フランス東部の小都市アヌシーにアニメーション文化の大型施設である国際アニメーション映画センター(Cité internationale du cinéma d'animation)が、2026年6月19日にオープンした。アヌシーと言えば、世界最大で最も古い国際アニメーション映画祭でお馴染みだが、施設の運営も映画祭と同じCITIAという非営利機関が担う。オープンのスケジュールも6月21日からスタートした映画祭に合わせられた。
フランスのアニメーション界の期待のプロジェクトだが、まずその大きさに驚かされる。25,000㎡の敷地は東京ドームのおよそ半分、広大な敷地に対して建物が低く延床面積5,500㎡に抑えているのは、アラ・ド・アヌシー(Haras d’Annecy)と呼ばれる歴史的建造物をリノベーションしたためである。アラ・ド・アヌシーは、ナポレオン1世が設立した国立の種馬飼育場で19世紀末に建設されたが、これがカルチャー施設に相応しい趣のある風景を作り出している。
種馬飼育場の記憶はコの字型に配置された高い天井の建物群だけでなく、常設展示で映像の父・マイブリッジの馬の動画へのフォーカスなどにも見てとれる。CITIAは今後、アヌシー映画祭の象徴であるウサギと共に、新たにアヌシーのマスコットとして馬を打ち出していくという。
国際アニメーション映画センターは、アニメーション美術館と紹介されることも多いが実際は美術館機能はごく一部に過ぎない。新施設の機能は展示だけにとどまらず、「映画鑑賞」「教育」「文化創出」など様々な役割を持っている。
展示施設も中央建物の常設展、さらに企画展示室がふたつと3つの異なるパートから構成されている。アニメーションのトレンドに合わせて展開する。常設展は貴重な原画やセル画、マケットなど、まさにコレクションが中心となる。アードマンの粘土人形やカートゥーンサルーンの絵コンテ、ルネ・ラルーのセル画、ビル・プリンプトンの原画など、歴史を感じさせるアイテムが所狭しと並ぶ。
展示するだけでなく、アニメーションの誕生から始まり、「アニメーションの動きとは何か」といったテーマを軸にキュレーションする。展示スペースは必ずしも広くはないが、明確な主張に惹きつけられる。
入り口の有名キャラクターのシルエットのお出迎えも見逃せない。トトロからシュレックなど世界的なキャラクターが同じ壁面に並ぶ。キャラクターの使用許諾を取るのも大変だったという。
企画展のひとつはフランスのメディアコンテンツ会社アンカマを振り返る「アンカマ:スケッチから神話へ25年の創造(Ankama: from Sketch to Saga, 25 Years of Creation.)」、そしてもうひとつは米国のストップモーションスタジオ「ライカ」の最新作「ワイルド・ウッド」のミニチュアを紹介する「ワイルド・ウッド:手造りの世界を初公開(Wildwood: A First Glimpse into a Handmade World)」だ。
アンカマは2001年に設立され、急成長したメディアコンテンツ企業。ゲーム会社を起点に次々と人気作品を生み出した。アニメだけでなく、ゲームやマンガなどの広い分野に及んだ展示は、フランスのなかではまだ多くないマンガ・ゲーム・アニメーションのマルチ展開の先進的な例となっている。
アンカマの主要3タイトル「ドフス」「ワクフ」「ウェイヴン」の3つエリアに分けてその世界観を紹介する。展示もゲームプレイや来場者参加型の仕掛けなどインタラクティブな要素を取り入れた。等身大のフイギュアなど、フォトスポットにも事欠かない。また、アンカマの歴史を辿る解説では、日本のマンガやアニメからの影響にもたびたび言及しているのが興味深かった。
もうひとつの企画展示「ワイルド・ウッド」は、アンカマ展に比べると展示面積で1/3程度と規模は小さい。しかし、もはやミニチュアと呼んでいいのかさえ分からない巨大なセット、そして細部まで細かで表情豊かな人形。驚愕の一言だ。いずれも映画の撮影で使用されたものだが、スクリーンからだけでは分からない質感まで確認できるのは、展示企画ならではの醍醐味だ。映画は北米では10月23日公開、日本での公開スケジュールは未発表だが、作品の期待を高めるのに十分な質の高い展示であった。
332席のシアターも用意されている。勾配が大きく、奥が深い。早速、映画祭の会場のひとつとして活用されていた。さらに中央の広場にも巨大なスクリーンと椅子が並べられ、屋外鑑賞も可能なスペースがある。展示だけでなく、「観る」ことも重視していることが分かる。
シアターで鑑賞をするのであれば、忘れずに見ておきたいのが入り口付近に設けられた「アニメーション・ウォール・オブ・フェイム(Animation Wall of Fame)」である。ここではアニメーションの歴史に残る巨人たちの手型いくつも並べて展示している。ミッシェル・オスロやウェス・アンダーソン、ピート・ドクター、クリス・メレダンドリ、それに日本のりんたろうら様々な名前が確認できた。
さらに中央棟にはワークショップのためのスペースが設けられ、施設内の独立棟のひとつはレジデンシャルプログラムに使用される予定だ。宿泊施設にスタジオがあり、アート施設のど真ん中でアニメーション制作に集中できる。まずは長編アニメーションのクリエイター3名が3カ月ずつ拠点とするプログラムを2026年秋から開始する。
また中央棟の主要な部分には、アヌシー映画祭と施設を運営するCITIAの本部も移転する。アニメーション文化の企画・運営組織が本拠を構えることで、まさにアニメーションの中心となる。
旧市街に近いもうひとつの入り口に近くにはフードホールが設けられている。天井の高いおしゃれな空間に地元の食材を中心としたお店約20店、その場で手頃に楽しめる。運営はCITIAとは切り離されているとのこと。文化施設の収益事業としているようだ。これとは別にミュージアムショップがあり、さらに今後は中央棟にもカフェもオープンする予定だ。
国際アニメーション映画センターは、アニメーション文化に関連する機能を全てまとめたることを実現し、さらにそれが年1回の映画祭と連動する。映画祭期間の不足するインフラや機能を補完するだけでなく、逆に一年を通じてアニメーションで地元を盛り上げる狙いだ。映画祭で高まった「アニメーションの街アヌシー」のブランドを積極的に活用する。
現在、日本でもアニメ・マンガ・ゲームを中心としたメディア芸術ナショナルセンター設立構想がある。展示や研究だけでなく複数の目的を統合し、同時に地域振興、映画祭を通じた文化発信に結びついた国際アニメーション映画センターは、今後の日本の試みにも大きな参考になるのではないだろうか。(数土直志)
【関連記事】
・
【アヌシー国際アニメーション映画祭2026】「花緑青が明ける日に」「タコピーの原罪」が審査員賞長編コンペ最高賞は日本占領下のシンガポール舞台、音楽への愛描く「The Violinist」
・
アヌシー国際アニメーション映画祭2026開幕、日本関連はコンペ選出作からクラシック作まで20本以上
・
「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」アヌシー世界最速上映&サイン会が大盛況!【現地観客の声&監督コメント】
・
クエイ兄弟に名誉クリスタル賞キャリア、制作プロセスを語るマスタークラスで新作映像披露【アヌシー国際アニメーション映画祭2026】