旅先で再会した元恋人同士が、共に過ごしたかけがえのない日々を思い出すことからはじまるラブストーリー『サヨナラの引力』(公開中)で、主人公に扮したムン・ガヨン。刻々と変化していく感情を繊細に表現した演技は高く評価され、第61回百想芸術大賞の映画部門最優秀演技賞(女性)に選ばれた。子役としてスタートし、着実にステップアップしてきた注目の俳優の歩みを振り返る。
【写真を見る】百想芸術大賞の最優秀演技賞に輝く!20代と30代のジョンウォンを繊細な演じ分けによって表現するムン・ガヨン
■地道にキャリアを積みあげ、「女神降臨」で大ブレイク!
1996年7月10日生まれで、幼少期をドイツで過ごした経験を持つガヨン。帰国後の2006年から子役として活動を開始し、「嫉妬の化身〜恋の嵐は接近中〜」、「医心伝心〜脈あり!恋あり?〜」といった人気ドラマに出演。映画では『シュリ』(99)のカン・ジェギュ監督が手掛けたヒューマンドラマ『チャンス商会〜初恋を探して〜』(15)で、小さな町のスーパーで長年働いてきた70歳のソンチル(パク・クニョン)と、彼の家の向かいに越してきた女性グンニム(ユン・ヨジョン)の恋を見守る高校生に扮した。環境問題に関心が高く、ボーイズグループ「EXO」のチャンヨル演じるボーイフレンドを圧倒するほど気の強い高校生役を溌剌と演じている。
“俳優ムン・ガヨン”の存在を広く知らしめ記念碑的作品となったのがドラマ「女神降臨」。日本でも映画化された人気ウェブマンガを原作とするこのドラマで、容姿にコンプレックスを持ち、中学時代はいじめに悩んだ主人公ジュギョンを演じた。メイク術を習得した後に入学した高校で“女神”と呼ばれるほどの人気者になった彼女は、学校一のイケメン、スホ(チャウヌ)に素顔を知られてしまい窮地に陥るも、次第に心を通わす関係に。さらにはスホのライバル、ソジュン(ファン・イニョプ)からも想いを寄せられ、戸惑う姿を愛らしく見せている。「顔の天才」というニックネームを持つチャウヌとの美しいカップルぶりは見ているだけで幸せな気分となり、ラブコメディのヒロインとしての実力も存分に発揮した。
「現場で自由に過ごすためには事前に完璧に準備しておく必要がある」と答えるほど、真摯に撮影に臨むガヨンが、俳優としてさらなる飛躍を見せたのが、ドラマ「愛と、利と」だ。同名小説を原作に、銀行の支店で働く人々の人間関係を精密に見つめるこのドラマでは、“恋愛”や“結婚”には感情だけでなく、それぞれが置かれている社会的な立場が大きく影響するというシビアな現実が描かれる。ガヨン演じるスヨンは、高卒という学歴ながら必死に努力して銀行の契約社員となり実績を上げているものの、支店内での評価は低い。そんな彼女はエリート行員であるサンス(ユ・ヨンソク)に好意を寄せられるが、「自分とは合わない」という理由から彼を拒絶してしまう。ガヨンは自分自身の望む人生を歩むため両親とも距離をとり、他人になかなか心を開かないスヨンという複雑な人物を見事に演じ切った。
■韓国で社会現象となったラブストーリー『サヨナラの引力』で初の映画主演に抜擢!
「愛と、利と」での好演がオファーのきっかけだったという『サヨナラの引力』は、ガヨンにとって9年ぶりの映画出演作。孤独な人生を送ってきた大学生ジョンウォンが、心から信頼できる相手ウノと出会い、やがて、恋人同士となっていく。仲睦まじく過ごすようになった2人だが、就職や住宅難といった現実が立ち塞がる。ガヨンは、自由奔放に見えて心の奥に寂しさを抱える20代と、過去を冷静に振り返る30代のジョンウォンを、話し方や声のトーンを変えて自然に演じ分けている。ウノの父親との心温まるシーンも心に残る。抜群のコンビネーションを見せるウノ役はドラマ「誰だって無価値な自分と闘っている」も好評だったク・ギョファン。百想芸術大賞の授賞式で喜びを語ったガヨンは「この賞も先輩のもの」と、ギョファンへの感謝を伝えた。
『サヨナラの引力』を終えたガヨンは、ラブコメディ「あいつは黒炎竜」、法廷ヒューマンドラマ「瑞草洞<ソチョドン>」に立て続けに参加。イ・ジョンソクが主演を務める「瑞草洞<ソチョドン>」では、同じビルに入居する事務所で働く先輩弁護士たちとの交流のなかで、自分の進む道を探す新人弁護士ヒジを演じた。10年前に香港で運命的な出会いを果たしたジュヒョン(ジョンソク)との恋の行方も見どころだ。それぞれの弁護士たちが抱えるリアルな案件と共に、彼ら彼女らそれぞれの生き方も描かれていて見応えたっぷり。ガヨンは依頼人に寄り添う姿勢を貫くヒジを落ち着いた演技で見せている。
本を読むのが好きで、2024年にはエッセイ集「PATA」を出版した経験を持つガヨン。将来的には小説も書いてみたいと思っているという。映画にドラマに引っ張りだこの彼女は、人気ウェブマンガを原作とし、『パラサイト 半地下の家族』(19)のチェ・ウシクや「素晴らしき新世界」のホ・ナムジュンと共演する2027年放送の新ドラマ「クジラ星」にも出演予定。日本の植民地下にあった1920年代を舞台に、親日派の家に仕える家政婦が、海に落ちた独立運動家を救ったことをきっかけに始まるラブストーリーとのこと。名作映画『八月のクリスマス』(98)を手掛けたホ・ジノ監督との共同作業のなかで、さらなる魅力を発揮してくれそうだ。
文/佐藤結
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