埼玉県警捜査一課で22年間警察官として勤め上げ、うち最後の10年間を刑事として過ごした
佐々木成三氏。40歳の2017年に退職し、現在はニュース番組やバラエティ番組など、数多くのメディアに出演している。刑事時代の経験をもとにした、現場のリアルを伝える解説で注目を集めている、人気コメンテーターだ。
「元刑事」「元捜査一課」といった肩書きで活動している佐々木氏に、刑事を目指したきっかけから取調べの哲学など、その人柄と仕事観を深く掘り下げた。
小学4年生の原体験が、刑事への道を拓いた
——まず最初に、刑事時代の話から伺いたいと思います。刑事を目指したきっかけを教えてください。
佐々木:小学校4年生のときの体験が、すべての始まりです。岩手県の高校野球大会を観戦した帰り、ベンチにビジネスバッグが置いてあるのを見つけました。「誰かに届けてあげたい」という一心で、名前の書いてあるものを探そうとバッグの中を探っていたところ、持ち主のおじさんが走って戻ってきて、猛烈に怒鳴られてしまいまして……。
そのおじさんの“大人の威圧感”に圧倒され、自分がしようとしていたことを何も言えないまま、父親まで呼ばれて頭を下げさせてしまった。「悪いことをしたわけじゃないのに」という悔しさで大泣きしました。そのとき、泥棒にされてしまったような気持ちになってしまったんです。
そのとき救ってくれたのは、5歳上の兄でした。泣きながら「泥棒なんかしようとしてない、名前の書いてあるのを見ようとしただけだ」と話したら、兄だけが信じてくれた。その体験がずっと心の中に残っていたんです。
——それがどのように刑事志望につながったのですか。
佐々木:その記憶がずっと残っていたのですが、高校生になってふと振り返ると、あのおじさんの気持ちもわかるようになっていました。知らない子どもが自分のバッグを探っていたら、誰だって勘違いする。でも、あのとき誰かが「なぜそうしたのか」を聞いてくれていれば、状況は変わっていたはずです。
子どもは経験や知識が少ないから選択肢が限られます。一方で大人は知見があるがゆえに先入観を持ってしまう。そのすれ違い、ミスコミュニケーションが非行や犯罪につながることもある。
「そこに気づける大人になりたい」「そういう仕事をしたい」と思ったのが、警察官を受けることにしたきっかけでした。
「嘘を見抜く」のではなく「嘘を認めてあげる」
——そして刑事になられて、実際に取り調べをする側となった際、どういったことを心がけていましたか?保身のために嘘をつく人もいると思うのですが……。
佐々木:取り調べでは、嘘を見抜こうとはせず、
嘘を“認めてあげる”という姿勢を大切にしていました。取り調べの中で嘘だとわかっても、そこでいちいち「それは嘘だろう」と指摘しない。それは、証拠もないのにそう言われた相手は、その時点で心を閉ざしてしまうからです。あの小学校4年生のときの自分が、怒鳴られて何も言えなくなったのと同じことだと思います。
そのかわりに言うのは「嘘をついているときって、つらくなってくるよね」という一言です。嘘はだめだと責めるのではなく、嘘をつき続けることが自分自身のためにならないということに、相手自身が気づくように促す。
取り調べの目的は反省させることではなく、事実を述べさせることだと思っているので。取り調べで「感情的に追い詰めてはいけない理由」
——刑事ドラマを見ていると感情的に追い詰めるシーンも見たりしますが、そういったことはしないのですか。
佐々木:感情的になることは絶対にしてはいけないと思っています。こちらが怒れば、相手は「この人も自分と同じ土俵に乗っている」とわかってしまう。そうなると、怖いとも感じないし、心を開こうともしません。
ただ、戦術として声のトーンを変える場面はあります。ずっと「森田さん」と呼んでいた相手に対して、ここぞという場面で「森田、それは違うんじゃないか」と切り込む。自分の行動を人のせいにしているときや、被害者を否定するような発言をしているときに、冷静に、でもしっかりと問いかける。これは怒りではなく
取り調べの戦術です。
嘘を認めた容疑者に伝えること
——そういった取り調べで、相手が嘘をついていたことを認めたとき、佐々木さんはどういったことを伝えるのでしょうか。
佐々木:取り調べで相手が嘘や間違いを認め、「すいませんでした」と謝ってきても、「俺に謝らなくていい、その言葉は被害者に向けてくれ」と言っていました。再犯をなくすために本当に大切なのは、反省を促すことではなく、
犯罪をすることに自分にとってメリットがないと気づかせることだと考えています。後輩から「プライドないんですか?」と言われたことも
——それでは、刑事時代に印象的だった事件や取り調べについて教えてください。
佐々木:少年のリンチ殺人事件を捜査していたときのことです。事件を立証するために必要な16歳の少年から話を聞かなければならなかったのですが、約束しても逃げられてしまって……。ようやく少年が住んでいる近くのマクドナルドで会ってもらえたとき、相手は悪態をつきながら私を呼び捨てにしてきました。
当時一緒に組んでいた23歳の後輩巡査は、そのことにイライラしていまして。取り調べ中にその巡査がいると状況が悪くなると思い、一旦その巡査に外に出てもらって、私一人で話を聞くことにしました。必要な情報を聞き終えて帰るとき、後輩巡査が
「佐々木さんはプライドがないんですか?」と言ってきたんです。
そのとき私は
「ここで相手に意地を張っていたら、情報はもらえなかった」ということを伝えました。私たちは被害者遺族のためにやっている。個人のプライドでやっているわけではないんです。
***
佐々木氏の刑事人生には、この取り調べの哲学さえ揺るがす大きな転機があった。被害者遺族からかけられた忘れられない一言、そして40歳で警察を辞めた理由。次回は、現在も貫く「犯罪を生まない環境づくり」への思いに迫る。
取材・文/セールス森田
【セールス森田】
Web編集者兼ライター。フリーライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント
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