フランス的プロジェクトXが現代日本人にも刺さるわけ「新凱旋門物語」主演俳優クレス・バングに聞く【インタビュー】

フランス的プロジェクトXが現代日本人にも刺さるわけ「新凱旋門物語」主演俳優クレス・バングに聞く【インタビュー】

7月22日(水) 10:00

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パリ西部のビジネス街ラ・デファンス地区に建つキューブ状の巨大建築“新凱旋門”ことラ・グランダルシュ。エッフェル塔や凱旋門に次ぐパリのモニュメントとして知られる、フランス革命200周年記念の国家プロジェクトとして建設されたものだ。

手がけたのは、ひとりの“名もなき”建築家。「新凱旋門物語」は、史実を基に、理想と政治に翻弄されながらフランスの国家的プロジェクトに挑んだデンマーク人建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンの数奇な人生を描くヒューマン・ドラマだ。

主人公の建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンを演じたデンマークの俳優クレス・バングに、演技について、理想主義と妥協について、民主主義について、話を聞いた。(取材・文/関口裕子)

■フランスの国家プロジェクトに翻弄された建築家を演じたいと思った理由

――デンマーク人建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセン、および新凱旋門建設をめぐる一連の事態は、役へのオファーがある前からご存知でしたか?

クレス・バング(CB)よく知っていたわけではありませんが、彼の存在やまつわる事件は知っていました。80年代初頭、彼が新凱旋門のコンペで優勝したことは、デンマークでは大きなニュースだったのです。当時、世界最大級だった建築コンペをデンマーク出身の、ある意味無名に近い建築家が優勝した。デンマークは小さな国だから、海外に行って何かを成し遂げるとすぐに注目されるので、非常にセンセーショナルに報道されました。建設中のことも、フランス政府の見解がころころ変わり、彼が翻弄されていることが報道されていたので、なんとなく知っていました。

――「新凱旋門物語」でヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセン役を演じたいと思ったポイントについて伺いたいのですが、彼にどのような共通点を見出し、そのキャラクターに自分自身を投影できると感じたのでしょうか?

CB私は、常に役の中に自分との共通点を見つけようとします。自分の体の中で「これだ」と実感できるもの、体現できるものを探しているというか。そうすることで初めて、どんなキャラクターにも真実味や現実感を持たせられると思っています。今回の場合は、ヨハン・オットーの現実離れした理想主義や、妥協を許さない姿勢に惹かれました。彼は、プロジェクトを自分が夢見、想像した通りに、設計通りに進めたいと頑なに主張した。私が、彼に自分自身を投影する入り口はそこでした。もう一つ、新凱旋門は、パリでは誰もが知る、記念碑的かつ巨大な建造物ですが、背景にある物語まで知っている人はごくわずか。皆が知らない事実を知らせることができる。だからこそ私は語る価値のある物語だと思ったのです。

――ヨハン・オットーは、コンペで優勝したときの記者会見で、「この建造物の狙いは?」 という記者の問いに、「人類、あるいは人類が持つ愛が交わり、出会うための場所だ」と答えています。このコンセプトは、あなたにとっても納得のいく考え方なのでしょうか?

CBそうですね。僕は建築家ではないので全てに共感できるわけではないけれど、映画も演劇も、人が集まって様々なアイデアを交換して作るものという意味では同じ。その点については共感します。ある意味、人々が集まり、互いの文化や宗教について学び合う場所となったこの映画のプロジェクトも、ヨハン・オットーの言う「出会いの場」に近いかもしれません。私は人々の心に響くプロジェクトの一員になりたいと願っています。俳優として誰かの心に響く物語、映画を作っていきたいし、関わっていきたい。ストーリーを語るのは監督ですが、俳優はストーリーを背負い、支える立場だと思っています。

■「映画作りとは妥協の連続!?」主演俳優が吐露する俳優の心得とは?

――その流れで伺いたいのですが、ヨハン・オットーは自身のデザインコンセプトを寸分たがわず実現させること、すなわち“芸術”にこだわり、フランス人建築家のアンドリュー(スワン・アルロー)はデザインや素材を変化させても“完成させること”に全力を尽くします。2人のアーキテクトが見せるこだわりの違いを、バングさんはどう捉えますか?

CB興味深い質問です。というのも、物語の中心には2つの異なるタイプのキャラクターがいるからです。オットーは、自分のビジョンを最後まで貫き通すことに固執する人。一方、アンドリューはもっと現実的。もちろん、2人とも偉大なアーティストですが、アンドリューは完成させること、整合性を保ちながら目標に到達することに重きを置いている。私は2人とも自分に近いと感じています。私は妥協を許さない理想主義者である一方、大いに妥協をする。妥協できなければ、妥協の連続である映画業界で仕事なんてできませんから(笑)。

――デンマーク人初のヨーロッパ映画賞男優賞を受賞されたあなたがそれをいいますか?(笑)

CB(笑)。そういう意味で、この物語は映画作りの物語でもある。常に大規模な共同作業があり、協力し合える能力が必要なんです。40年経ってもまだこの業界にいるってことは、理想主義者でありながら、人と一緒にやっていく能力も多少はあるということでしょうね。そうでなきゃ、ここにはいないだろうから(笑)。

――ステファン・ドゥムースティエ監督にも、きっとそういうところがあるのでしょう。もともと文化省の建築部門でキャリアをスタートさせたとお聞きしていますので、この作品へのこだわりも格別だったのではないでしょうか?撮影現場でバングさんが目にされた監督は、どのような演出家でしたか?

CB文化省の建築部門でキャリアをスタートさせたことは知りませんでした。でも本当に仕事がしやすい方で、お互いが何をやりたいのかすぐに理解できたし、そのアイデアを取り入れ、実現させることができた。僕としてはもちろん、彼の綴る物語に自分の作るキャラクターがフィットし、成立することを大事にしていたわけですが、コラボレーションという意味では最高の経験の一つだったと言えます。

私がフランス語を話せないことも、ある意味、功を奏しました。この物語は、ヨハン・オットーがうまくフランス語を話せないことで起きる事件でもあったので。つまり、彼の仕事への思いは、トランスレーションの過程で多くのことが省略されてしまった。そのフラストレーションを、ドゥムースティエ監督と私は取り入れたわけです。私たちは脚本を精査し、私が言うべき台詞を5分の1にしました。フランス人は自分たちの言語にとても誇りを持っていて、台詞を存分に活かしたがりますが、フランス語が得意じゃない男(ヨハン・オットー)が雄弁だったらおかしいですからね。監督も私の意見に同意してくれ、それが私たちのコラボレーションの核となったのだと思います。

■話せないフランス語で演技をするためのコツは?

――この役のためにフランス語を学ばれ、演技での発音を妻役のシセ・バベット・クヌッセンさんから絶賛されたとうかがいました。フランス語のレッスンや台詞の準備はどのようにされたのでしょう?

約3~4カ月、毎日3~4時間、ダイアローグコーチと一緒に、脚本を少なくとも1日1回は通しで読んで確認しました。ただ音だけを覚えるだけでは不十分なので、自分が何を言っているのか、周囲で何が起きているのかを理解しなければなりません。つまり、他の俳優たちが言っていることもすべて理解しておく必要がありました。

――ご自身の混乱した気持ちに向き合うために、ヨハン・オットーが弾くオルガンも、本作のために練習されたのでしょうか?

CBピアノは15~17歳くらいから練習を始め、今でもたまに弾いています。僕はThis Is Not Americaとして音楽活動もしていますが、クラシック音楽を弾くことは僕にとって、ちょっとした瞑想みたいなもので、とても重要な時間なんです。

■民主主義とは誰もがありたい自分であるよう、最善の形で共存するための方法

――本作は、どこの国でも起きている、政治によって文化が翻弄される状況をモチーフにしていると思います。その現状、あるいは状況について、バングさんはどのようにお考えでしょうか。役柄を超えたところでも結構ですので、ご意見をお聞かせください。

CBフランスにはかなり重要で少し奇妙な、議会を5年ごと、大統領を7年ごとに交代させるという法律があるんだ。そのため「保革共存政権」という、左派の大統領がいる一方で、右派の政府が存在する期間ができるわけです。この物語における問題は、右派が、左派のミッテラン大統領と彼が推進したすべてのプロジェクトを阻止しようと必死になった点。こうした状況下では、常にバランスを取りながら進めなければならないわけです。

この映画では、右派が、プロジェクトの資金を打ち切ることで内容を検閲しようとしている様子が見て取れます。つまり、あの程度の予算では、彼が望む通りにプロジェクトを実現することは不可能なのです。これは本当に興味深いこと。私が学芸員役を演じた、2017年の「ザ・スクエア 思いやりの聖域」でも同じようなことを描いています。「美術館はどのように運営されているのか?」「誰が美術館の費用を負担しているのか?」「そして、どのような検閲を許容すべきなのか?」といった問題で、こうしたことは常に存在します。もちろん、私は非常に開かれた民主主義国家出身で、完全な言論の自由が保障され、集会の自由があり、政治指導者に立ち向かうこともできるのが基本原則です。もし行政が間違っていると感じれば、反対の声を上げることができる。でも現在は世界中で、こうした価値観のすべてが、深刻な圧力にさらされていると思います。つまりドナルド・トランプが、アメリカ合衆国での民主主義を終わらせ、なおかつその事実を隠そうともしないように。

ヨーロッパに住む我々は、民主主義を誇りに思っています。民主主義とは、誰もがなりたい自分、ありたい自分であるよう、互いに理解し、最善の形で共存するための方法。日本もまた、かなりうまく機能している民主主義国家だという印象を持っています。つまり民主主義は、私たちの核となる価値観だということ。それを私たちは団結して守らなければならない。なぜなら今それは、あらゆる方面から攻撃を受けているから。すごく広範囲で、とんでもない答えになってしまいましたね(笑)

【作品情報】
新凱旋門物語

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