国立競技場に6万3960人の観衆を集めて行なわれた2026-27シーズンJ1リーグの開幕戦、横浜F・マリノス対鹿島アントラーズは、単純に面白い試合だった。1-3とリードされた鹿島が追い上げて4-3とひっくり返す逆転劇。いい感じの撃ち合いに酔いしれることになった。
試合は鹿島アントラーズが横浜F・マリノスに逆転勝利を収めた photo by Fujita Masato
Jリーグの試合としては24年ぶりに民放地上波のゴールデンタイムに生中継された一戦でもあった。視聴率はこの原稿を書いている段階では明らかになっていないが、試合を見始めた人の"注視率"は高かったのではないか。チャンネルを途中で変えた人がいたとすれば、後半13分、横浜FMが3-1としたあとだろう。そこからしばらく両軍のパフォーマンスは低下。横浜FMの選手を中心に足を痙攣させる選手が続出したことで、試合はしばしば止まった。
気温はその時28度。日中の最高気温は33度で、「40度」というアナウンスに耳慣れた者には高く感じないが、湿度は高く、サッカーには適さない環境と言えた。「秋春制」という表現が、名ばかりであることにあらためて気づかされた。日本は9月でもしっかり夏だ。10月に入っても30度超の日はある。温暖化は世界各地で進むが、日本は特に酷い。それがワールドカップで40日間現地に滞在してから帰国しての実感である。アメリカのほうが断然、過ごしやすかった。
そのワールドカップでは前後半それぞれの真ん中に、3分近いハイドレーションブレイクが設けられ、話題を呼んだ。これは事実上のCMタイムではないかと批判を浴びたものだが、この試合ではそれが約1分。これではCMも挟めないだろう。
3分に慣れてしまった筆者には1分がアッという間に感じられた。ローカルルールとして、夏の間に限って3分にすればいいのではないかと言いたくなった。それほど横浜FMの選手はバタバタと倒れ込んだ。
一方、鹿島は後半、1分の休憩を挟むとパフォーマンスを次第に回復させた。交代で入る選手の質が横浜FMを上回ったことが、大逆転劇が起きた一番の要因になる。鹿島の選手層は厚い。交代選手を投入してもパフォーマンスが回復しなかった横浜FMとの差は顕著だった。選手層はおそらく他のチームとの比較でも勝る。鹿島を優勝候補に推したくなる理由である。
【国立競技場の問題点とは】ただし、この逆転劇には微妙な判定も含まれていた。VARの介在で判定は2度覆った。いずれも鹿島の攻撃で、徳田誉が押し込んだゴールが取り消しになった件と、鈴木優磨が放ったシュートが、実は横浜FMのジョルディ・クルークスの手に触れていたという件である。
前者はワンプレー前で絡んだ鈴木のポジションがオフサイドだったか否か。後者はクルークスの手に触れたか否かが問題となったのだが、国立競技場の電光掲示板は、それを伝える装置として脆弱だった。
2020年の東京五輪のために建設されたばかりの、いまだ名称に「新」をつける人が少なくないナショナルスタジアムだ。日本では最先端を行く、ナンバーワンスタジアムであるはずだが、ワールドカップ帰りの筆者には、その映像装置が恐ろしく貧しいものに映った。
画角も小さければ、解像度も低い。国立競技場に詰めかけた6万3960人の観衆のなかで、VARによるこの決定的な説明を、鮮明に捉えることができた人はどれほどいたか。ワールドカップの会場にそうした不満は一切なかった。超特大かつ鮮明なスクリーンが問題の箇所を繰り返し、納得するまで懇切丁寧に紹介してくれたからだ。そのクオリティを100とするなら国立競技場はせいぜい10。旧態依然としたサービスそのものだった。
国立競技場で行なわれる試合は今季、これまで以上に増えている。月2試合ぐらいのペースで開催される。各試合で4万人以上の観客が予想される。アクセスのいい場所柄、両チームとは関係のない浮動層も数多く来場する。
彼らをリピーターにできるか。主催者に問われるのはホスピタリティであり、サービス精神だが、試合を決定づけるVARがこの不鮮明さでは、サッカーの魅力を伝えきることはできない。スタジアムに胸を張って招き入れることはできない。視覚効果を重視したスタジアムでないと、今日のサッカーは楽しめない。横浜FM対鹿島は国立競技場のサッカー場としての問題点を明らかにした。国立競技場がサッカーをメインにしようとするなら、そのための仕様に改修されることを切に望む。
観客ファースト。イベントとしての評価を論じようとした時、物差しになるのはこの精神だ。来場者がどれほど満足して帰路につくか、だ。もちろん、毎試合4-3の逆転劇は期待できない。サッカーなので1-0の渋い試合もある。試合内容に当たり外れはある。
それでもファンをリピーターにするためには、座席に着いただけで入場料分を回収したぐらいの気分にさせる必要がある。ワールドカップのチケットは確かに高額だったが、観光体験としての満足度も高かった。多くの観客はこのスタジアムでサッカーを観戦できる喜びを感じたのではないか。
規定の時間をオーバーして悪評だった決勝戦のハーフタイムショーも、究極の選択にはなるが、筆者は肯定的な立場に立つ。高いチケット代を払っている観客にとって有名なアーティストのパフォーマンスは、むしろうれしくなる、欲している施策ではないか。
横浜FM対鹿島戦でもパフォーマンスが展開された。だが、特に大きな驚きはなかった。テレビを視聴した友人から「現場で見た花火はきれいだったか?」とメッセージが届いたが、客席からは上空がよく見えない。テレビを意識したパフォーマンスと言えた。ハーフタイムには人気アイドルグループがライブを披露した。ワールドカップの決勝ではないが、もっと誰もが驚くような大物を招いてもよかったのではないか。
鹿島、横浜FMの熱狂的なファンは、スタジアムに高い確率でやってくる。だが国立競技場はそれだけでは埋まらない。この日もどちらのファンでもない中立の立場で訪れたと思われる観客は、パッと見、3割ぐらいはいた。舞台がアクセスに優れた国立競技場であるという理由でやってきた新規のファンもいたはずだ。
国立競技場での試合は今月21日(FC東京対ジェフユナイテッド千葉)と23日(FC町田ゼルビア対浦和レッズ)にも組まれている。価値あるイベントにしてほしいものである。
杉山茂樹●文 text by Shigeki Sugiyama
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