全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
【写真】店内は開放感がありながら、抑制のきいた落ち着いた雰囲気
四国編の第47回は、高知県香美市の「Royal Niboshi coffee stand」。店主の島崎さんが店を構えたのは、ノスタルジックな雰囲気漂う土佐山田駅前の商店街。いまだ昭和の面影が色濃い界隈で、エスプレッソをメインにしたコーヒーショップは異彩を放つ存在だ。当初は、スタンド形式になじみのないお客も多かったが、時間をかけて地元のコミュニティに溶け込み、じわじわと口コミで支持を獲得。いまや市外、県外から訪れる人も珍しくない。「開店時は周りに心配されました」という島崎さんが、10年を超えて店を続けるなかで実感した、“日々そこにあり続けることの大切さ”とは。
Profile|島崎圭介(しまさき・けいすけ)
1981(昭和56)年、高知県南国市生まれ。シアトル系カフェが広がり始めたころにエスプレッソに関心を持ち、高知のグロリアジーンズコーヒーにて4年、バリスタとして経験を積む。2010年頃に、浅煎りのスペシャルティコーヒーの魅力と出合ったのを機に、開店の方向性を得て、2015年、香美市に「Royal Niboshi coffee stand」をオープン。11年を経て、地域に根付いた拠り所として、厚い支持を得ている。
■高知では希少だったコーヒーの新たな選択肢
『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんの出身地として知られる高知県香美市。市街の中心をなす土佐山田駅は、県北東部の物流、交通の要衝として発展してきた。駅前から伸びる、ゑびす商店街は堂々たる道幅で、かつては映画館もあったという。ただ、国道のバイパス整備が進んだことで、往時のにぎわいも今は昔に。平日は人もまばらな、昭和の面影を残す商店街に、11年前、小さな変化の一石を投じたのが「Royal Niboshi coffee stand」だ。「店を始めるなら商店街でと考えていました。車通りが多い道ではなく、人が歩いて行き交う場所がよかった。開店時には、商店街の雰囲気は今のようになっていて、大家さんに心配されたくらい」と苦笑する店主の島崎さん。開店当時、界隈には喫茶店こそあれ、コーヒー専門店やコーヒースタンドなどなかったころ。エスプレッソを主体としたコーヒーショップは異彩を放つ存在だった。
兼ねてから、自分で店を持ちたいと考えていた島崎さん。初めの一歩を踏み出したのは、当時、全国に広がりつつあったシアトル系カフェ。コーヒーの新たな選択肢としてエスプレッソを提供する店は、高知ではまだ希少な存在だった。「漠然と開店のイメージを温めながら、エスプレッソの勉強をしていた。当時は情報源といえば本や雑誌が主で、実際にマシンに触れられる場は本当に少なかったなかで、ここにはセミオートのマシンを導入していて、いち早く扱うことができたのは大きかった」と振り返る。
その後、さらに、いくつかの店で経験を積みながら、県外の店にもしばしば出かけていた2010年頃、知人にもらった福岡・ハニー珈琲のブレンド豆が転機となる。「この時、浅煎りのスペシャルティコーヒーを初体験したんですが、飲んでみて、おいしいかどうかがわからなかった。どう評価したらいいかわからん、というのが初めてのことで、“これが本当に人気なのか?”という疑問を入口に、徐々に風味の多彩さにおもしろさを感じました」
■接客は地域のご近所付き合いの感覚で
福岡での出合いを機に、勤め先の店でも、個人的に浅煎りの豆を使ったエスプレッソの抽出を試し、改めておいしさを実感した島崎さん。ただ、いろいろ飲もうにも、高知にはまだ浅煎りを提案するコーヒー店はほぼなく、地元では探しようがない状況。「それなら、自分で作ろうというのも開店の理由の一つ。味に対する手応えもあったし、お客さんにも体験してほしいなという思いがベースにあります」
開店にあたり、「焙煎については、専門家に任せた方ほうがいいなと感じた」と、仕入れ先を探して関西のロースターを訪ね歩き、浅煎りに定評がある京都のWEEKENDERS COFFEEに依頼。同じく京都の人気店・%アラビカで、当時、最新鋭だったスレイヤーのエスプレッソマシンに惹かれて自店にも設置。高知では初導入となる機体を相棒にして、2015年4月に「Royal Niboshi coffee stand」はスタートした。とはいえ、誰にも宣伝せずスタートしたとあって、しばらくはお客の姿もまばらだったが、当の島崎さんは「いざ開店してみても、最初は誰も来なくてもいいやと。期待はしてなかったら、気にはならなかった」と飄々としたもの。時間がかかったが、それでも、ここにあり続けることで少しずつ界隈に知られ、近所の人がぽつぽつとやってきて、やがて市外、県外からも訪れる人が現れた。移住者が多いこともあり、口コミで広がっていった。
メニューは、エスプレッソを軸に、アメリカーノ、ドリップコーヒーといたってシンプル。通りから素通しの間口の広い空間と、島崎さんの飄々として穏やかな人柄が、心なごむ空気を作り出す。「接客、声出しは苦手で、修業時代はよく怒られた(笑)。どちらかというとあいさつするようなスタンス。お店というより自分の家の感覚でいます」と、常ににこやかな表情を崩さない。店内には、お出かけ途中に立ち寄った着物姿の女性、読書にふける一人客、祭礼帰りの年輩のご婦人たちと、女性を中心に幅広い世代が訪れる。なかには、県西部の須崎からわざわざ通う開店以来の常連も。聞けば、「今日はケーキ目当てで。地域の人、いろんな年代の人と出会えるのが楽しいし、手作りの店の温かみは、店主さんの人柄によるところが大きい」との由。目の前のお客と一杯のコーヒーに向き合って、積み重ねた時間が、この店のくつろぎを生み出している。
■“ここに来る理由”を増やし続けたその先に
見ず知らずの土地での開店だったが、新たな店が続くことが、地域に影響を及ぼすことがある。「うちが続いているのを見て、そのあとに出店する人もいました。自分も隣町から来てるけど、地元の店に行くことでお金が回れば、地域経済が成り立つのでは。最初は何屋かわからず来る人もいて、瓶の蓋開けてほしいとか、電池交換とか、用事で気安く来る人もいて(笑)。でも、とにかく間口の広さをもって、気にしないこと」。ここは、大きく言えば人を呼ぶきっかけを生み出す場。行くべき理由が増えたらより人は来るようになる。島崎さんは、日々、そのフックを増やし続けている。
その中でも、ユニークな試みの一つが、数年前から始まった“山田小町”なる企画。カジュアルに和装して、歩きたくなる町を目指した取り組みだ。「きっかけの一つとして、ここを着物を着ていく場所にすればいいなと思って。着物姿のお客さんの写真をSNSで発信していると、自分も着てみたいという動機も生まれる」という島崎さんも、年間100日ほど着物で店に立ったこともあるという。
この場所に来る理由を作り続けて11年。今は、界隈に新しい飲食店や物販店が点在するようになった。昭和の面影を残す商店街に、投じた一石の波紋が広がっている。それでも、「10年もやってるとは思わなかった。コーヒーショップだけど、コーヒーを前に出してるわけでもない。いつでも開いてて、立ち寄れる存在。その中で日々の小さなハプニングを楽しむ感じ。今ではすっかり習慣になっている」。昼下がりになると、店先を通る学校帰りの子どもが手を振り、なかには窓越しにじゃんけんをしてくる子も。「子どもたちがやってきた時だけリアクションすることにしていて。その積み重ねで、下の代の子どもにも受け継がれて、今でもじゃんけんは続いています(笑)」。不思議な大らかさを醸し出す、商店街の憩いの場は、日々そこにあり続けることの大切さを感じさせる。
■島崎さんレコメンドのコーヒーショップは「くろしお珈琲」。
次回、紹介するのは、高知市長浜の「くろしお珈琲」。「店主の中島さんは、うちのオープン当初から来てくれていた常連の一人。最初に高知市街で独立して開いた店を閉じ、場所を移して新たに立ち上げたのが『くろしお珈琲』です。今までのことにとらわれず、スクラップ&ビルドで、新しいことをどんどん追求している熱量がすごい。近年は、ドリップの大会を自ら主催するなど、高知のコーヒーシーンを盛り上げてくれてる存在です」(島崎さん)
【Royal Niboshi coffee standのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(WEEKENDERS COFFEE)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(スレイヤー)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/あり(600円~)
●豆の販売/なし
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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