城定秀夫監督の「藁にもすがる獣たち」の撮影が、閉館したばかりの丸の内TOEIで行われた。その4日前、高倉健、吉永小百合共演の「動乱第1部 海峡を渡る愛/第2部 雪降り止まず」の上映をもって、丸の内TOEIは65年の歴史に幕を下ろしたばかり。吉永小百合も駆けつけ、感動のフィナーレを迎えたところだった。
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【フォトギャラリー】血だらけの成宮寛貴と青木マッチョの姿など白熱した現場の様子
聞くところによるともう取り壊しになる劇場ゆえに、逃走車を実際に突っ込ませて、破壊された劇場での大アクションシーンになるという。そんな感動と郷愁と好奇心がうずまく場所での撮影。人々が興味を持たないわけがない。舞台となった一階席、二階席合わせて511席を有する丸の内TOEI①には、普段の撮影現場取材ではありえない数の記者が集まり、クーラーの出力を上回る熱気に包まれていた。(取材・文/関口裕子)
原作は、江戸川乱歩賞作家・曽根圭介の同名小説だが、映画版の主人公はチャンネル登録者数わずか2ケタの大学生 YouTuberと、大いに若返っている。バイト先のネットカフェで1億円の入ったボストンバッグを見つけた、祖母と二人暮らしの大学生・佐藤寛治(鈴鹿央士)が、なんでもありの1億争奪戦に巻き込まれるループ型痛快ノンストップ・サスペンス。
1億円を抱えた寛治を追うのは、裏社会と繋がる不良警官の江波戸良介(成宮寛貴)、破天荒で怪し気な悪女し~な(森七菜)の2人。寛治を加えたこの3人がそれぞれの事情と思惑から人の道を外れて突き進んでいく。
1億円を追うのは彼らだけじゃない。夫のDVに耐えながら夜の店で働くワケあり主婦の庄田美奈(MEGUMI)、美奈にガチ恋をする客の武藤真哉(前田旺志郎)、良介を容赦なく追い詰める郷田組組長の郷田巌(岩松了)、郷田の舎弟ながら警察である良介にも情報を漏らす、良く言えば二重スパイのビビりなチンピラ・デメキン(二ノ宮隆太郎)、 郷田の懐刀で怪力なおかっぱ男エリンギ(青木マッチョ)、腹の底の見えない刑事の肥後勝次(小手伸也)、 そして認知症の疑惑がありながらもどこまで本気か分からない寛治の祖母・富子(風吹ジュン)が絡み、欲望のままにテンポよく1億円を追っていく群像劇となる。
■閉館4日後の丸の内TOEIにうごめく撮影舞台は!?
丸の内TOEI①で上映されているのは「仁義なき戦い」。劇場内は8割がた観客で埋まっている。そこに後部扉から「仁義なき戦い」のポスターごと突っ込んでくるのは、予告編にも登場する黄色いデメキンの愛車。スモークや火花の調整、観客役エキストラや俳優の安全面も配慮し、もろもろのタイミングをはかって撮影スタート。車が突っ込んでから、何が起きたのか状況が瞬時にわからず、ワンテンポ遅れて逃げ惑う人々の反応がリアルだ。本作のエキストラは妙にうまい。と思いきや、アクション部がスタントを演じていたり、東映の撮影所や営業の社員も含まれているという。映画館に直接関わる機会が少なかった社員が、丸の内TOEIへの愛を再確認する1日ともなったようだ。
郷田から逃げる良介とデメキンの乗る車。その後部座席に隠れていたエリンギによる狭い車内での命がけの乱闘。最後は劇場に突っ込み、血まみれになった3人のチェイスが始まる。
上映中の「仁義なき戦い」を背景に、彼らが逃げ回る姿に、はからずもグッときてしまう。最後の最後、映画館の中で行われる映画の撮影風景を見ることができるなんて果報なこと。丸の内TOEIで見たさまざまな映画との出会いをも思い出した。良き時間をすごすとはどういうことなのか?いずれにしても分かったのは、夢の時間は短いということだ。
エリンギが、ボルトごと外した劇場のシートを良介に投げる。いくらワイヤーで吊っているとはいえ、投げ飛ばしたシートが宙を飛ぶのはインパクト大だ。近くにいた観客が悲鳴を上げて逃げ惑う。その間を縫うように、背もたれの上をヒョイヒョイ渡って追いかけていくエリンギの姿は迫力満点。そんなチェイスをスマホで撮影する人々が描かれる、いかにも現代的な場面は、城定監督の即興なのだそう。
■丸の内TOEIが映る最後の激しい撮影を終えて
そんな激しいアクションシーンにもかかわらず、無事に丸の内TOEIでの撮影を終了したところで、良介を演じた成宮寛貴は、「マッチョさんの一撃の当たりが想像以上に強くて驚きました(笑)。でも調整してくださって一つもケガなく、今のところ生きています(笑)。最後までなくケガなく終われればいいなと思います」。
そして、「この劇場に最後にうかがったのは『相棒劇場版III 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ』(2014)の完成披露だと思います。こんな歴史ある劇場を、ぶっ壊す設定でタイミングよく使わせていただくことができて本当に光栄です」と思い出とともに感謝を口にした。
エリンギを怪演したお笑い芸人でもある青木マッチョは、筋トレをして普段以上に筋肉を大きくしたとか。「映画館でやってはいけないことを全てやりました。やっちゃいけないことをするのって、やっぱり楽しいですね」。
デメキンを演じた二ノ宮隆太郎は、「丸の内TOEIは、何度も映画を見せていただいた本当に思い出のある映画館。まさかここで演じるなんて、本当に夢見心地です」。
城定監督も「僕も、この映画館には何度も足を運び、ラスト上映の際にもうかがいました。本当にこんなことしていいのかなと思いつつ、このタイミングに撮影がぶつかったのも運命だと思うので、改めて面白いものにしようと肝に銘じました。本作は、僕の思う娯楽の要素を全て詰め込んだ作品です。あまり深く考えずに楽しんでいただけたらと思います」。
「藁にもすがる獣たち」は、9月25日から全国で公開。
【作品情報】
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藁にもすがる獣たち
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©曽根圭介/講談社©2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会