さんにも我々にとってもグッと響くのは、前作であれだけ命がけでやってきたことがあるからこそ。あれだけ汗を流して、必死こいてやった時間があるからこそ、そこで培ったものがあるからこそ、『ひとつひとつの言葉の持つ重みが違うよな』と思うんです。経験値がものを言っている。そういう意味でも、続編であるということが、すごく価値のあることだと思っています。前作を経ての今回がどうなるのか、すごく楽しみです」
高野「僕も同じく、前作を超えようという思考はなくて。超えなきゃということではなく、前作があったからこそのつながりで、その結果として今回がある、ということをすごく感じますね。もし舞台オリジナルの物語であれば、『前作を超えなければ』という発想になったかもしれない。でも壮大な原作がもともとあって、続いていくストーリーの中の、大切な部分を切り取ってやらせていただくということですから、新しい取り組みです。自分としての覚悟はもちろんあります。前作同様、『しっかり戦っていきたいな』という気持ちはすごくありますけど、舞台としてはこのストーリーの中で信をどう描いていくか。それぞれが、大切な人からの思いを継承して戦場に向かっていく姿を、どう見せるかだと思っています」
「キングダムII継承」は8月9日〜9月13日、東京建物ブリリアホールで、9月21日〜29日、大阪・新歌舞伎座で、10月6日〜13日、福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/kingdom2/)で確認できる。
【作品情報】
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キングダム魂の決戦
撮影:若林ゆり