1941年、日本はなぜ、戦争へと突き進んだのか?その真相に迫る映画『開戦前夜』が公開中。本作は2025年8月に放送されたNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」のドラマパートの完全版である138分の長編映画だ。『人はなぜラブレターを書くのか』(26)の石井裕也が監督・脚本・編集を務め、池松壮亮をはじめ仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、國村隼、佐藤隆太、江口洋介、佐藤浩市ら実力派キャストが集結。若きエリートたちが導き出した「日本必敗」という未来を知りながら、アメリカとの開戦に向かった理由、そして、当時の日本社会を取り巻く“空気”が緊迫感と臨場感たっぷりに描かれる。
【写真を見る】日本の命運を託された若きエリートたちを、池松壮亮らが力強く体現
劇場公開に先駆けて開催された試写会では、鑑賞した映画ファンから「いまの日本に必要な映画」や「重厚な2時間18分、引き込まれっぱなし」、「おもしろいと言って良いのかわからないがとてもよかった。総力戦研究所というものがあったことも初めて知った」など、単純に作品のエンタテインメント性の高さを発信するだけではなく、過去の出来事としては見過ごせない、いま観るべき作品として捉えた大勢の声が挙がっている。本稿では、映画公式SNSにて実施中の「#開戦前夜みた」感想投稿キャンペーンに投稿されたコメントから、本作の見どころや観客の心に響いたポイントをひも解いていきたい。
■「戦争は突然ではなく人々の選択の積み重ねで始まる」…日本を吞み込んだ、得体のしれない“空気”
1941年4月、日本中から若きエリートたちを集めた「総力戦研究所」が組織される。官僚・軍人・民間企業から選りすぐられた次世代を担う“ベスト&ブライテスト”たちによって構成されたこの組織。その1人として招集されたのが、産業組合中央金庫に務める宇治田洋一(池松)だった。彼らに課せられた任務は、日本がアメリカとの戦争に踏み切った場合の未来を予測すること。立場や信条を超えて、データを基に激しい議論を重ね、何度も戦況シミュレーションを繰り返した末に彼らが導き出した答えは、“日本必敗”という厳然たる結論だった。ところが、この予測は黙殺され、日本は勝ち目のない戦いへと突き進んでいく…。
日本の圧倒的な敗北。このシナリオは当時の軍や政府の間でも認識されていた。にもかかわらず、日本は開戦への道を進むことになる。わかっていても、止められない。本作が描き出すのは、抗うことのできない時代の奔流や同調圧力など、異論を許さない社会の“空気”そのもの。それは決して過去だけの物語ではなく、先の見えない現代社会に生きる私たちにも潜んでいる。だからこそ、本作を自分事として受け止めた観客や、現代の情勢と重ね合わせながら深く考えさせられたという声が数多く寄せられた。
「“必敗”とわかっていながら、なぜ開戦したのか。なぜ止められなかったのか。無知と無責任が重なると空気が変わる。変わった空気は元に戻せない」
「『なぜ戦争は始まるのか』をじっくり描く作品。戦争は突然ではなく人々の選択の積み重ねで始まることを痛感させられる。タイトルの重みが胸に残る。結末がわかっているだけに辛い…考えさせられる一本」
「日本は古くから“空気”を重んじる文化の上に成り立ってきたことを考えると、そうした力学に抗う難しさにも納得してしまう」
「史実を知る現代人である私は、そりゃ負けるよねと観てしまう。でももし、自分が当時を生きていたら、限られた情報しかなく、周囲の誰もが同じ方向を向き、国家が『やるしかない』と語るなかで、私は本当に違和感を持てただろうか。異論を口にできただろうか」
「いろいろと“話題”になっている作品です。作品が示すのは『誰もが予測していた悲劇』をなぜ防げなかったのか、という一点。SNSやAIが生む多様な“話題”と情報判断が揺らぐ現代だからこそ観るべき作品だと思う。この理解は視点の一つとして持っておきたい」
■「真摯な葛藤や緊迫感から、1人の人間としての責任を考えさせられる」…若きエリートたちが繰り広げる緻密なシミュレーションと熱い信念
総力戦研究所では、選ばれたエリートたち一人一人に、内閣総理大臣や海軍大臣、陸軍大臣など実際の政府を模した「模擬内閣」として役割が割り振られ、軍事力、経済力、工業生産力など多角的な視点から緻密なシミュレーションが行われていく。開戦か、避戦か。日本の命運を左右する問いを前に、彼らの激論は日を追うごとにヒートアップしていく。自由な思想や発言が命取りとなりかねない当時。彼らが交わす言葉の一つひとつには、単なる机上の分析ではなく、日本の未来を背負う覚悟が込められていた。あくまで予測に基づくシミュレーションではあるが、資源に乏しく、経済制裁によって追い詰められていた当時の日本の状況や、戦争によって生じる損害を示した膨大なデータには現実を突きつける説得力がある。若きエリートたちそれぞれが命懸けでこのプロジェクトに取り組み、国や国民、日本の未来を想って声を挙げる姿は、観る者を深く引き込んでいく。彼らの揺るぎない情熱や葛藤、そして、言いようのない“空気”に立ち向かう深い苦悩。その濃密な人間ドラマに心を動かされたという声も数多く確認できた。
「当初は水掛け論ばかりだった模擬内閣が、白熱しながらも建設的な議論をするチームに変わった瞬間は、胸熱でした」
「若きエリートたちの真摯な葛藤や見事な緊迫感から、1人の人間としての責任を考えさせられ、まさに“いま”を試される物語だと思う」
「結末を知った上で見ると、池松壮亮や仲野太賀ら若きエリートたちが発する“沈黙”や“視線”の重みにより一層深く突き刺された。“日本必敗”のデータが時代の空気に飲み込まれていく恐怖。いまこそ見るべき傑作」
「立場の異なる人たちそれぞれの信念と葛藤の揺らぎがより伝わったし、いままさに問題視されている分断社会にも言及されていて痺れたな…この完全版を観る前の景色にはもう戻れない」
■「人々の緊張感と切なさが深く胸に刺さる」…開戦か、避戦か。日本の未来を懸けた手に汗握る駆け引き
シミュレーションを重ねるほど、アメリカとの戦争がいかに無謀な選択であるか見えてくるが、その裏側で日本はすでに開戦を見据えた軍事行動を着々と進めていた。模擬内閣で内閣総理大臣として任命された宇治田は、過去のトラウマから当初は議論に加わることに消極的だったが、“日本が破滅するほどの敗北をする”という衝撃的な予測を導き出したことで、なんとしても戦争だけは避けなければならないと決意を固める。全身全霊で戦争回避を訴える宇治田と、その想いに共鳴する樺島茂雄(仲野)、村井和正(岩田)ら研究所の仲間たち。一方で、彼らの動きを牽制する軍上層部。この緊迫したせめぎ合いは、本作の大きな見どころの一つだ。
「国家の理想の裏で、個人の小さな幸せが押し潰されていく不条理。まだ引き返せたはずの選択肢と、抗えない巨大な濁流。その狭間に立つ人々の緊張感と切なさが、深く胸に刺さりました」
「気迫に圧倒されました。気が付いたら涙が」
「開戦を支持した背景、期待していた着地点をいろんな側面からもっと知りたくなる物語でした。武力行使という手段が、国家の意思表示としていまより身近だった時代のピリピリした空気が漂う」
「衝撃作、問題作には違いない。でも開戦を特定の人たちが、導いたとは言い難い。プロパガンダもあっただろうけど、乗ったのは国民1人1人」
■「太平洋戦争直前の日本にタイムスリップしたかのような没入感」…実力派キャストの競演
宇治⽥役の池松壮亮をはじめ、飄々とした佇まいで一貫して反戦の立場を貫く同盟通信社政治部記者の樺島を演じる仲野太賀、海軍少佐としての立場を持ちながらも開戦には慎重な姿勢を見せる村井役の岩田剛典ほか、総力研究所の若きエリートたちを演じたキャスト陣らは未来を変えようとする情熱や葛藤など、国家の行く末を背負う覚悟を、若さほとばしる演技で力強く体現している。
さらに、陸軍中佐で総力研究所設立の考案者の一員でもある瀬古明役の佐藤隆太、後に内閣総理大臣となる陸軍大臣の東條英機役の佐藤浩市、東條の側近で西村良穂役の江口洋介ら実力派俳優たちも集結。開戦へ向けて進む“空気”のなかで、それぞれの立場や信念の間で揺れ動き、憂慮する複雑な内面を圧倒的な存在感で表現している。豪華実力派キャスト陣が織りなす重厚な演技に称賛の声も数多く上がっている。
「太平洋戦争直前の日本にタイムスリップしたかのような没入感。エンドロールまであっという間で、池松壮亮さんの繊細な演技が圧巻でした。85年前に実在した日本の若きエリート集団。彼らの魂の叫びに胸が震えました」
「海軍少佐村井和正役の岩田剛典さんが、スクリーンの中で白い制服がひときわ目立っていた。台詞、仕草、立ち姿何もかも素敵で光っていた。胸を打たれた」
「若手の俳優さんもすごいけど、ベテラン俳優さんの熱量が半端ない。三浦貴大さんめっちゃ良かった」
「佐藤浩市さん演じる東條英機の凄みが、この映画の価値を一段階上げている」
「宇治田洋一の妹役に二階堂ふみさん、昭和天皇役は松田龍平さん。ほかにも挙げきれないぐらい有名俳優が出ていて、これだけでも観る価値あるさすがの布陣だった」
なぜ日本は無謀な戦争へと突き進んでいったのか?映画『開戦前夜』で描かれるその光景はどこか現代社会とも通じるところがないだろうか?戦後80年が経過し、社会情勢が不安定さを増す現在。決して遠い過去の出来事ではなく、自身の未来について考え、「いまは“開戦前夜”なのか?」とその警鐘を受け止めた観客たちの声を最後に紹介したい。
「なぜ負けるとわかっていながら真珠湾攻撃に踏み切ったのか。なぜ政府や軍部は、専門家の警告を無視して破滅へと向かう道を選んだのか。日本全体が戦争へと突き進んでいく空気に呑み込まれ、合理が、非合理に敗北する。恐ろしいほどいまの日本と重なる」
「『歴史を学ぶ』というよりもむしろ、『歴史から何を学ぶのか』を考えさせてくれる作品。我々を吞み込もうとする得体の知れない怪物は昔話ではありません。いま、私たちが直面している現実でもあります」
「戦争の現実を伝えようとする者たちがいる一方で、それでも突き進んでしまう。胸に重くのしかかるものがあり、様々なことを考えさせられた。過去の出来事だからこそ、いまを生きる自分たちは、そこから学ばなければならないと思う」
「誰かが決定的に悪という訳ではなく、もしかしたら誰も望んでいなかったかもしれない戦争。いま大人である私には戦争をしないという責任があると思った」
「単なる歴史劇ではなく、現代の私たちが直面している“組織と個人のあり方”を強く問いかける物語。豪華な俳優陣の熱量の演技合戦に魅入ってしまった重厚な2時間18分。今年で戦後81年。いつまでも戦後でありますように…」
構成・文/平尾嘉浩
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