ホセ・ルイス・ゲリン監督インタビュー「この地域の現実が、世界のメタファーになる」10年ぶり新作「よき谷の物語」を語る

ホセ・ルイス・ゲリン監督近影

ホセ・ルイス・ゲリン監督インタビュー「この地域の現実が、世界のメタファーになる」10年ぶり新作「よき谷の物語」を語る

7月2日(木) 14:00

提供:
「シルビアのいる街で」(07)で知られる、スペインのホセ・ルイス・ゲリン監督の新作「よき谷の物語」が7月3日公開を迎える。第73回サン・セバスティアン国際映画祭で審査員特別賞を受賞した本作は、「ミューズ・アカデミー」(15)以来10年ぶりとなる待望の新作長編だ。ゲリン監督が作品を語るインタビューを映画.comが入手した。

登場人物は実際にバルセロナ郊外の集落、バルボナ地区に暮らす住民たち。地元で長年生活してきた人々、インド、ジャマイカ、ロシア、ウクライナなど世界中から集まってきた人たちを、バルセロナ出身のゲリンがインタビューするところから始まり、3年の歳月をかけ、愛情を込めて彼らの生活をフィルムに収めた。描かれるのは亡き妻を思い涙する老人、戦火から逃れてきた母娘、植物に話しかける果樹園の家族、ここではないどこかを夢見る若者。そして都市計画や環境問題、世代やアイデンティティをめぐる葛藤など全世界に共通する問題。みなが住むバルボナの歴史が鮮やかに綴られ、いつしか観る者を過去、現在、未来までつながった時間の旅へと誘う。

――この「よき谷の物語」どのような着想から始まったのでしょうか? 撮影地であるバルボナ地区のどのようなところに魅力を感じましたか。

最初は美術館からの、バルセロナの様々な地区をテーマにした短編映画の依頼でした。彼らは私にバルボナ地区を提案してくれたのです。美術館の予算内で、まずスーパー8で撮った12分間の短編を提出しましたが、このままでは終わらせたくなかったので長編映画にしようと思いました。ある場所で映画を撮る時には、その場所の全てを知りたいと思います。そして、その場所を誰かが撮ったことがあるかを知りたい。そこで、フィルムアーカイブに行って映像を探したけれども、バルボナを撮ったことがある人は誰もいなかったので、この地域の記憶を記憶を留めてくつもりで撮影しました。スーパー8で撮ったのは、映画の冒頭に出てくるモノクロ映像のパートです。これは現在だけれども、過去でもあるという両面を表すためでした。バルボナを見た時、自分が子どもの頃の60年代を思い出しました。アスファルトで舗装されていない道、川で遊ぶ子どもたちの姿。また、この地域の現実が、いまの世界のメタファーになると思ったために長編に仕上げました。

――撮影に約3年費やしたとのことですが、製作過程を教えてください。キャスティングや編集など、どのくらいの時間をかけましたか?

私の映画製作の問題というのは、いつも資金が足りないこと(笑)。脚本を作るのもまず資金調達のためで、そのあとに20分から30分の映像を撮り、この方向性でいけるかというのを確認し、追加の資金調達をするという流れです。すべてが一緒に進んでいるので、何に対してどのくらいの時間をかけた、と区切るのが難しいのです。

本作に関してお答えすると、まず初めにスーパー8で撮影し土地や人を知る。人々に集まってもらって物語を聞き、キャスティングに入り、皆さんが生活している中に自分やカメラが入っていく、という形でした。住民の皆さんには80人くらいインタビューしました。その中から個人的な資質を見つつ、地域の人間模様を代表できる人たちを選びました。もともと農業をしている人たち、南部から移ってきた人たち、昔を記憶しているスペイン人、昔の記憶がない若い人たち、ラテンアメリカ、インドから移ってきた人、ウクライナから移ってきた女性たち。例えるなら、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」のような感じでした。皆が思い思いにしゃべっており、自分が知っている日常とは異なる現実を生きる彼らの生活を私は撮っている、という感覚です。

撮影、編集するにあたり、次にどうするかを“発見”しながらつくっていたので、初めからこうしよう、と決めたことはなかったです。偶然と言いますか、突然起こることを受け入れたいと思っているので、そうすると構成も変わっていきます。

映画を作るとき、常にインスピレーションが来るのを待ちます。自分に強制することはしません。俳句もそうだと思うのですが、物事があった時に自分がどう見るか、とらえるか。物事に対しての自分の視線はどうなのか。その眼差しも変わっていきます。変化とともに、新しいことを発見していくのが私のスタイルです。

本作が普遍的な意味を持つことができたとすれば、この撮り方ができた、自分に与えられた特権だと思います。まるで葉っぱ一枚を熱心に観察することで木全体のことが分かるような、どの世界のどの人が見ても共鳴できる映画になっていたら嬉しいです。

――「シルビアのいる街で」でも緻密な音が印象的でしたが、今回も電車の音、人々の歌声など、さまざまな音が響き合うのが魅力的です。音響の設計についてもぜひ教えてください。

私は音がすごく重要だと思っており、現場を訪れる際にはまず録音技師だけを連れて行き、場所の音を録ります。どのような音がこの場所で聞こえてくるかを知るために、まず音だけを録りにいくのです。ここではない別の空間から聞こえてくる音、例えばサッカー場の声が聞こえてくると、どこかに競技場があるのだと感じる……フラメンコのカンテが聞こえてくる、誰かがどこかで歌っていると分かる……映っている場所とは別の空間から聞こえてくる音は、人々の想像力を掻き立てると思っています。また、夏と冬でもまったく聞こえてくる音が違います。夏はみな窓を開けているので、生活音がよく聞こえてきます。

――前回の長編映画「ミューズ・アカデミー」から10年、その間はパンデミックもあり、世界の様子は大きく変わりましたが、どのように過ごしていましたか。

様々な変化がありました。コロナ禍は、初めて合法的に生産性がなくてもいいという時期だったので、深い読書をしたりいろいろなことができて、個人的にはいい生活でした(笑)。生産性がなくてもいい、ということがどれだけ自分に恩恵をもたらしたか!

そういうふうに思えた自分自身の自然な生き方が、世界的なファシズムの台頭によって脅威にさらされていると感じます。私が子どもの頃はまさに、どうやったって逃げられないというような、独裁体制のフランコ政権時代でした。世界がそこに戻ろうとしているのかと、暗澹たる気持ちになりますね。

【作品情報】
よき谷の物語

【関連記事】
【動画】「よき谷の物語」予告編
ホセ・ルイス・ゲリン、「ミューズ・アカデミー」は「絶対的に自由な精神でできた作品」
世界が注目のスペインの映像作家ホセ・ルイス・ゲリン監督が来日幻の処女作を語る

all rights reserved: josé luis guerin
映画.com

エンタメ 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ