みなさんは最近、財布から現金を出す機会、減っていませんか?
経済産業省が2026年3月に発表した最新のキャッシュレス決済比率によると、2025年の日本のキャッシュレス決済比率は
58.0%
。もはや、支払いの約6割は現金以外という時代です。政府は2030年までにこの比率を65%に引き上げる中間目標を掲げ、将来的には80%を目指しています。コンビニでもレストランでも、スマホひとつで“ピッ”と会計が済んでしまう。便利な時代になりました。
ただ、こうした変化のスピードについていくのは、誰にとっても簡単なことではありません。特に、キャッシュレス決済のサービスは各社が乱立し、操作方法もアプリごとに違う。慣れないうちは、レジ前で戸惑ってしまう場面も少なくないはずです。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、ランチタイムのファストフード店で起きた、ある高齢男性とスマホ決済にまつわる話。レジ前で立ち往生した高齢者と、意外な救世主が登場する一幕を振り返ります。
記事の後半では、この結果から見えてくるものについて、少しだけ考えてみたいと思います。実際にスマホを使っている高齢者は何%いるのでしょうか?
***
ランチタイムのファストフード店にて
「まさか、あんなに列ができるなんて思ってもみませんでした」
と語るのは、近くのスーパーに勤める
佐々木さん(29歳)
です。
その日、佐々木さんは昼休みに一人でファストフード店に立ち寄りました。店内には数組の客がいる程度で、レジ前も空いていたため、すぐに注文できると思っていたそうです。しかし、異変に気づいたのは、注文カウンターの前に立つ一人の高齢男性の様子でした。
「店員さんが何度も説明していて、高齢男性の方もスマホをいじっていたんですが、うまくいっていない様子でした。だんだんと声が大きくなって、最終的にはちょっと怒鳴るような感じで…」
どうやらその男性は、財布を持たずにスマートフォンでの支払いを希望していたようです。
店員は何度も操作を手伝ったものの、決済が完了せず、支払いは一向に進みません。そのうちにレジ前には人が溜まり、気がつけば10人以上の行列ができていました。
店員も困惑し客のイライラも限界に
「最初は、まぁ仕方ないなって空気だったんですけど、5分、10分と過ぎるうちに、明らかに後ろの人たちもイライラしてきて…。お店の人も、何度も『ここを押してみてください』とか声をかけていたんですが、うまく通じていなかったようです」
佐々木さん自身も、その列の中で「これはいつ終わるのか」と不安を抱えていたそうです。
列がどんどん伸びていくなか、店員の対応にも限界が見え始めていました。注文ができないお客が出てくることで、店内の空気は張り詰め、どこか居心地の悪さが漂いはじめます。
「レジ係の方もすごく丁寧に対応していたんですけど、もうどうしようもないって顔をしていて…。下手に怒るわけにもいかないし、店としても限界だったと思います」
このままでは営業自体にも支障が出かねない、そんな状況が続いていたそのとき、列の最後尾にいた一人の女性が静かに前に進み出たといいます。
解決へ導いた女性の正体
「その女性、最初はただのお客さんかと思ったんですが、突然スッと前に出て、何か男性の耳元でささやいたんです。そしたら急に、さっきまでキレ気味だった高齢男性が、表情を和らげて、そのまま彼女と奥の方に歩いて行ったんですよ」
落ち着いた雰囲気の優しそうな感じの女性が高齢男性に声をかけたのは、騒動が始まってから約15分が経過したころでした。あれだけ店員の説明に耳を貸さなかった男性が、彼女の一言で素直に従った姿に、店内の誰もが驚いたといいます。
「店の奥に案内されたあと、男性は商品を手にしたまま椅子に腰掛けて、その女性と何か話していたんです。その間にレジは再開して、私たちもようやく注文できました」
実はその女性、隣の携帯ショップで働くシニア向けサポートを担当している方とのこと。佐々木さんが座ったテーブルの横で優しくレクチャーしているその女性の胸には携帯電話ショップの名札がついていたそうです。
「良く考えてみると、私も機種変するときにそのお店に行ったとき、その女性が受付をしてくれたことを思い出しました。とても親切な方でしたね」
トラブルの先に見えた“日常”と温かい配慮
「その後、気になってチラッと様子を見たら、あの怒っていた男性が、その女性と並んでハンバーガーを食べていたんですよ。すごく穏やかな顔で…なんだかほっとしましたね」
女性はレジでの支払いをいったん現金で肩代わりし、席についてからゆっくりとスマホでの決済方法を説明したようです。後日、佐々木さんが同じ店を訪れると、再びその男性が姿を見せていたとのこと。
「今度は、ちゃんとスマホで“ピッ”と支払ってて、すごく得意げな顔をしてました。あぁ、あのときの努力が実を結んだんだなって、ちょっと感動しました」
この一件は、単なるトラブルではなく、現代社会が抱える“デジタルと高齢者”の課題を象徴するような出来事でもありました。
「技術って、使えるか使えないかじゃなくて、つなげてくれる人がいるかどうかが大事なんですね。あの女性の行動がなかったら、もっと大きなトラブルになっていたかもしれません」
<TEXT/八木正規>
***
■じつは、シニアのスマホ普及率はかなり高い
今回のエピソードの高齢男性は、後日ちゃんとスマホで“ピッ”と支払いができるようになっていました。数十分の手ほどきで、新しい支払い方法を自分のものにしてしまう――そう考えると、なかなかの吸収力です。
じつは、こういった高齢者は、いまや珍しい存在ではありません。モバイル社会研究所(NTTドコモ)の2026年3月調査によると、スマートフォンの所有率は
60代で95%
、
70代で86%
、
80代前半でも69%
にのぼっています。10年前は60代でも半数以下だったことを考えると、シニア世代のスマホ普及は、この10年で一気に進んだといっていいでしょう。
■「困っている高齢者」ばかりじゃない
キャッシュレス決済の利用も着実に広がっていて、モバイル社会研究所の別の調査では、QRコード決済を使う60代が半数を超えたとのこと。「スマホは若い人のもの」という時代は、もうとっくに終わっているのかもしれません。
もちろん、なかにはエピソードのように、最初の一歩でつまずいてしまう人もいます。ただ、その一歩さえ越えられれば、あとは意外とスイスイ。「困っている高齢者」ばかりが目立って見えがちですが、その背後には、静かにスマホを使いこなしている大勢のシニアがいる――今回のエピソードは、そんな当たり前の事実も、そっと教えてくれているように思います。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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