全米で大ヒットを記録しているホラー映画「オブセッション 災愛」が公開された。監督はYouTubeで配信したスケッチコメディ動画や長編ホラー動画で注目を集めた新鋭クリエイターのカリー・バーカー。ブラムハウスとA24がその才能に惚れ込み、本作はバーカー監督の劇場長編デビュー作となる。
本作は、公開からわずか24日間で製作費(100万ドル未満)に対し200倍を超える驚異的な興行収入を記録。2010年の「パラノーマル・アクティビティ」の世界興収(1億9400万ドル)を上回り、今世紀で予算100万ドル未満の映画として最高の興行収入を記録し、1999年の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」以来、最大の低予算映画の成功という快挙を成し遂げた。一躍映画界の寵児となった、バーカー監督が映画.comのオンラインインタビューに応じた。
※今回のインタビューにはネタバレとなる記述があります。
<あらすじ>
物語の主人公は、孤独で内向的な青年ベア。想いを寄せる女性ニッキーとの距離を縮めたい一心で、“願いを叶える”という不気味なまじない「ワン・ウィッシュ・ウィロー」に手を出したことから、彼の日常は少しずつ狂い始める。純粋だったはずの恋愛感情は執着へと変貌し、“最愛”は“災愛”へと反転する――。
■執着と歪んだ愛というテーマはどこから?
――本作は、典型的なお化けやモンスターではなく、日常で誰しもが経験するような「執着」や「愛情の暴走」がもたらす恐怖を描いていますね。このテーマの着想のきっかけを教えていただけますか?
実は僕自身、いわゆる王道のモンスター映画にはあまりワクワクしないタイプなんです。物語に心理的な側面があったり、キャラクターがひとつの旅路を経て変化していくような要素がないと、どうしても惹かれないんですよね。だから映画を作るときは、自分をワクワクさせるものや、より深く探求できるテーマを見つけようとしています。これは私のすべての作品に共通していることだと思います。
■ホラーとコメディの絶妙なバランス
――すごく恐ろしいはずのシーンなのに、後半になると笑いに変わっていく展開が印象的でした。恐怖と笑いがお互いを打ち消し合うことなく両立していて面白いなと感じたのですが、そもそもこの両方の要素を盛り込もうと考えたのですか?また、両立させる上で意識したことがあれば教えてください。
ホラー映画作りには「コメディタッチの要素を入れる場合、作品そのものの世界観を揺るがしたり、恐怖を打ち消したりしてはいけない」という黄金のルールがあると思っています。
ですから、笑いを取るために無理をするのは間違いで、もし笑いを入れるとしても、それがストーリーを前に進めたり、キャラクターの行動として理にかなっていたりすることが大切です。自分がじっくり考えたときに「この状況なら、人間として正直にこう行動するよね」と誠実に思えるかどうかをすごく意識していました。
実は、脚本を書いているときは「ここで笑わせてやろう」なんて思っていなかったんです。電話のシーンはちょっとクスッとできるかなと思っていましたが、例えばベッドのシーン、いろいろあった後に彼女がベアに「もう一回寝なさいよ」と言って彼が素直に寝るシーン。あそこは日本の試写会でもドカンと笑いが起きていましたし、世界中で皆さん必ず笑うんです。でも、あれは狙って作ったわけではなく、「大混乱している彼なら、きっと素直に寝ちゃうだろうな」とキャラクターに誠実に書いた結果なんですよ(笑)。
■フレッシュなキャスト陣の素晴らしい演技
――主人公のベアを演じたマイケル・ジョンストン、ヒロインのニッキーを演じたインディ・ナバレッテ。この素晴らしいキャスト陣を起用したことで、監督ご自身が最も刺激を受けた部分は何ですか?
インディが本作にもたらしてくれたものには、本当に感銘を受けました。彼女を採用した時点では、彼女がどこまでの演技をできるのか、実はまだ分かっていなかったんです。実際の彼女はとてもシャイで控えめな人なので、いざ撮影現場に入り、私が求めるものについてたくさん話し合いましたが、まだ彼女の「本気の演技」は見ていませんでした。だから、彼女がカメラの前で初めて感情を爆発(狂乱)させたときは、本当にホッとしました。新人監督の立場として「ああ、よかった、神に感謝だ」という感じでしたね。
マイケルについてですが、彼はベアというキャラクターに、素晴らしい「無垢さ」をもたらしてくれました。彼をできるだけ無垢なキャラクターとして描き、観客が彼に感情移入できるようにすることは、とても重要でした。彼はその「ぎこちなさ」を実にごく自然に演じてくれたんです。
好きな女の子に自分の気持ちすら最後まで打ち明ける勇気のない男を、彼がとてもリアルに、見事に演じてくれたからこそ、観客は彼を信じることができました。それが、物語が進むにつれて「実はそんなに良い奴じゃなかった……」と変貌していくわけですが、彼の持つ純粋さが前半のポイントになっています。
■ニッキー演出のインスピレーション源は黒沢清監督の映画「回路」から
――願いによって変わってしまったニッキーの人間ではないような雰囲気にゾクゾクしました。特にニッキーが暗い寝室の壁際で泣いているシーンなどは、黒沢清監督の映画「回路」を彷彿とさせる恐ろしさを感じました。こうした演出のインスピレーションはどこから得たのでしょうか?
仰るとおり、黒沢清監督の「回路」は間違いないです。あのシーンについて、直接影響を受けていないと言ったら嘘になります。気が狂いそうなほど不気味で、僕が生涯観た映画の中でもトップクラスで恐ろしい映画のひとつです。黒沢清監督は、作品のトーンや生々しい人間の感情を描くのが本当に素晴らしいと思います。トラウマやリアルな物語をホラー映画という形で見事に覆い隠している、素晴らしい監督です。
僕は、モンスターが真っ正面から顔を出して襲ってくるよりも、何だか異様で、予測不可能で、不気味な感じがするほうが、よっぽど効果的だと思うんです。僕はそういうホラーが好きなので、「回路」に少しでも近づけたと言っていただけるのは本当に嬉しいです。他には、アリア・スター監督も僕のヒーローです。作品のトーンはもちろん、ホラーというジャンルでありながら、本物の人間の感情や本格的な人間ドラマをしっかり撮っているところが大好きで、影響を受けています。
■逆再生のような不気味なシーンについて
――作中に逆再生のような不気味なシーンがあり、非常にインパクトがありました。あのシーンはどのように思いつき、撮影・編集されたのでしょうか?
こちらも黒沢清監督の「回路」の話に戻りますが、とにかく奇妙な動きや不気味さを表現しようと試みました。監督としては、あのような演出に挑戦するのは本当に怖いことです。イチかバチかですし、撮影現場にいる時点では、これが本当に上手くいっているのか確信が持てないからです。
撮影現場では実際に役者に前を向いて歩いてもらい、それを編集で「逆回し」にするという手法を取りました。やりたいことのイメージは自分の中で明確だったのですが、果たしてそれが本当に成立するのか、僕が狙っているような「居心地の悪さ」や「不気味さ」がちゃんと出るのかは、編集してみるまで分かりませんでした。だから、完成したシーンが上手く機能していて、皆さんに怖がっていただけて本当に嬉しいです。
■他者をコントロールする、というグロテスクさの描写
――ニッキーは願いによって変わってしまいますが、時折、元の彼女の意識が戻ってくるような描写がありますよね。それがものすごく恐ろしく、「まだ中に元の人格が残っているんだ」という怖さがありました。あの描写には「他者を変えてしまうことのグロテスクさ」を描く意図があったのでしょうか?
まさに、ニッキーの意識が時々戻ってきているところはどうしても見せたかった部分です。彼女はその瞬間、体に囚われている身なので自分では何も行動できません。だからこそ、より怖いんじゃないかと思ったんです。意識が戻っても状況をコントロールできず、できることといえば、その状況からなんとか逃げ出そうと自傷行為のようなことをするくらいしかない。
よくある物語だと「自分を愛してくれるように願う」という展開のあと、相手が完全に意識を失って「あなた大好き!」となる状態ばかりが描かれますよね。でも、そうやって「他人に押し付けられたもの」が、その人の内面にどう歪みや影響を与えるのかを描いた作品はあまり見たことがありませんでした。だからこそ、今回はあえてそのグロテスクな部分を描くことが重要だったんです。
――それでは、監督にとってこの物語で「一番恐ろしい」と感じる部分はどこですか?
最初から強く意図していたわけではないのですが、結果的に一番怖いなと思うのは、ニッキー側(乗っ取られた側)の視点ですね。自分という存在を失い、自立性や自主性を奪われてしまうことです。
例えば、彼が仕事で8時間くらい外に出ていて、車で15分かけて帰ってくるとしますよね。留守番をしている彼女は、彼が本当に帰ってくるのかどうかも分からない。まるで飼い犬のような気持ちで、自分の中に閉じ込められたまま動けない……。その「自分ではどうすることもできない空間に閉じ込められる怖さ」が、一番恐ろしい部分だと思います。
■ラストシーン撮影秘話
――ラストシーンについて伺いたいのですが、ニッキーの最後の変化の瞬間は一発撮り(ワンテイク)だったと聞きました。その撮影の瞬間、監督は何を感じていらっしゃいましたか?
あれはまさに、ハッピーなアクシデントだったんです。実は、僕がもともと決めていたエンディングは別の形でした。それを9テイクほど重ねていたのですが、
最後に別バージョンのエンディングも一応とっておくことになって、「じゃあワンテイクだけ撮るけど」というつもりでカメラを回しました。そしたら、それが彼女のベストテイクになってしまったんです。息遣いや体の動きがあまりにも凄くて、観た瞬間に「最高じゃないか……」と圧倒されました。
結果的にそのワンテイクを使うことになりました。皆さんから褒めていただける最高のラストですが、これは本当に天からの恵みというか、嬉しい偶然、ハッピーアクシデントでした。
■ホラーというジャンルの魅力について
――作り手として、あるいは監督にとって「ホラー」というジャンルの魅力はどんなところにあると思いますか?
僕がホラーを好きな理由は、「自分自身は絶対に安全な場所にいるのに、めちゃくちゃ怖がることができるから」です。優れた物語であればアドレナリンがドバドバ出ますし、まるでスリリングな遊園地のアトラクションに乗っているような体験を、安全なシートにいながら味わえるのが最高ですよね。
他のジャンルではなかなか追求できないディープな領域にいけますし、ホラーというジャンルはとても懐が深いのも魅力です。ルールなんて本当に何もないんですよ。ジェットコースターが故障する話でもいいし、魔法の帽子を見つけたマジシャンの話だっていい。本当に何だってできる。無限の可能性が広がっているところが、私がホラーを愛する理由です。
■今後のプロジェクトについて
――次回作など、これからの活動について教えていただけることはありますか?
次回作でも、やはり欠点のある、不完全なキャラクターたち」を描いています。例えば、次のキャラクターであるマウスとエディは、2人のゴーストハンター(幽霊退治屋)です。マウスはとても利己的なキャラクターで、本当に自分の利益のことしか考えていません。一方でエディはもう少し道徳的ですが、マウスを家族のように思っており、マウスには自分しかいないことも分かっています。
そんな風に、お互いが人間的な短所を抱えながら、物語の中で何かしらの気づきや学びを得ていかなければならない、というキャラクターの成長プロセスの部分は、本作と非常によく似ていると思います。
【作品情報】
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オブセッション災愛
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