【動画】「こんなに親密な裏切り者」PV
人は皆、同じものを見ているようで全く違う世界を見ている。それぞれの“主観”という名の色眼鏡がかかっているからだ。たとえ同じ時代、同じ場所で生きていたとしても、私たちが見ているのは一人一世界。同じ世界は存在しない。そんな“主観のフィルター”に翻弄される韓国ドラマ「こんなに親密な裏切り者」(全10話)が、7月15日(水)昼2時よりCSホームドラマチャンネルにてベーシック初放送される。(以下、ネタバレを含む)
■プロファイラーの父と容疑者の娘…冷めた食卓のような親子関係
本作は、韓国を代表する名優ハン・ソッキュが主演を務める心理スリラー。国内最高のプロファイラーであるチャン・テス(ハン・ソッキュ)が、遺体が見つからない殺人事件を捜査していると、容疑者として自分の娘チャン・ハビン(チェ・ウォンビン)が浮かび上がる。娘の秘密を知っていき、父として、警察として、信頼と疑いの狭間で揺れながらも、真実を追う姿を描く。
「今までの俺は、父親として失格だった。今後は親子の時間を…」。これは第1話の序盤でテスが、娘のハビンに口にする言葉である。だが、その食卓に漂うのは、家族の温かみではなく、互いを監視するような温度がない空気と彩度がない静けさ。そして、まるで心の距離を表すかのように長いテーブルの端と端に座る父娘。このどこからどう見ても親子関係がうまくいっていない冷めた食卓から物語は始まる。
■プロファイラーの目、父親の目…誰も真実を見られない“色眼鏡”の迷宮
テスは、父親という“娘を信じたい色眼鏡”と、プロファイラーという“娘を疑う色眼鏡”、矛盾する2つのフィルターを持つ。この残酷で呪われた主人公の主観こそが、本作の肝と言えるだろう。
他人を疑い、分析するプロであるプロファイラー、しかも国内屈指の優秀さ。その職業病という最悪の色眼鏡を、よりによって実の娘に向けてしまうことから悲劇は始まる。事件を解決するためのフィルターが、我が子を信じるためのフィルターを殺してしまうのだ。娘を愛しているからこそ、思考はまとまらず、心は苦しい。その暴れるほどの葛藤が、どんどん眼鏡を歪ませ曇らせていく。
さらに、周りの新人プロファイラーたちもそれぞれの色眼鏡で主張し合うから、事件の真相は揺れに揺れる。誰もが真実をそのまま見られず、自分の見たい“ハビン像”を投影して迷宮に陥る息苦しさに、窒息しそうになると同時に、気づけば我々視聴者もその色眼鏡をかけた迷宮の住人となっているのだ。
■息子の死で時を止めた家族…生活感のない“綺麗すぎる家”
そんなチャン家には、実は息子もいた。だが、幼い頃に亡くなっている。この息子の死の瞬間から、チャン家は時間が止まっていた。テスはハビンに対して疑念を抱き、それが膨らんでいく。そのフィルターが家族を崩壊させ、妻とは離婚。ハビンに至っては他人以上にわからない存在になっていた。
そんな父娘の2人が暮らしているのは、生活感がなく綺麗すぎる家。まるでモデルハウスのようなその家は、家族としての機能が死んでいることの物理的な証明となっているようだ。埃一つない美しさは、止まった時を象徴すると同時に、温かい団らんがないことの裏返し。
そして疑われ続けて心を閉ざし、表情筋を死なせた娘を表すかのように、家のシーンは閉められた扉のカットが多く、整えられすぎた無機質な部屋も印象的。“家族=家”。他人からは基本的に見えない家の中の状態こそが、本当の家族の姿とも言えるのかもしれない。
■視聴者すら翻弄する、計算し尽くされたホラー映画のような映像美
そんな本作は、家という美術だけでなく映像の魔力もまた凄まじい。視聴者をも色眼鏡の中に引きずり込む演出が見事なのだ。まるでホラー映画のような引きと寄せが特徴的なカメラワークと、重くて暗いライティングが、不穏な空気感をより一層高める。
本作のカメラは、視聴者に“神の視点”を許さない。あえてテスの主観に近い、あるいはのぞき見している誰かのような不穏なアングルを多用することで、私たち視聴者にもテスと同じ「娘が犯人かもしれない」という最悪の色眼鏡を強制的にかけさせてくる。だからこそ、私たちはハビンの怪しい表情に翻弄され、思考も感情も揺さぶられ、ズブズブに没入してしまう。
そんな私たち視聴者もまたそれぞれのフィルターで事件を追いながら、最終話でやっと真実に辿り着く。そこで、第1話と同じ“食卓”のシーンが登場するのだが、この対比が実に面白い。色眼鏡を外して、初めてありのままの“ハビン”を見たテス。そんな父テスから娘ハビンに時計がプレゼントされ、家族の時間が再び動き出す。
…だが、本当に色眼鏡は外れたのだろうか?真実は本当に真実なのだろうか…。“親密な裏切り者”とは父だったのか娘だったのか、それとも第三者だったのか。実はサングラスを透明なレンズに変えただけなのかもしれない、そんなことを最後まで思わせる極上の心理スリラーだ。
構成・文=戸塚安友奈
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