バレーボールネーションズリーグ(VNL)予選ラウンド、大阪でのポーランド戦後の取材エリアだった。
「苦しい試合を乗り越えて、ファイナルに行けることになりました」
石川真佑はそう語って、行間に心からの安堵を滲ませた。6年連続のVNL決勝ラウンド進出がかかり、キャプテンとして「負けられない」重圧を感じていたのだろう。
「ファイナルはチャレンジャーの気持ちで挑みたいと思っています。"うまくやってやろう"って思うよりも、自分たちの雰囲気を作れるように、がむしゃらさを出して。(日本ラウンドでは)レフトから取りきるのが難しかったですが、ファイナルラウンドではどう崩し、点を取りきれるか。どの場面でも、たとえ苦しくても自分たちで判断し、お互い助け合いながらやっていければなって思っています」
最後の「助け合う」というところが、これから開幕する決勝ラウンドでもカギを握るかもしれない。

ネーションズリーグ決勝ラウンドに挑む日本のキャプテン、石川真佑 photo by FIVB
予選ラウンド第3週の日本ラウンドを、日本は苦しみ抜いて勝ち上がっている。
まず、強豪ブラジルにセットカウント1-3で敗れたことで、予選突破に暗雲が立ち込めた。タイには3-1で勝利を収めたが、続くトルコには1-3と完敗だった。メリッサ・バルガスの圧倒的な高さとパワーに太刀打ちできず、決勝ラウンド進出に向けて土俵際に追い込まれた。
「自分のなかでも、うまく(流れを)つかみきれませんでした」
トルコ戦後、石川もそう正直な思いを吐露していた。
「ブロックディフェンスのところで、相手もパワーや高さがあって......。上がっているボールはあったのですが、そこからの展開をうまく作ることができませんでした。自分たちのディフェンス、オフェンスのところで、ちょっとチームの雰囲気全体が落ちていたかなと。監督からも『次(ポーランド戦)は勝たないとファイナルにつながらない』とは言われているので、出だしから自分たちらしい、相手を上回る気迫を大事にして挑みたいです」
彼女はそう決意を口にしていたが、ポーランド戦もブロックディフェンスが機能せず、苦しんでいる。1、2セットを簡単に先取されてしまい、絶体絶命だった。
【「自分がうまくいかなくても...」】しかし、そこで日本の底力が出た。
「2セットを取られて、『ここを勝てば強くなれる』とみんなで話して...」
試合後、石川はそう明かしていたが、攻めの姿勢を貫いたことで、3セット目からは勝負の流れを引き寄せた。
日本はあらためてブロックディフェンスを整えると、リベロの福留慧美、小島満菜美、石川、さらに佐藤淑乃が強力なスパイクを必死に拾う。そしてパスがつながるようになった。お家芸と言える長いラリー戦を発動すると、相手の焦りを誘った。それが続くと、形勢は逆転していった。3セット目を和田由紀子の大爆発で奪うと、4セットは佐藤の連続サービスエースなどで奪い返した。そしてファイナルセットは、石川がブロックを決めるなど日本の流れで勝利したのだ。
日本は総力戦で勝ち星をもぎ取っている。ミドルブロッカーがブロックでコースを限定し、リベロやアウトサイドヒッターが拾い、オポジットが叩き込む。チャンスボールではなかったら、リバウンドでもう一回ディフェンスし、ラリーに持ち込んで勝機をつかむ。粘り強さのメカニズムは際立っていた。相手を"沼"に引きずり込んで焦らせたら、日本の勝利パターンだ。
ポーランド戦、エースである石川は率先して、チームのために身を削っていた。
「自分がうまくいかなくても、和田さんがよかったので、だったら自分もそれを助けるってところでした。点数を取るっていうのは考えていましたが、たとえ点数を決めきれなくても、相手を崩すっていうか。助け合うことにフォーカスしていましたね」
石川は得点を決めなかったわけではない。チーム2番目の18得点(トップは和田の27得点)を記録した。その一方で、ディグ(スパイクレシーブ)本数はチームトップ、レセプション(サーブレシーブ)本数はチーム2番目。数字にも表れているとおり、一心不乱のバレーだった。攻守の両輪を回すため、それぞれが「フォア・ザ・チーム」に徹する必要があったのだ。
「チームとして戦っていた感覚はあったんですけど、最後まで決めきるところまでいっていなくて......」
トルコ戦後、リベロの福留はそう説明していた。それは石川の言葉にも通じるところがあった。
「決めたい気持ちはあっても、そこまでいっていない。少しでも変われば(調子が)乗ってくるはずで。それはスパイカーだけの話じゃなくて、1本目(レシーブ)の質から。プレーだけじゃなく、コールとか、託す気持ちとか、ちょっとしたことで変わるのかなって。ディフェンスも『絶対、これ上げたろ』でいいのに、少し考え過ぎて先を見ていました。貪欲さに邪念が入っているというか......」
吹っきれたのが、ポーランド戦の3セット目からだった。
石川は主将として、エースとして、チームの一員として模範になっている。彼女の攻守全体への献身が、チームをひとつにした。
「ポジティブな気持ちが大事というのはわかっているんですが、いろんな思いも出てくるので、意識しなくてもストレスは感じますね」
石川は正直に言った。しかし重圧と対峙することで、彼女は輝きを増すのだろう。絶体絶命の場面で「ここを勝てば強くなれる」とチームメイトに声をかけ、実行できるキャプテンは本物だ。
7月22日、中国(マカオ)で行なわれるVNL準々決勝では、世界ランキング2位ブラジルとのリターンマッチに挑む。
小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
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