Kis-My-Ft2(以下、キスマイ)の玉森裕太さん主演『マイ・フィクション』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が、ドラマファンの間で一際話題になっています。
放送開始前はさほど注目されていませんでしたが、蓋を開けてみればTVerお気に入り登録数は65万、関連コンテンツのTVer再生数は合計1000万回を突破。事故に遭った主人公が目を覚ますと、自分の存在が他人に乗っ取られるという予測不能なサスペンスストーリーが注目を集めています。
順風満帆にも見える玉森さんですが、実は事務所に入ってから24年。アイドルとして、俳優として、多くの挫折や苦悩を味わってきました。そんな彼がいかにこのヒット作に巡り合ったのでしょうか。
「俺、マジで向いてないな」絶望した過去
玉森さんは、ジュニアとして9年という長い下積みを経験しました。その間、手越祐也さん(元NEWS)、八乙女光さん(Hey! Say! JUMP)ら同期や、後輩にもデビューで先を越され相当な焦りも感じたようです。
2009年に『ごくせん 卒業スペシャル』(日本テレビ系)でドラマに初出演しましたが、右も左も分からないまま誰も教えてくれず「俺、マジで向いてないな」と自らの才能に絶望したことも後にラジオで明かしていました。
その2年後には、『美男ですね』(TBS系)でドラマ初主演を務め、結成6年でようやくキスマイの1st SINGLE『Everybody Go』でデビューを果たします。
現timeleszのデビューで“脇道”に
一見華々しいようですが、わずか3か月後にはジュニアの後輩である佐藤勝利さん、菊池風磨さんらがSexy Zone(現timelesz)としてデビュー。キスマイのメンバーがSexy Zoneの前説のようなポジションを務めたりと、王道路線は彼らに取られ、脇道を行かされていると複雑な思いにもなったようです。また自分達を「寄せ集め」だと悩んだこともありました。
『グランメゾン東京』でついに助演男優賞!
それでも玉森さんは全てをアイドル業に還元すべく、並行して俳優として地道に努力を重ねます。『信長のシェフ』(テレビ朝日系)で連続ドラマ単独初主演を務め、『グランメゾン東京』(TBS系)ではテレビ誌ドラマ賞で助演男優賞を複数受賞するなど、頭角を現していきます。
そして、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)では、主演の上白石萌音さんの恋の相手役で、子犬系男子として世間の女性のハートを鷲掴みにしました。
ただ、その後はさらなる後輩グループの台頭や、コロナ禍に遭ったり、キスマイの最年長で中心メンバーだった北山宏光さんが脱退するなど、グループとしてなかなか軌道に乗れない時期が訪れます。
ドラマのため、2か月で10キロ以上の減量も
それでも玉森さんは自分のため、グループのため、実直に己を磨くことをやめませんでした。一昨年の『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)で元ボクサーを演じた際には、ドラマ撮影とグループ仕事を同時進行しながら、味のないささみやスープでカロリーを制限し、2か月で体重を10キロ超も減量。女性を沼らせるクズ男を好演しました。
ただ、どんなに自分を鍛錬しても、当たり作品やハマり役に出会えなければ正しい評価を得られないのが厳しい俳優の世界。前期日曜劇場『GIFT』(TBS系)では、本筋の車いすラグビーとは関係ない役柄で、母親役の山口智子さんと共に物語に必要ないのではないかと言われたこともありました。
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玉森さん自身は音楽を志す青年を生き生きと表現していたのですが、車いすラグビーチームの味方、敵、スタッフなど登場人物が多すぎたため、異質な存在になってしまったのかもしれません。
『マイ・フィクション』主人公と重なる苦悩
そして7月よりスタートした主演ドラマ『マイ・フィクション』。周囲の企てなのか、主人公が記憶障害なのか、それを演じているのか、観る者には不明瞭で、不穏な空気感と共にありふれた日常が壊れる恐ろしさを描き、回を増すごとに注目度が上がっています。
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主人公は、愛する妻や職場の人々に自分の存在を証明しようと立ち回りますが、自身の記憶と他者の記憶がすれ違うばかり。
玉森さんは他者から押し付けられる二つの人格を行き来しながら、平凡な男の崩壊と再構築という極めて難しい役を、表情や声色に細微なグラデーションをつけありありと体現しています。
この主人公の苦悩や葛藤は、玉森さんの長年の下積みや脇道を歩かされたグループでのもがきがあるからこそ、リアルに描けるのだと思います。
24年という歳月をかけて美しく進化
そして、玉森さんが俳優として培ってきた透明感や儚さが、主人公の「信じてほしい」という切実さを増幅すると同時に、彼を応援したい気持ちと疑ってしまう気持ちを視聴者に同居させている。単純に怒ったり叫んだだけでは成し得ないことを、繊細な表現の積み重ねによって成立させているのです。
24年という歳月をかけて、泥臭く、しかし美しく進化を遂げた玉森さん。どんな困難にも全力で取り組んできたからこそ、玉森さんがこの作品、この役をたぐり寄せた。
そして今作で、ただのアイドル俳優ではなく、物語の中心になれる実力派主演俳優として、正しく再評価されているのだと思います。あとは、種明かしでガッカリすることなく、今作が評判通りに美しい着地を見せてくれることに期待したいと思います。
<文/こじらぶ>
【こじらぶ】
ライター・コラムニスト。上智大学大学院外国語学研究科修了・言語学修士。ドラマ、男性&女性アイドル、スポーツ、エンタメ全般から時事ネタまで。俳優、アイドルなどのインタビューも。X: @kojirabu0419
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