韓国政治は保守「国民の力」とリベラル「共に民主党」が二分し、保守は反共・親米・親日を軸としてきたが、尹錫悦前大統領の戒厳令後、20~30代が民主化世代より右傾化する"世代逆転"が起きている。その実像を追った。
国家不信が対中警戒を膨らませる
保守系市民団体に所属しながら、言論活動も行うパク・スンジョンさん(36歳)は、若い保守派の源流に匿名掲示板「イルベ(日間ベスト)」を挙げる。自身もヘビーユーザーだった。
「言葉は低俗でも忌憚のない社会風刺、既存の常識やタブーを疑う文化があった。そこにどっぷり浸かって育ったのが今の『2030世代』なんです」
パクさんはそこで培われた既存のメディアを疑う作法がYouTubeなどに移り、2030世代の右傾化に影響したと話す。
彼らが現在、中心となるのが、’26年6月3日の地方選挙を巡る全国抗議だ。与党勝利後、一部投票所の用紙不足、開票所CCTVの遮蔽、投票箱の保管・移送、事前投票用紙の紙質や得票数一致への疑念がSNSで拡散。中国共産党や世界選挙機関協議会(A-WEB)、ディープステートの関与まで疑われ、「参政権の侵害」「選挙が奪われた」と抗議が広がった。
7月初旬、保守の牙城・大邱では、約1000人の若者らが「滅共」「アカは出て行け」「尹アゲイン」と叫びながら行進。拍手を送る通行人も多かった。前出の男性はこう語る。
「自分はもともと中立派。極右と呼ばれるのは悲しい。極右とは他者の権利を侵害してまで自らの権利を広げようとする者を指します」
同時に、ネットで右派批判をするのはすべて中国共産党員であると話す。
右か左かではなく、社会に公正さを求めているだけ
一方、光州事件の舞台で左派地盤の光州では、大邱と対照的に刺激的な言葉を避けていた。主催団体「ホウチン」は尹氏の戒厳令を機に活動を始め、100人ほどだったオープンチャットは疑惑後に1000人超へ増えた。ホウチン代表のソンさんは、「光州は民主党の公認を得れば、そのまま当選するような地域。親の世代は、私たちがどれだけ真実を叫んでも聞かない。これは既成世代と新世代の闘いです」と話す。
日本では、韓国若年男性の保守化は反フェミニズムで説明されがちだが、ソウルの名門大生(27歳)は反論する。
「影響は否定しません。でも、それだけでは戒厳令直後の支持率低下や、女性支持者の多さを説明できない。男性の兵役は義務、女性の出産は選択なのに、女性が重責を免れるのはおかしいと言っているだけで、差別ではありません」
以前、大企業に勤めていたというチョ・ヨンハさん(仮名・34歳)は党派性にこだわっているわけでもないと話す。
「厳密にいえば右か左かではなく、社会に公正さを求めているだけなんです。政治家たちは清廉なふりをして、裏で欺くのはやめてほしい。若者が血反吐を吐きながらスペック競争をする裏で、選管委員会の上層部は親族やコネ採用を繰り返していた。許せるわけがないでしょう。この国はずっとこうなんです」
膨らんだ疑念が陰謀論へと変わる
不正選挙抗議の“本拠地”はソウルのオリンピック公園。事件後は連日、老若男女が「不正選挙、再選挙!当日投票、直接開票!」と叫び、左派や中国メディアを警戒する。テント群の男性に日本から来た記者だと名乗ると、「では日本語を話して」と試された。
日本語を聞いて納得すると、悲壮な覚悟を明かした。「地方で会社を経営していますが、いてもたってもいられず上京しました。ここで死ぬつもりで、遺書はもう書いてきました。セウォル号事故の調査でゴタゴタした時からこの国は怪しいと思い、何も信じなくなった。今では第三の勢力が操っているのだと確信しています」
参加者は大きく三層に分かれた。まずは左派同様、政権運営のずさんさや既得権益に正当に抗議する層。次に、疑念を晴らしたい層だ。
休学して3週間、公園に泊まり込んでいるという釜山の大学生は、SNSの写真を根拠に、中国人によるなりすまし投票を訴えた。記者が「写真自体が偽物である可能性はないか」と聞くと、「そうかもしれない」と認めつつ、「それでも怪しいことが多すぎる」と譲らなかった。
「李在明は中国が選んだ大統領だ」
そして、ディープステートを信じる層だ。
「李在明は中国が選んだ大統領だ」「中国人が韓国人のふりをして投票した」などが主な主張だ。背景には、地方選挙権を持つ外国人約12万人の8割近くが中国籍で、韓国内の居住義務もないという事実がある。そこに親米、反北朝鮮などの右派思想が混在する。
現場にいたYouTuberは、李在明氏が若い頃に強姦殺人事件に関与し、被害者の遺体を安東地方のダムに捨てたと主張。そして、それを石破茂前首相が日韓会談で暗に告発するために、白米をダムのように高く盛ったカレーを出したのだと語った。
「石破氏は、李在明の犯罪をお見通しだったんですよ」
しかし石破氏が振る舞ったのはらっきょうなどを隠し味にしたオリジナルカレーであり、もちろんダムを模してもいなかった。
彼らが「口封じ法」と恐れたのが、フェイクニュースへの罰則を定めた改正情報通信網法(’26年7月7日施行)だ。施行前日、参加者は「明日から弾圧され、誰も来られない。横断幕に『A-WEB』も使えない」と口を揃えたが、翌日も公園に変化はなく、警察介入もなかった。そして不正選挙の証拠とされるものも、現時点では公式に存在していない。
いずれにしろ彼らの主張は、国家に対する長年の根深い不信感と不安が表裏一体となっているようにみえた。それが右派的イデオロギーや、あらゆる不満と地続きになっている。それらに寄り添い、解消する責任は韓国政府にあることは間違いないはずである。
どのような政権であれ、国民に信用される政府でいることーーこれは日本にとっても対岸の火事ではなさそうだ。
取材・文・撮影/安宿緑
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