世界中で愛されている人気キャラクターのポパイが、殺人鬼になって大暴れする映画『ポパイ・ザ・スレイヤー・マン』が公開中だ。原作の著作権保護期間の満了によって実現した本作は、“パチモノ”レベルを超えた再現度で実写化された楽しいホラーエンタテインメント。そんな本作の公開にあたり、原作漫画の誕生からまさかの殺人鬼キャラへの変貌に至るポパイにまつわるあれこれを振り返ってみたい。
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■初登場はゲストキャラだったポパイ
夜ごと港をさまよい、獲物を探す殺人船乗りの都市伝説が語り継がれる港町。その都市伝説をドキュメンタリー映画にしようと考えた大学生のデクスター(ショーン・マイケル・コンウェイ)は、密かに思いを寄せるオリビア(エレナ・ジュリアーノ)や友人たちと港近くの廃工場に忍び込む。そんな彼らの前に黒い影が現れ…。
ポパイがデビューしたのは1929年のこと。エルジー・クリスラー・シーガーによる新聞の連載漫画「シンブル・シアター」(1919年に連載スタート)で、最初はゲストキャラとしての登場だった。もともとの主人公はハム・グレイヴィという男性で、ポパイは彼に雇われた水兵というポジション。しかし、ポパイの陽気でマッチョなキャラクターが瞬く間に人気となり、主人公の座だけでなく、恋人オリーブまでさっそうと奪ってしまい、作品タイトルも「ポパイ」になったという。
1931年からはほうれん草を食べるとパワーアップするおなじみの設定も加わる(初期の頃はキャベツを食べていたほか、ポパイの先祖はニンニクのにおいでパワーアップしていたというエピソードも存在する)。作品の人気に比例するようにほうれん草の消費量が増えたばかりか、野菜嫌いだった子どももほうれん草を食べるようになったというほどの影響を及ぼした。
■映画館で上映される短編アニメから世界的人気キャラに
そんなポパイを世界的人気キャラに押し上げたのがアニメーション。まだ家庭にテレビがなかった当時、映画の添え物として映画館では、数本の短編アニメが上映されていた。ポパイは1933年の人気アニメ「ベティ・ブープ」シリーズの一本として『船乗りポパイ』のタイトルでスクリーンデビュー。親しみやすくケンカも強いポパイと優柔不断な恋人オリーブ、ライバルの乱暴者ブルート、ハンバーガー好きの怠け者ウィンピー、ポパイが養子に迎えたいたずらっ子スウィーピーなど個性豊かなメンバーのドタバタ劇が話題を呼び、次々と短編アニメ映画が公開され大衆に親しまれていった。
「ポパイ」シリーズを製作したのは、マックスとデイブのフライシャー兄弟によるフライシャー・スタジオ。世界初の音声付き長編映画として知られる『ジャズ・シンガー』(27)以前に独自のトーキー短編を複数発表したほか、俳優の動きをトレースするロトスコープの開発、手書きアニメとミニチュアを組み合わせ立体的な奥行きを表現するなど、映像制作の可能性を広げた先鋭的なスタジオだ。「ベティ・ブープ」や「スーパーマン」といった人気シリーズも手掛けたフライシャー・スタジオはディズニーのライバルとして人気を誇り、「ポパイ」もその原動力の一つになった。ちなみに、『海底二万哩』(54)や『ミクロの決死圏』(66)、『トラ・トラ・トラ!』(70)など大作映画を手掛けた巨匠リチャード・フライシャー監督はマックスの息子である。
フライシャー・スタジオと後継スタジオ、フェイマス・スタジオによって1957年まで続いた「ポパイ」の短編映画シリーズは、やがてテレビでも繰り返し放映され、より広く浸透していった。そして、1960年からはテレビ用の新規シリーズがスタート。「トムとジェリー」でおなじみのハンナ・バーベラ・プロダクションなど複数のスタジオに受け継がれ80年代まで断続的にシリーズは続き、2004年にはポパイ誕生75周年を記念した3DCGアニメも製作されている。日本でも「まんがポパイ」などのタイトルで放映されて親しまれ、雑誌の「POPEYE」、「Olive」、「BRUTUS」もポパイたち作品のキャラクターが名前の由来になっている。
■ロビン・ウィリアムズ主演の実写映画も
さらに1980年、ポパイは実写映画としてスクリーンに登場する。主演はこれが映画初主演だったロビン・ウィリアムズで、衣装やパイプなど小道具はもちろん、特殊メイクを使ってトレードマークの太い腕を再現し、見事におなじみのルックに。『シャイニング』(80)のシェリー・デュヴァルによるこちらも再現度の高いオリーブ、徹底したコミック調のアクション、音楽やセリフもアニメーションをベースにするなど原作の魅力を持ち込んだ楽しい映画に仕上がった。
監督は『M★A★S★H』(70)や『ロング・グッドバイ』(73)、『ザ・プレイヤー』(92)で知られる鬼才ロバート・アルトマン。スマートで都会的だった80年代コメディに、アニメーションならではの不条理で破壊的な笑いを持ち込むあたりに反骨の巨匠らしさが見てとれる。
■ポパイが港の廃工場に迷い込んだ人間を次々と惨殺する『ポパイ・ザ・スレイヤー・マン』
そして2025年、原作の著作権の保護期間(発行後95年)が切れたことで誕生した二度目の実写化が『ポパイ・ザ・スレイヤー・マン』だ。本作のポパイは、汚染された缶詰工場のほうれん草でミュータント化した殺人鬼という設定。おなじみの水兵服にぶっとい腕、ひしゃげた顎を特殊メイクでデフォルメ気味に再現するなど、こちらもポパイの特徴をよく捉えている。
アニメ版では腕をぐるぐる振り回し、ブルートをアッパーカットでぶっ飛ばすアクションがお約束。本作でも一撃で相手の体を破壊するパンチに加え、キックのパワーもかなり高めで、工場に侵入した人間の頭を腕力で押し潰すなど次から次にバイオレンスな見せ場が登場する。ただしアニメと同じテンポ感で再現されているため、不快に感じさせないところもポイントだ。監督のロバート・マイケル・ライアンは1970~80年代のホラー映画の大ファンとのことで、どこか無邪気な残酷シーンにもそのテイストが生きているのだろう。
ポパイの友人でハンバーガー好きのウィンピーそっくりな中年男がちらりと登場するなど原作キャラを絡めてみたり、問題の工場が建てられた時期をポパイ誕生とほぼ同じ90年前に設定したりするなど、リスペクトやイースターエッグも楽しい本作。国民的アニメキャラがベースなだけに本国では注目度も高く、すでに続編『Popeye the Slayer Man 2』が準備中だ。単なるキワモノとはひと味違う、血みどろのポパイワールドを体験してみてはいかがだろうか。
文/神武団四郎
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