亡くなった人間が、会いたい人に会える最後のチャンスを与える不思議な美容室を舞台にしたヒューマンファンタジー『死神バーバー』。新米死神の早とちりでこの美容室に連れてこられたヒロイン・佐伯美帆を演じた桜井日奈子が、脚本やいまおかしんじ監督の現場の面白さを語る。
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Photo/藤本和典
Styling/有咲
Hair&Make up/Hitomi(Chrysanthemum)
Text/佐久間裕子
――主演のオファーを受けたときの気持ちはいかがでしたか?
桜井:主演映画は7年ぶり、主演に呼んでいただけるとテンションが上がるので、「よし、やったるぞ!」って気持ちでした。2年前に出演した舞台を観て、私をキャスティングして下さったんですね。自分が関わった作品が評価されて一緒に仕事をしたいと思ってもらえたので、「オファーして良かった」と思っていただけるように頑張るぞと思えました。それととにかく脚本が面白かったですね。死や大切な人とのお別れをテーマに扱っているので、重たい話なのかと思いきや、ポップで温かい。観た後に自分の大切な人をもっと大切にしようと思えるような、前向きな気持ちになれる脚本だったので、ぜひやりたいと主演をお受けしました。
――脚本のどんなところに面白さを感じましたか?
桜井:亡くなる人の最後の1日のエピソードがいくつかあって、それぞれの人たちの後悔みたいなものが描かれているんですが、それを死神が「人間はバカなのか?」と思いながら見つめている。死神にはわからないことだから。でも確かにそうだよな、わかっていつつも素直になれない人間って愚かだよなって、自分も人間なのに思わされてしまうのが何とも面白く感じました。
――桜井さんが演じた美帆は、職場でもプライベートでもうまくいかずイライラしています。桜井さん自身は美帆をどんな女性だと思って演じましたか?
桜井:不器用だなって思いました。一生懸命強がるけど、自分の弱いところを見せたくない、見せられない弱さがある。だからイライラしたり、人に当たってしまう子なんだなって。自分が悩んでいる人間関係ももっとうまくできるはずだし、そうできる方法を美帆もわかってはいるんです。でもやらずに強がっちゃう。その強がりは、その自分の弱さをひた隠しにするための鎧なんだと思いました。
――弱いからこそ強がってしまう美帆と桜井さん、共通する部分はありますか?
桜井:私も普段は気を付けているけど、心の中でイライラしちゃうこともあるんですよ。出すと自分が損をしてしまう気がするから出さないですけど、実はイライラしている、そんな美帆の感情の乗り方は私にも近いものがありました。美帆は親に素直になれないところもあって、私も親の前ではカッコつけちゃうんですよね。実家に帰って、仕事のことを聞かれても、「いや、別に……。全然うまくやってるけど」みたいな(笑)。心配させたくないから強がってしまう。そこも自分と近いと思いました。
――美帆は美容師ですが、撮影に入る前にそのための役作りはしましたか?
桜井:美容師さんに髪の切り方を教えていただいて、ハサミをお借りしてマネキンを持って帰って家で練習しました。美容師さんが持つハサミって持つ部分が輪っかになっているじゃないですか。基本的にあそこには指を通さないんです。私たち、美容室に行く機会が多いのに、切り方に着目したことなかったなって思いました。どの美容室も同じ切り方をしているらしいんですね。輪っかに指を通さないハサミの使い方が本当に難しくて!ここに輪っかがあるのになんで指を通さないんだって思いながら練習しました。それで……ここだけの話なんですけど、私は趣味でバスケをやっているんです。月1ぐらいで集まって本格的にやるバスケの日に突き指しちゃったんです。でも怖くて言えなくて、隠して撮影しました。
――逆に指を通さない切り方で良かったですね(笑)。
桜井:良かったって思います。
――いまおかしんじ監督とは、役柄やお芝居についてディスカッションしましたか?
桜井:最初美帆がぷりぷり怒っている場面が続くんですが、私は感情が乗ってしまうと「わぁっ!」とやってしまうタイプなんですね。そこで「美帆ちゃん、もうちょっとマイルドにして」と監督に言われたので、「監督は怖い女性が苦手なんですね」と言ったら、「奥さんが怖くて」とおっしゃっていました(笑)。あとこれは美帆に関してではないんですが作品に入る前、顔合わせをした際に、「どういう風にやったって僕は作品にするから大丈夫」とおっしゃったんです。その安心感がありつつも、いまおか監督の演出はポップなんですね。現場で脈絡もない動きをつけるので、大丈夫なんだろうかって少し思って、監督にはすごく心を掻き乱されました(笑)。
――脈絡ない動きをつけられたら戸惑うでしょうね。
桜井:例えば「ここで大きい声出してみて」、「ここで変な動きしてみて」みたいな演出を入れるので、私はどう処理していいか正直わからなくて。ここでこの動きをしたら、役との整合性みたいなものが崩れるんじゃないかって、ちょっと思ったりもしました。でも完成した作品を観たら、ちゃんとその役が取る言動に見えるんです。脈絡もなく思えたものが強がりに見えたり、素直になれない人間みたいなものが表現されていた。「今のなに?」って演出が入ったことによって、この作品がポップになっていると思いました。
――具体的にどんな動きをつけられたのか気になります。
桜井:金槌をお道具箱から出すシーンで、「ネコ型ロボットみたいな声を出して」と言われました(笑)。で、「かなづちぃ〜」って言ったんですけど、使われるわけないと思っていたらちゃんと使われていて、そういうのが作品のスパイスになっていました。
――新米死神・サクマを演じた日穏さんの印象はいかがでした?
桜井:多分、どの現場でも言われていると思いますが、とにかく落ち着いていました。日穏くんが19歳のときにご一緒しましたが、なんか10代のキラキラ感が……(笑)。達観している感じというのかな。とても10代とは思えない落ちつき方をしていました。いまおか監督の脈絡がないように思える演出にも、私は一瞬悩むけど日穏くんは「わかりました」ってスッとやるんですね。とりあえずやってみる。その潔さも、サクマという難しい役を軽やかに演じて見せるところも末恐ろしいというか。とても10歳ぐらい年が離れているようには思えなくて、私も頑張らなきゃと思いました。
――撮影の合間にお話はされたのでしょうか。
桜井:雑談しました。撮影当時、日穏くんはまだオーディション中で、ダンスを覚えたりする期間だったんです。その時、日穏くんが歌っている動画を見せてもらいました。キレッキレで踊って歌っているし、絶対デビューするんだろうなって感じました。そして俳優業も素晴らしい。日穏くんが演じたサクマはとても魅力的になっているので。歌って踊れて、芝居もできて、怖いものなしですよね(笑)。
――普段生きていると、たまに死ぬことが怖くなることもあるけど、日頃から死を意識しているわけではないですよね。今回、常に死と向き合う役をやって現場に臨む意識に違いはありましたか?
桜井:違いました。シーンによっては、美帆にとって残り何日なんだろうかって意識してやっていたので。最初、死ぬまで5日間ある頃は、「何だ、死んだのかよ」みたいな、もうどうでもいいってテンションだった美帆が、死へのカウントダウンが進むに連れて、「いや、どうでも良くないぞ」ってだんだん気づいていく。そして今までないがしろにしていたことと向き合わざるを得なくなり、それに向き合うと「何でこんな簡単なことができなかったんだろう」って思うようになるんです。実は私も死と向き合う役が、連続して続いたので、死と向き合わざるを得ない時間が本当に長くて。でも忘れちゃうんですよね。作品が終わるたびに忘れちゃう。あんなに日々を大切にしようと思っていたのに、忙しさに追われて。そのたびに人間はそういう生き物だよなって思わされています。
――今作は人との出会いや繋がりの大切さもテーマの一つとして描かれていると思いますが、最近桜井さんご自身がそれを感じたことはありますか?
桜井:私はこの仕事を始めて12年目になりますが、以前現場でご一緒した方と再会することが増えて来ました。お互いちょっと成長した姿で再会したときに、「うわ、頑張って来て良かったな」と思うし、そこには昔とは違うお互いの価値観みたいなものがある気がして。成長した自分たちで話し合ったりすると、自分は生きてるなと感じるし、この繋がりを大切にして次にも繋げていきたいと思います。この仕事って、その繋がりの連続だと思うんです。逆に繋がらなければ終わってしまう仕事でもあると思うから、映画やドラマ、舞台、どの現場でも「次に繋がるように」と必ず思います。それはどこかで必ず意識してやっていることで、舞台から「死神バーバー」に出会えて良い御縁に繋がったな、この作品がまた次に繋がればいいなって思っています。
――以前一緒に仕事をした方とのお話で印象に残ったことはありますか?
桜井:結構失礼なことを言われることもあります(笑)。以前ご一緒した制作側の方に「当時は言わなかったけど、テンション上がらなかったんだよね」と言われたり。でも「今は良い俳優になったね」と続くんですけど。それから最近、昔より話しやすくなったねって言われるようになりました。昔はなんか……怯えていたんです。人間関係にしても傷つけられることを怖がっていたし、いろんな大人の目も怖くて。でも今は昔より楽しく仕事もできて人と話すのも楽しくなりました。
――映画の中のような美容室があって、髪をスタイリングしてもらって大事な人に会いに行けるならすごくうれしい気持ちで死を迎えられるんじゃないかと思いました。桜井さんは死神がどんなことしてくれたら楽しく一生を終えられると思います?
桜井:走馬灯を1本の映画にして欲しい(笑)。
――それは素敵なアイデアです。
桜井:自分の人生すごく良かったって思えそうじゃないですか。来世もがんばろうって(笑)。
――間違いない。ところでPop’n’Rollはアイドルもたくさん登場するサイトなのですが、桜井さんにとってのアイドルは誰ですか?
桜井:芸人さんなのですが、この人たちはずっと推すという二組がいまして、シソンヌさんと空気階段さんです。大好きで二組とも単独ライブを観に行きます。空気階段さんのラジオを毎週欠かさず聴いていて、ラジオのエピソードによく登場する鈴木もぐらさんのお母さんも好きです(笑)。先日は朝日放送の「旅サラダ」という番組で、シソンヌのじろうさんの地元・青森の弘前を旅しました。
――それはいわゆる聖地巡礼ですね。
桜井:はい、聖地巡礼してきました。ずっと弘前に行きたいと思っていたんです。でもプライベートではなかなかタイミングが合わなくて。それでじろうさんに直接、番組でこういう企画があって弘前に行こうと思っているんですが、おすすめの場所ありますかって聞きました。そしたらじろうさんが地元に帰ったときに行くお店などをピックアップして下さって回ってきました。
――聖地巡礼してみてどうでした?
桜井:最高でした(笑)。どこに行ってもじろうさんのグッズやサインがあるんです。じろうさんが愛されている場所を巡ることができて、推しの好きなところに行ったら、推しが推されて、推しと繋がったみたいな感覚になりました(笑)。
――シソンヌさんと空気階段さんをずっと推したいと思うきっかけは何だったんですか?
桜井:二組ともコント師ですので、賞レースをテレビで観ていたり、お笑い番組がきっかけでした。私はネタが面白いとその人のことを知りたくなるんです。「何でこんなに面白いネタを作れるんだろう」って知りたくなるから。それからじろうさんのエッセイを読んだり、空気階段さんのラジオを聴いたりして、その人となりがわかってもっと沼る、みたいな感じでした。
――シソンヌさんも空気階段さんもお芝居が上手ですよね。
桜井:そうなんです。この二組に共通しているのが、役者としても活躍されていることで。演技力が高いから、そのコントの世界観に連れて行ってくれるんですよね。ネタを観ているのに、時折ゲラゲラ笑える芝居を観ているような気分になるので勉強になります。
桜井日奈子
1997年4月2日生まれ、岡山県出身。
2014年「岡山美少女。美人コンテスト」美少女グランプリ受賞。近年の主な出演作に映画『SAKAMOTO DAYS』(26年)、ドラマ「余命3カ月のサレ夫」(テレビ朝日系)、「コンサルタント―死を執筆する男―」(WOWOW)など。7月9日よりスタートのドラマ「ラストノート」(フジテレビ系)に出演。
映画『死神バーバー』
6月26日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
出演:桜井日奈子、日穏、岡部大、平井亜門、猪塚健太、佐久間祥朗、河屋秀俊、武田暁、山脇辰哉、細井じゅん、坂巻有紗、日高七海、光嶌なづな、荒井啓志、佐々木ほのか、山下敦弘、川上さわ、守屋文雄、森蔭晨之介、西山真来、工藤遥、宇野祥平/美保純
監督:いまおかしんじ
脚本:谷口恒平
主題歌:Furui Riho「太陽になれたら」(LOA MUSIC / PONY CANYON)
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