映画監督の柳明日菜が監督、脚本、主演を務める新作映画「ちいさな石のリオ」を製作していることが7月28日、分かった。京都・祇園会館を舞台にした作品で、柄本明、松坂慶子、浅田美代子、竹中直人、加藤雅也、小沢仁志らが出演する。撮影はすでに始まっており、今冬にも京都で追加撮影を予定。柳監督はクラウドファンディング(https://www.glocal-cf.com/project/rio)を立ち上げ、作品の完成に向けた支援を募る。(取材・文/平辻哲也)
熊本県出身の柳は、高校在学中に初監督作「レイニー ブルー」を企画し、脚本、主演も担った。同作は、名優・笠智衆の故郷でもある熊本県玉名市、玉東町が舞台。映画同好会のたった一人の部員で、笠に憧れる17歳の少女・中山蒼が、部室で見つけた古びた脚本をきっかけに想像を膨らませながら、卒業後の進路や父親、教師、同級生との関係に揺れる日々を描いた青春群像劇だ。高良健吾ら、熊本出身の俳優が出演。多くの映画祭に招待され受賞も果たす。2025年に劇場公開され、日本映画監督協会の史上最年少の会員となった。
1本の映画を企画し、脚本を書き、撮影、編集を経て観客に届けるまでの厳しさを知った。一方、映画製作の過程では予想もしなかった出来事で傷つき、映画から離れたいと思ったこともあったという。転機になったのが、「レイニー ブルー」を見た人物から寄せられた「京都の祇園会館のドキュメンタリーを撮らないか?」という提案だった。
祇園会館は1958年、八坂神社前に建てられた。1階には映画と演劇に対応できる約500席の大劇場を備え、長年、映画館として親しまれてきた。現在も、京都五花街のひとつ・祇園東の芸舞妓が出演する秋の舞踊公演「祇園をどり」の会場となっている。かつてはディスコやホストクラブも入り、京都の中心で時代の変化を見つめてきた建物でもある。
柳は何度も京都へ通い、館内をカメラに収めた。古い劇場に積み重なった時間や、人々の夢と記憶に触れるうちに、祇園会館を単なる建物ではなく、一つの大きな「いのち」のように感じるようになったという。
「この場所を映画に残したい、そして再生させたい!」
その思いが、柳の中で再び映画を撮る理由になった。祇園会館の歴史と、以前から温めていた、形を変えながらめぐり続ける小さな石の物語が結びつき、「ちいさな石のリオ」の企画が動き出した。しかし、撮影を始めて約4カ月後の2025年8月、劇場を支えてきた「よしもと祇園花月」が撤退。祇園会館の劇場としての先行きが模索される中、11月に出資社の一方的都合で映画製作は突然打ち切られた。
それでも、柳は一度思い描いた映画を忘れられなかった。製作再開の見通しがないままパソコンに向かい、自身が経験した痛みや葛藤、祇園会館の存続を願う気持ちを盛り込んだ脚本を書き上げた。完成した脚本を、中止された企画に関わっていたプロデューサーに送った。返ってきたのは「面白いね、今どき」という言葉だった。その人物が、北野武、竹中直人から藤井道人まで長年多くの監督を世に輩出してきたプロデューサー奥山和由氏であった。
奥山氏の働きかけで出演交渉が進み、日本映画界を代表する俳優たちの参加が決まった。
本作の大きな特徴は、ドキュメンタリー、ドラマ、アニメーションという三つの表現を、一つの物語に組み込む点にある。柳が実際に祇園会館へ通って撮影した映像では、館内に残る時間や人々の記憶を記録する。その現実の映像に、創作の現場で傷ついた若い映画監督が再び映画を作ろうとするドラマを重ねる。さらに劇中では、アニメーション作家・外山光男氏が手がける、小さな石・リオの物語が上映される。
現実の祇園会館、そこで映画を作ろうとする若い監督、風に吹かれながら形を変えていく小さな石。一見異なる三つの世界が、「命は巡る」という主題で結びついていく。ドラマの主人公は、創作の現場で深く傷つき、自分が何を作りたかったのかさえ見失いかけている若い映画監督・柳。かつて1本の映画に心を揺さぶられた祇園会館を再び訪れ、劇場を守り続ける人々と出会う。
柄本が老いを抱えながら劇場を守る支配人、松坂が元芸妓、浅田がかつて「ちいさな石のリオ」を世に送り出した映画監督、加藤が映画プロデューサーを演じる。小沢は祇園会館を狙う地上げ師、竹中は劇場の行く末を見守る男、安光隆太郎は若い映写技師役で出演する。柳自身も主人公を演じる。
登場人物たちは、変わりゆく時代の中で「終わっていくもの」と向き合いながら、それでも消えきらない思いを抱えて生きている。その姿に重なるのが、劇中で上映されるアニメーション映画「ちいさな石のリオ」だ。風に吹かれ、誰かと出会い、寄り添い、やがて形を変えていく小さな石・リオの旅を描く。祇園会館に蓄積された時間を捉えるドキュメンタリーは、失われようとする場所を記録する。柳自身の経験を投影したドラマは、傷ついても映画を作ろうとする人間を描く。そこに、命や記憶が形を変えながら受け継がれていくアニメーションが重なる。
3つの表現をひとつの作品の中で交差させ、場所と人と記憶が次の誰かへ手渡されていく姿を描き出す。
撮影は現在も進行中で、今冬にも熊本で追加撮影を予定している。7月28日に始めるクラウドファンディング(https://www.glocal-cf.com/project/rio)で集まった資金は、これまでの準備・撮影費、今後の撮影費、アニメーション制作費、編集費、配給・宣伝費などに充てる。2027年秋ごろには、ロケ地の祇園会館で先行試写会を開く予定だ。
柳監督は「AIコンテンツの時代に、生身の人間による劇映画の力を信じたい」と訴える。「もし、この映画が作れなければ、私は永遠に映画界から去るべきだと思っています。この『ちいさな石のリオ』を、大好きな祇園会館で映画にさせてください。この脚本に、命を吹き込ませてください」と強い覚悟を示し、支援を呼びかけている。
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レイニー ブルー
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