サッカーの「にわかファン」の是非をめぐって、議論が再燃しています。
ウエストランド井口、サッカージャーナリストへの“反論”が物議
発端は、サッカージャーナリストの小澤一郎氏が7月18日に自身のXアカウントに投稿した文章です。スペインVSアルゼンチンの決勝戦で、日本代表の森保一監督がゲスト解説を務めたことについて
<現地中継にのこのこと出ていくあたり本心で「優勝」を目指していたのかな?と私は思ってしまいます>
と、疑問を呈したのです。
日本代表敗退後に、メディアが「感動をありがとう」一色になってしまった現状を指摘しつつ、森保監督とサッカー協会にはきちんとした形で大会の総括をする場が必要だと訴えました。
これに異を唱えたのが、サッカーファンで知られるお笑いコンビ「ウエストランド」の井口浩之氏です。井口氏はワールドカップというお祭りだからこそ、純粋に楽しんでいる人達の熱を冷ますなと訴えました。
小澤氏に返答する形で、7月19日に自身のXアカウントで
<僕は楽しんでいる人を冷ます必要はないと思います。YouTubeで取り上げて再生数で収益を稼いでいるなら、リスペクトは絶対忘れてはならないと思います>
と投稿し、
<ジャーナリストと名乗る人が思い上がってる>
と、口調は熱を帯びていきました。
しかし、同日の午後に井口氏は小澤氏への一連の投稿を削除してしまったのです。そして自身のYouTubeチャンネルでは騒動を謝罪し、幕引きを図りました。
日本のサッカーファン界で繰り返される“対立”
この井口氏の対応に、ネット上では批判が殺到しています。サッカーファンからは“プロのジャーナリストを晒し上げて攻撃の対象にしようとしたことは忘れない”とか、“今後サッカーには関わらないでほしい”といった厳しい声が上がっています。
一方で、「にわかファン」の盛り上がりに冷水をかけるな、という井口氏の主張にも一定程度の理解が見られます。マニアックなファンによる真剣な検証も必要ならば、「にわか」のお祭り騒ぎも必要。日本サッカーは、この両輪で行くべきだ、という意見です。
このように、ワールドカップのたびに取り沙汰される「にわか」の是非。今大会も、日本テレビ系でキャスターを務めた井桁弘恵氏の言動に、様々な意見が寄せられたことも記憶に新しいところです。
熱心に研究してサッカーを見る人もいれば、感動の一体感を求めてお祭りとして参加したいだけの人もいる。それがワールドカップというイベントなのですが、なぜ日本では毎回のようにその是非について議論が平行線をたどってしまうのでしょうか?
両者は「違う話」をしている
まず、小澤氏と井口氏との間では、そもそも議論の土壌を共有していないという問題があります。小澤氏も長年にわたって業界に携わってきた人物なのだから、「にわかファン」を全否定するほどにアマチュアではないという前提ぐらいは理解できるでしょう。
つまり、小澤氏は「にわかファン」的な、あえていうならば芸能界的な盛り上がりだけでサッカー日本代表を消費し尽くしてよいのだろうか、という問題意識を持っているのです。感動に偏向した報道のあり方が著しくバランスを欠いているということを言いたかったのだと思います。
そして、当の森保監督やサッカー協会までもが、この感動のストーリーによって、本来なされるべき技術的な総括をうやむやにしているように見える状況に危機感を抱いているのです。
当然、小学4年生から大学終わりまでサッカー部だった井口氏も、小澤氏の問題意識は十分に理解しているはずです。しかし、そのうえで、なお井口氏にはまだまだサッカーファンの裾野が広がっていないという危機感があるのではないでしょうか。
彼が青春時代を過ごした90年代後半から2000年代前半よりも、日本代表への国民的な関心や情熱は薄れているのではないか。事実、スポーツ雑誌などで日本代表を取り上げる機会は年々少なくなっています。三浦知良や中田英寿、本田圭佑など、各時代に必ず存在したスター選手も、いまや名前を挙げるのに苦労するほどです。
つまり、井口氏の「楽しんでいる人を冷ます必要はない」という発言は、芸能人としてメディア全体を俯瞰したサッカーファンとしての率直な感想から発せられたということなのです。決して、ただのジャーナリスト批判ではなく、幼少時からサッカーを愛し続けてきた人間が抱く、昨今のサッカー人気の停滞への危機感が暴走してしまった格好です。
本当に必要なのは対立ではない
そう考えると、本来は小澤氏と井口氏のような人達が手を組んでサッカー人気を盛り上げるべきだと言えます。日本代表は強いだけでも、「にわかファン」がキャーキャー言うだけでも不十分だからです。
雨降って地固まる。せっかくだから小澤一郎と井口浩之でサッカーチャンネルを開設したらどうでしょう?
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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