愛の名のもとに、密室で起こるキモさが恐ろしいホラー「ブリング・ハー・バック」&「オブセッション災愛」【二村ヒトシコラム】

「オブセッション災愛」

愛の名のもとに、密室で起こるキモさが恐ろしいホラー「ブリング・ハー・バック」&「オブセッション災愛」【二村ヒトシコラム】

7月29日(水) 16:00

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作家でAV監督の二村ヒトシさんが、恋愛、セックスを描く映画を読み解くコラムです。今回は、気鋭のスタジオA24の新作ホラー「ブリング・ハー・バック」と、Youtuber出身の新鋭監督の長編初監督作で、世界的ヒットを記録している恋愛ホラー映画「オブセッション 災愛」。“愛”のゆがみの恐ろしさを描いた2作品を二村さんが考察します。

※コラム本文にはネタバレ描写を含んでいます。

とても気持ちのわるい青春映画が2本続けて公開中です。どちらもアメリカの映画です。「ブリング・ハー・バック」はA24制作。あまりにも気持ちわるすぎて、観た人の評価は真っ二つにわかれてますね。「オブセッション災愛」はブラムハウスが制作。低予算ながら本国では大ヒット。全米が気持ちわるがったというわけです。(あらすじは、それぞれの作品リンク先をご覧ください)

うかつに「気持ちわるい青春映画」と書いてしまいましたが、そもそも多くのホラー映画の名作や迷作の裏テーマは「青春と性」だったりしました。湖畔でキャンプしたり恋愛やセックスをしまくってるリア充の若者たちは一人一人残虐に殺されていく。

思春期の不安や性の抑圧が、夢や無意識の中で怪物に生まれ変わり、静かな町や学園で惨劇が起こる。若者たちが逃げても逃げても死は追いかけてくる。その惨劇は、だいたいエロい。

映画俳優が演じる美しい若者たちを追いつめて、物のようにぐちゃぐちゃにしたり切り刻んで放置したり食べちゃったりする怪物や殺人鬼やゾンビや死神は、むしろ映画の観客である不充足な若者たちの分身だったと言えるかもしれません。

古典ではありませんけど「イット・フォローズ」(2014)は、まったく青春映画の傑作でしたね。恐怖の実態は何なのか最後までよくわかりません。ショッキングなシーンもそんなにあるわけじゃない。しかし、ただ怖い。セックスということをしてしまい、つまり他人と関わってしまい、すこし大人になってしまった以上、怖いものはずーっと後をつけてくる。哲学的ですけど実感もついてくる映画でした。

セックスそのものが怖いのではなく、なぜ子どもは大人になるときに(つまり、いわゆる青春を体験するときに)セックスをしたくなるのか。なぜオナニーだけじゃ不充足で、親ではない他人にかまってもらうことを必要とするのか。その内側にものすごく怖いものがある。わかりにくいからこそ気持ちわるくて怖い。

▼恋人同士で観てほしい「オブセッション災愛」

「オブセッション災愛」も同じ意味で青春映画でしたね。セックスもちょっと出てきますけど、テーマは性というより、もろ恋愛。他人に恋すること。

「イット・フォローズ」とちがうのは、呪いの要因は明らかなんです。よいことを祈ってしまったから最悪なことが起こる。怪談の定型です。じゃあ祈らなかったら惨劇は起きなかったのか。そうかもしれませんが、でも恋しちゃったとき人間は誰でも祈りますよね?祈らなかったらそれは恋じゃないんじゃないですか?

だとしたら「あれ」を設定したのは、たんに映画としてわかりやすくするためであって(じっさい「イット・フェローズ」より「オブセッション災愛」のほうが、だいぶわかりやすい映画です)、現実の恋では何に祈ったって、それで恋愛という現象が生じてしまったら最後です。どんな意味にせよ何らかの災厄は起きる。「あんなものに祈らなければよかったのに」は通用しない。とにかく祈ったり欲望したりするとまずい。しかし恋とは相手を欲しがる欲望である。あ、詰んだ。

全米を気持ちわるがらせたのは(商業的に成功したのは)そんな哲学性を前景に出さず、エンタメとしてのホラーに徹底したからでしょうね。めちゃめちゃ気持ちわるいんだけど、気持ちわるさに身に覚えがあり、笑かしてくれるんです。キモすぎて笑うしかないともいえる。

でも、あなたが「オブセッション災愛」を恋人と一緒に観ていて、おそろしさのあまり笑っちゃったとしたら、隣りにいる恋人はいやな気持ちがするかもしれない。ていうか観たあとで二人で「こわかったねー」とか「でも意外と笑えたねー」とか言いあいたくなりますけど言うのが困難な映画です。気まずい。こわさをまぎらわすためのセックスもしにくい。

しかしそれでもやっぱり恋人同士で観てほしい。何のために二人で観るのかというと、気まずくなってもいいから「恋愛って何なんだろう。恋って、もしかしたら呪われてるんじゃないだろうか」なんてことを二人で話し合って真面目に考えるためです。そんな話をしたいのか、したからといって何になるのかはまた別の問題ですが。

▼“親”というものとの関係、葛藤を描く容赦なくキモい映画「ブリング・ハー・バック」

「ブリング・ハー・バック」は青春そのものがキモいのではなく、テーマも恋愛ではありません。子どもや若者が大人になるときブチ当たらざるをえない「親が考えてることや行動」「親の秘密」との葛藤の映画です。

親(のような立場のキモい大人)のキモさ、二言目には「あなたのためよ」と言ってやることは、子どもや若者の目には、宗教的な儀式に見えるかもしれない。それは邪教の儀式かもしれない。そういうホラー映画の傑作に「ヘレディタリー継承」(2018)がありました。思えばA24という配給制作会社の存在感を映画界に知らしめた作品でもありました。

そしてさらにその40年近く前に、いまだ古びていない古典的名作「シャイニング」(1980)があります。怪物化するお父さんはお酒が大好き、というより酒を飲まないとやってられない大人です。そして「ヘレディタリー継承」の母親たちは宗教に助けを求めなければやっていけない大人たちです。これを書いてる僕は大人ですが、大人って不思議ですね。

「シャイニング」の少年は、一種の超能力としての社会不適応性(発達障害性と言ってもいいと僕は思います)をもつ。それを使わないと怪物から(親との関係から、世の中から)逃げることができない。

「ブリング・ハー・バック」で気持ちわるいのは、「シャイニング」のような父でもなく(実の父の気持ちわるさも出てきますが)、「ヘレディタリー継承」のような母たちでもない。誰がキモいのかというと、よそんちの何を考えてるかわからない子どもと、親切なよそのおばさんです。おばさんを演じるのは、半魚人ものと純愛ものを結合させた怪作「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)で言葉が不自由な愛すべき主人公を演じたサリー・ホーキンス。

「ブリング・ハー・バック」は評価がわかれると最初に書きましたが、「オブセッション災愛」みたいな笑える要素が一切ないんですよ。「WEAPONSウェポンズ」(2025)は、親から見た実の子どもたちの行動が謎すぎてキモいという趣向で、恐ろしかったですけどラストは爆笑しました(あれ、監督は笑いを狙っていたと思います)。

でも「ブリング・ハー・バック」はそういう感じじゃない。とにかく徹頭徹尾、容赦なくキモい。キモさのあまり笑っちゃうことも許されないし、さらにそれを超えるキモさが襲ってくる。こういう恐ろしいことが現実にあるらしい、というのはインターネットなんかで知ってはいたが、もちろん見たことはなかった。そんなグロいことを初めて体験する。

怪物的な何者かが登場して以降だけでなく、サリー・ホーキンスの強烈な異常演技だけでなく、主人公たちの日常を描いていく最初から、なんというか、すべてのカットが不穏でエモ気持ちわるいのです。監督たちは、気持ちわるいものを気持ちわるいまま撮ることから逃げてない。逆説めきますが、この映画のスタッフたちは心優しい人たちなんだろうなと思いました。そうでなかったらこんなふうに正面から撮ることはできない。

僕は基本的には笑えてしまう映画が好きなんですけど、まったく笑えないほどキモい「ブリング・ハー・バック」くらいまでやってくれるなら、これはこれでいい映画だと思いました。

なにが青春だったかというと、主人公兄妹のお兄ちゃん(ビリー・バラット)の屈託と悲しみですね。そして妹は視覚障害者です。おそろしい物語の主人公が目が見えないという設定は昔からわりとよくありますが、だいたい有名な美人女優が盲人の演技をしてましたよね。「ブリング・ハー・バック」の妹を演じる新人女優ソラ・ウォンは実際に視力障害がある人です。彼女の存在感、すばらしいです。「本物を出しときゃそれでいい」ということではない。この彼女にしか演じられない役だったと思います。

恋愛も、家族(や、血は繋がっていなくても家庭のような場所)も、なにが恐ろしいって、密室なんです。そこでは愛の名のもとに、どんなキモいことでも起こりえる。

あなたが恋をしてるなら、ぜひその相手と二人で「オブセッション災愛」を観てください。キモすぎてフラれるかもしれませんが。あなたが「親の愛って何だろう」「家族って何だろう」って普段から疑問に感じているなら、ぜひ夜中に一人で「ブリング・ハー・バック」を観てください。キモすぎて吐くかもしれませんが。

【作品情報】
オブセッション災愛

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