「女は二度決断する」「愛より強く」などで知られるドイツの名匠ファティ・アキンが、第2次世界大戦末期のドイツを舞台に、母の願いをかなえるべく奔走する12歳の少年の姿を通して時代の転換点をみずみずしく描いたドラマ「白パンと独裁者」が公開を迎えた。本作は、アキン監督の恩師であるドイツの俳優・映画監督・作家ハーク・ボームが自らの幼少期の体験をつづった自伝的小説を映画化したもの。アキン監督が作品を語るインタビューを映画.comが入手した。
第2次世界大戦末期の1945年。爆撃機が上空を飛び交いながらも、どこか楽園のような静寂を保っていたドイツ北部のアムルム島が舞台。この地に疎開してきた12歳の少年ナニングは、戦地から戻ってこない父に代わり、農作業を手伝い家族を支えている。そんなある日、妊娠中の母ヒレが、心酔するヒトラーの訃報を受けて絶望、生気をなくし食事を拒む母が唯一口にしたいと願ったのは、たっぷりのバターとはちみつが塗られた白パンだった。
本作は、アキンとドイツ映画界の重鎮ボームの深い友情関係がなければ誕生しなかった。アキンはボームの映画を見て育ち、数十年来の付き合いがあり、ボームは「50年後のボクたちは」および「女は二度決断する」の共同脚本としても名を連ね、クリエイティブなパートナーでもあった。
アキンは「ハークは私にアムルム島での子ども時代の話をよく語ってくれ、聞くたびに圧倒されました。私はその時すでに、語ってくれた物語が映画になることが見えていたのです」と、恩師との思い出を楽しそうに語るも、年齢的にボームにとって最後の監督作になると予感していたという。「『ハーク、これは君にしか作れない映画だよ!戦争が終わる数週間、島で母親のために小麦粉とはちみつを手に入れなければならないこと……。映画のイメージが目の前にありありと浮かぶじゃないか!』と説得したんだ」と当時を振り返るアキンは、まさか自分がこの物語の監督を務めるとは思ってもいなかったそう。
アキンの熱烈なオファーに応えるように、ボームはコロナ禍に脚本を書き上げた。その分量は230ページにも渡り、映画4時間分に相当する分量だったという。「その頃には既に彼の体力が衰え、過酷な撮影に必要なエネルギーが残っていませんでした。でも脚本も物語もとても良かった。この映画は作られるべき作品だったのです」と強い思いに突き動かされたアキンは、ハークの同意を得た上でワーナー・ブラザースへ協力を仰ぎ、映画作りが動き出した。
しかし準備期間中にボームの健康状態は再び悪化し、ファティはボームからこの物語を監督として完成させることを託された。「最初は抵抗したんです。これは私の物語ではない、どう撮ればいい?どんな映像にする?カメラはどこに置く?キャストは何を着ればいい?家の中はどんな様子だ?何も見当がつかなかったのです」と、衝撃的な瞬間を振り返る。その後ドイツに戻ったアキンは、この物語の監督を引き受ける決断をする。
恩師の想いを引き継いで走り出した映画製作だったが、撮影現場は本当に楽しかったと嬉しそうに語る。「ハークとの深い友情関係もあったので、沢山の愛情を込めて作りました。島特有の特別な光、子どもたちとの濃密な日々、潮の満ち引きに影響される撮影。精神的にも肉体的にも試され、楽なものではなかったけど、素晴らしい体験だったよ」
2024年5月に撮影された本作は、室内シーンはハンブルクのスタジオを使い、大自然を背景とした屋外のシーンはすべてアムルム島で行われ、「アムルム島のことは撮影を通して知りました。天候に恵まれてばかりで、島は私に優しかったですね」と笑うアキンの晴男ぶりが発揮された撮影となった。光にもこだわりが詰まっており、テレンス・マリックの映画で多用されるマジックアワーの時間に撮影されたという。「子役とは一日に3時間しか撮影できないと分かっていました。でもその3時間を選ぶことはできますよね、だから一日の最後の3時間を選びました」と明かしている。少年たちの場面では、ロブ・ライナーの「スタンド・バイ・ミー」を参考にしたという。
そして本作にはハーク・ボーム本人も登場する。当時すでに少し足元がおぼつかず、体力が落ちていたハークを映画に登場させた理由を問われると、「この映画を作ろうと決めたとき、ハークは“役”としてではなく、ハーク自身としてこの映画に登場しなければならないと最初から確信していたのです。彼の健康状態がどうなるか分からなかったので、すぐに映像に残しておきたいと思ったのです」と決意を語った。
最後に「この映画は戦争の終わり、ナチ時代との向き合い方など、非常にドイツ的なテーマを扱っています。私はトルコ系ですがドイツで生まれたドイツ人で、ドイツは私の国です。でも本当にそうなのか?そして、この国がなぜ今日のような姿になっているのか、その手がかりも映画の中で示しています。最初は私自身とは何の関係もない物語のはずでしたが、信じられないほど個人的な映画になりました」と語り、物語に対する特別な想いと、恩師へのリスペクトに満ち溢れたインタビューを締めくくった。「白パンと独裁者」は全国で公開中。
【作品情報】
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白パンと独裁者
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