夏の甲子園が開幕した。大会が始まると、どうしてもスポットライトは甲子園で躍動する選手たちに集まる。だがその一方で、地方大会で涙をのんだ選手たちのなかにも、「甲子園で見たかった」と心から思わせる逸材は数えきれないほどいる。
あと一歩で夢舞台に届かなかった者、ライバルに阻まれた者、実力を発揮できずに敗れ去った者──。今年も各地を歩いていると、「この選手を甲子園で見られないのか......」と何度もため息をついたものだ。そのなかから、とくに印象に残った逸材たちを紹介したい。
浦和学院の西村虎龍photo by Nikkan sports
【精鋭ぞろいの浦和学院】埼玉大会決勝で花咲徳栄に敗れた浦和学院だが、3年生は精鋭ぞろいだった。春からプロ志望と報道されている強肩強打の捕手・内藤蒼に、投手陣も日高創太、深谷漣、伊藤漣(ショートと兼任)と強力。そのなかで個人的に注目していたのが、
西村虎龍
(こたつ)という「二刀流系」の選手だ。
入学当初は、彼がもっとも評価されていたように思う。バットの振り出しは鋭いし、相手投手の誘い球には見向きもしない。そのうえショートもこなすと聞いていた。そのわりに打順は下位だったり、控えの時もあったり......。しかし、目撃した全打席で「さすが!」と、思わず膝を叩きたくなるようなスイングと打球を見せてくれた。
投手としても150キロ近い球を投げると聞いて、「絶対こんなもんじゃないだろう」と意を強くしたものだ。それだけに、最後の甲子園で、その"正体"を目の当たりにしたかったのだが......。
日本航空石川高の
保西雅則
(ほにし・まさのり)とは、とうとう出会う機会がなかった。190センチ、103キロの堂々とした体躯から、投手としても、打者としても、計測不能なスケールを持つ"超"のつく逸材と聞いていた。
6月に富山で強豪2校と三つ巴の練習試合があったのだが、私は足をケガしていて伺うことができなかった。
「昨日の練習試合で、1試合4本ですよ、ホームラン。しかも、『すべて打った瞬間!』みたいなものすごい大アーチですから」
見に行った人から聞かされた話は、私にとっては「毒」でしかなく、聞けば聞くほど足がうずいたものだ。
見せてもらった映像では、投げても打っても、どこか一箇所だけに頼るような「幼さ」がない。全身がよどみなく連動し、力が自然と伝わる。すでに「大人仕様」と呼べる完成度の高いメカニズムの持ち主に見えた。
それにしても、この雄大な体躯はなんだ。2020年のエース・嘉手苅浩太(元ヤクルト)も、2022年ドラフト2位でオリックスに入団した内藤鵬も筋骨隆々の体つきだった。それでも保西のほうが、四肢はさらに長く、より伸びやかな印象を受ける。ベンチプレス125キロ、スクワット230キロ......いかつい数字が並ぶわりに、投打ともプレーに"ゴツゴツ感"がないから、まだまだ野球がうまくなりそうだ。
【長野の進学校に現れたクレバーな右腕】この夏の長野には、豊かな将来性を秘めた選手が数多く現れた。なかでも、公立校の1年生に「エエーッ!」と思わず声を上げたくなるほどの逸材を見つけたのだが、こちらは2年後のお楽しみとしておこう。
そのなかで自信を持って推したいのが、諏訪清陵高の投手・
田中樹来
(じゅらい)だ。右のオーバーハンドから140キロ台前半をマークするが、「もっと見せてやろう!」という力みや気負いがまったくない。
素直なフォームだから再現性が高く、右打者の外角低めへ次々とストライクを投げ込み、左打者にはスライダーを足元に決め、チェンジアップで打者のタイミングを完全に崩す。
なにより「ピッチャーらしい」のは、走者を背負っても、あくまでフラットに投げ進める精神的なポーカーフェイスだ。たぎる炎は、内燃していればいい。
諏訪清陵は県内屈指の進学校と聞く。甲子園でも強豪校の打線と互角以上に渡り合えるだけの実力を秘めている。こういう投手こそ、「公立の快腕、強豪撃破!」──そんな大きな見出しが似合うのだろう。
そして、見た人の誰もが手放しで絶賛するのが、香里丘高(大阪)の
岡本翔斗
と、耐久高(和歌山)の
野崎健友
という公立校の両右腕だ。
岡本は、伸びやかな四肢をしなやかに連動させ、顔の前でボールをリリースする。球持ちも抜群で、打者の手元でグッと伸びるような、「生きたストレート」が最大の武器だ。
対照的に、野崎は馬力を感じさせるタイプ。強靱な体幹を生かした力強いフォームから、2年生の時点ですでに最速145キロを計測。さらに、公式戦で無四球完投をやってのける制球力と安定感は、高校生の域を超えている。
「公立校の限界」とか、「進学校の壁」などと言っては失礼なのだろうが、彼らのように甲子園には届かずとも、人知れず全国レベルまで腕を磨いた隠れた逸材たちが一堂に会し、「オールスターゲーム」で力を競ったなら、それはさぞ壮観な光景だろう。そんなドリームゲームが、同じ甲子園球場で実現したら──。
最後に、ここまで投手ばかりを挙げてきたが、もちろん野手も負けてはいない。走攻守三拍子そろった全国屈指の二塁手・法政二高(神奈川)の
榑松正悟
。ベースランニング13秒9を誇り、「九州最速」と評される俊足の持ち主、佐伯鶴城高(大分)の外野手・
金子蒼平
。そして、弾丸ライナーで左右へ長打を打ち分ける帯広三条高(北北海道)の外野手・
安藤美壱
(みいち)。
彼らもまた、ぜひその戦列の一角に加えてもらいたい有望な選手たちだ。
安倍昌彦●文text by Masahiko Abe
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