【写真】天使たちの過酷な運命を描く…高河ゆん原作のOVA「アーシアン」
昨今のアニメ業界は色鮮やかで鮮明な画質、ぬるぬる動く高フレームレート、新しい表現としての3Dモデリング導入などといった映像面だけでなく、「見逃し」をカバーする配信など視聴環境においても進化を続けてきた。だがBlu-ray、DVD、配信が当たり前になった現代でも、ふとVHSには特有の味わいがあったことを思い出す。特にOVAを取り扱うメイン媒体として活躍していたVHSには、いまや失われた“独自の視聴体験”があったのもまた事実だ。そんな古き良き時代の熱量を再び体験できる企画が、8月からCS「衛星劇場」で展開される。同局で放送される「VHSを巻き戻せ!私たちのOVA特集」では、限られたテレビの放送枠を飛び越えて実現した名作OVAをピックアップ。アナログならではの表現はもとより、いまでも夜を徹して語りたくなるストーリー性・メッセージ性にあふれている作品たちを紹介する。
■前世の記憶と現代が交錯する「ぼくの地球を守って」
日渡早紀による同名コミックを映像化した本作は、1980年代後半に大きなブームを巻き起こしたタイトル。現代の日本と遠い惑星での出来事が複雑に絡み合う、非常に秀逸なストーリー構成が魅力だ。テレビアニメ「天空のエスカフローネ」の楽曲でも知られる溝口肇が手掛けた繊細な音楽も、重厚な物語の魅力を一段と底上げしている。
主人公である内気で優しい高校生の坂口亜梨子は、隣人の小学生である小林輪を誤ってベランダから転落させてしまう。輪は奇跡的に一命を取り留めたものの、この事故を契機に前世の記憶を急激に覚醒させた。しかし同時期に亜梨子も同級生である小椋迅八・錦織一成から“月の夢”に関する奇妙な話を聞かされたことで、運命の歯車が大きく動き始めていく。
白鳥由里、冬馬由美、速水奨など、実力派声優陣による感情豊かな演技も本作の大きな見どころ。本作で錦織一成を演じた置鮎龍太郎は、同作について「自分の中でもある意味金字塔」と述懐している。演者にも大きな印象を残す、さまざまなことを考えさせられる名作だ。
■天使たちの過酷な運命を描く「アーシアン」
高河ゆんの原作を元にしたOVA「アーシアン」は、全3作で描かれる壮大なSFファンタジー。地球人(アーシアン)を監視するために舞い降りた天使たちが、地球人の行動を通して“滅ぼすべきか、否か”を決めるべく思索を深めていく。
突然変異で黒髪と黒い翼を持つちはやは、地球人を理解しようと努める純粋な天使。一方で彼とコンビを組む精悍な天使・影艶は「必要以上にアーシアンに関わるのはやめろ」「俺たちの任務はどれだけ客観的な評価をするかだ」と頑なな姿勢を見せていた。そんな正反対の2人が、さまざまな人や天使との出会いを通じて紡いでいく絆も、本作の見どころの1つだ。
作者である高河が「若き日の、わたしの描き手としてのすべてをブチこんだ作品となっております。未熟のひとことですが、精いっぱいやりましたね」と思い入れたっぷりに語る原作をもとに、のちに「機動戦士ガンダム00」で名を馳せる大貫健一がキャラクターデザインを担当し、完結編では自ら監督も務めて見事にまとめ上げた。原作の耽美な雰囲気を崩さない美麗作画が、“OVAオリジナル”のラストをいっそう盛り上げる。
■400年に渡る確執と愛憎「炎の蜃気楼-みなぎわの反逆者-」
桑原水菜のロングセラー小説を原作とする本作は、戦国武将たちの魂が現代に蘇るファンタジー作品。上杉景虎や直江信綱といった歴史上の人物が、記憶や人格などはそのまま継承される“換生者”として過酷な戦いを繰り広げていく。“換生者”たちによる「闇戦国(やみせんごく)」を終結させるべく、魂を浄化して冥界へ送る「調伏力(ちょうぶくりょく)」を使う冥界上杉軍の戦いを描く。
400年前、軍神・上杉謙信より命を受け換生を繰り返し生きてきた上杉夜叉衆。総大将・上杉景虎は松本に住む高校生・仰木高耶として換生していた。彼は30年前の織田信長との戦いの後、自ら記憶を封印。しかしある日、目の前に現れた直江信綱という男によって強大な「力(りょく)」が覚醒していく。同時に、高耶は直江との400年に渡る確執と愛憎をも思い出す。
2002年に放送されたTVシリーズの続編であるOVAが「炎の蜃気楼-みなぎわの反逆者-」だ。織田信長を裏切った武将の荒木村重の怨霊を追って、京都を訪れた仰木高耶と門脇綾子。時を同じくして、一向宗という者たちも荒木一族の遺髪が織り込まれたという「遺髪曼陀羅」を狙って暗躍を開始する。
村重を見つけ出した高耶と綾子だが、村重は綾子が200年前に死別した恋人・慎太郎と瓜二つだった。さらに「遺髪曼陀羅」の情報を追っていた高耶は、秘書兼ボディガードとして狭間社長に仕える直江と偶然再会。自分以外の者に従う直江に怒りをぶつける高耶だったが、逆に直江からは主従の愛憎と苦渋にみちた400年間を吐露される。それが高耶の過去の忌まわしい記憶を呼び覚ます結果に。
原作第9巻をベースに、ファンに人気の高い高耶と直江の名場面“タイガース・アイ”を美麗な作画で映像化したOVA。衛星劇場では「炎の蜃気楼-みなぎわの反逆者-」が8月8日(土)深夜4時ほかから、そのほか前述の「ぼくの地球を守って」が8月9日(日)深夜0時ほかから、「アーシアンI」が8月16日(日)深夜0時ほかから放送される。また同特集では村上真紀原作の「グラビテーション OVA」もオンエア。
OVAという舞台で描かれる漫画のキャラクターたちは、コマを飛び出して“描かれなかった物語の細部”を補完する。VHSは、当然現代の最新媒体と比べれば高精細な映像を再現できるわけではない。だがOVAで描かれる「知っている物語の新たな一面」との出会いが、ファンの心に素晴らしい思い出を刻んだのも事実。最新の技術、デジタルだからこその高精細、優れた利便性…そういったものから離れたVHSの思い出に、いま一度浸ってみるのもいいだろう。
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