<北斗の拳>前田洋志監督が語る、3DCGで挑む“世紀末”の映像美学「百裂拳は、ゾッとするほどのすごいカットになった」

TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より/(C)武論尊・原哲夫/コアミックス, 「北斗の拳」製作委員会

<北斗の拳>前田洋志監督が語る、3DCGで挑む“世紀末”の映像美学「百裂拳は、ゾッとするほどのすごいカットになった」

6月26日(金) 17:00

TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より
【画像】3DCGを駆使し、圧倒的な劇画タッチを再現

最新の3DCG技術と豪華キャスト陣で令和に蘇った完全新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』(TOKYO MX・BS11ほかで放送中、Prime Videoで配信中。アニメーション制作:トムス・エンタテインメント/第7スタジオ)。いよいよ最終話となる第14話の放送を目前に控え、物語は「牙一族編」のクライマックスへと突入する。今回は、本作で初監督を務める前田洋志監督にインタビューを敢行。撮影監督出身ならではの「光と影」の演出術から、3DCGで“劇画”を動かす試行錯誤、そして第1話で視聴者の度肝を抜いた渾身の「北斗百裂拳」の裏側まで、本作にかける並々ならぬ熱量を語ってもらった。

■過去作の歴史とファンの想いを背負う、初監督としての覚悟と手応え

――いよいよクライマックスを迎えます。まずは本作の監督のオファーを受けた際の率直なお気持ちから聞かせてください。

前田まずビックリして、その後に喜びが来て、最後には恐怖が襲ってきました(笑)。でもやっぱり怖さよりも喜びが勝って、それで覚悟を決めました。

――前田監督は、本作が初監督作品なんですよね。

前田そうなんです。以前、海外で監督補佐という立場でテレビシリーズを作ったことはあるんですけど、国内の、しかも『北斗の拳』というビッグタイトルですからね。それは怖いですよ(笑)。

――監督と『北斗の拳』との出会いを教えてください。

前田忘れもしません。小学校低学年の頃、一人で歯医者に行った時に待合室に置いてあった「週刊少年ジャンプ」を読んだんです。ページをめくるたびに血しぶきが舞って、怖くてたまらないのにどうにも惹きつけられてしまって。その後の恐怖の治療とセットになって若干のトラウマになりましたね(笑)。まさかそれから数十年経って監督をすることになるとは、人生分からないですよね。
TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より


――『北斗の拳』はアニメやゲーム、遊技機など、長年にわたって愛され続けてきた歴史があります。アニメを作るにあたってはどんなことを意識されましたか?

前田過去の様々なメディアから入ってくださったファンの方々、一人ひとりの中に「それぞれの『北斗の拳』」が存在している中で、どう落とし込むかは大きな課題でした。でも僕の場合、国内での監督経験がないからこそ、「監督ってこういうものだよ」というルールや慣習に縛られずにやれている部分もあって。本来は監督の領分でないところまで踏み込んで頼んだり、逆に「これはこの人の方が得意だよね」という部分はあえて他の方にお任せしたり。結果として一番良い形になるよう動けていると思うので、そこは手応えとして感じています。

――放送がスタートし、ファンの皆さんの熱い反応がSNS等でも連日話題です。

前田本当にありがたいです。歴史のある作品ですからどう作っても賛否があるのは覚悟していたんですけど、それでも好意的な反応が多くて、励みになっています。良い評価はそのまま受け止めて自信にして、今後の現場作りに活かしていこうとスタッフ一同で取り組んでいます。スタッフの熱量がとにかく高いので、このチームワークが何よりの財産ですね。

――キャストの皆さんの熱量も凄まじいとお聞きしました。

前田アフレコも含む音響回りは小沼則義音響監督にほぼお任せしているんですが、休憩時間に遠くから「アタタタタ!」とずっと百裂拳の練習をしている声が聞こえてきて。ケンシロウ役の武内駿輔さんが、あらゆる所でずっと練習されていたんです。この役柄にかける思いがヒシヒシと伝わってきて、深く印象に残っています。
TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より


TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より

■「原作の再現」と「映像表現の面白さ」の融合

――今回は3DCGを駆使して、原哲夫先生の圧倒的な劇画タッチを見事に再現されています。制作にあたり、原先生からどのようなお言葉があったのでしょうか。

前田最初はスタッフ間でも「原作通り作っていこう」という共通認識があったんです。でも、すでに何話かの映像ができた段階で原先生に見ていただく機会があって。そうしたら先生が「原作なんか無視していいよ、ぶっ壊していいよ」と言ってくださったんです。それよりもエンターテインメントとして面白いものを目指してくださいと。それならば、原作のメッセージ性やストーリーはしっかり押さえた上で、映像表現としての面白さをとことん追求しようと心がけました。

――キャラクターデザインの久恒直樹さんやCGモデラーの方々との試行錯誤も多かったそうですね。

前田そうですね。漫画特有の“トメの絵”をどう立体化し、どこまで線を生かしてどこまでデフォルメするのか。久恒さんが良いところを狙ってデザインしてくださったものを、CGモデラーの方々が「ここはタッチがあったほうがいい」「ここは黒いほうがいい」と粘り強く修正を繰り返してくれました。一筋縄ではいきませんでしたが、結果として狙っていたところにちゃんと行けたという自負があります。
TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より


――前田監督は撮影監督出身ですが、本作は特にライティングへのこだわりを強く感じます。

前田普通のアニメだと正面から光を当てる「順光」を多用しますが、本作ではあえて顔の半分や3分の2を影にする表現を多く取り入れています。また、「リムライト」と呼ぶんですが、輪郭線に白い光のフチを入れることで、シルエットや表情が際立つんです。アクションに関してはブルース・リーをモデルにしていることもあり、見栄えのカッコよさを何よりも重視しています。

――色彩設計も非常に独特で印象的です。

前田原先生から「世紀末の世界だから現代の常識は通用しない。誰も彼もが壊れているんだ」と伺ったので、日常とは関係のない色を積極的に使っています。シンの戦いでは金色、ハートとの戦いでは緑など、リアルよりも心情に寄り添い、恐怖のシーンは青く、感情が沸き立つところは赤や明るい色味にする。視聴者の中には「なんでこんな色なの?」と不思議に思う方もいるかもしれませんが、小沼音響監督もSNSでおっしゃっていた通り「北斗の拳なんだから」というマインドでやっています(笑)。

――(笑)。それで言えば、凄惨な流血などのグロテスクな表現も逃げずに描かれていますよね。

前田基本的には制限は何も考えずに全力で作ろうと決めました。規制に関しては作った後に考えようと。そういうバイオレンスな表現も本作の大きな魅力ですから、変に躊躇せず思いっきり作っています。

――アクション面でも、技の解像度が素晴らしいです。第1話のジード戦で炸裂した「北斗百裂拳」は、まさに圧倒的でした。

前田あの百裂拳は思い出深いシーンですね。原先生の思う百裂拳、僕の思う百裂拳、みんなの思う百裂拳をどう合わせるか。せっかくの3Dなんだから、ダイナミックなカメラワークで凄まじい熱量を叩きつけたいという思いがあって。副監督の小笠原一馬さんが切ってくださった絵コンテを見て「そっか、百裂拳ってこうだよね」とみんなが納得しました。出来上がってみると、ちょっとゾッとするくらい凄いカットになっていましたね。手描きだととんでもない労力が必要ですが、3Dだからこそトライ&エラーを繰り返して辿り着けた表現です。
TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より


――第1クールの後半では、レイの存在感が際立っていました。ケンシロウの「北斗神拳」とレイの「南斗水鳥拳」の対比はどのように意識されましたか?

前田ケンシロウの北斗神拳は、地面にどっしりと根を張って揺るがない。一方の南斗水鳥拳は華のある拳なので、しなやかな動きで空中戦を積極的に取り入れています。レイは「必要ないだろ」ってツッコミが入るくらい本当に飛びまくってます(笑)。地に足をつけた北斗神拳と、飛ぶ南斗という対比で面白さを明確にしています。また、レイについては「どこで止めてもカッコいい画になる」ということも意識していますね。

――そして最終話となる第14話では、いよいよケンシロウとレイが戦います。どんなところに注目して欲しいですか?

前田ケンシロウとレイの感情の動きに注目して欲しいです。レイが「お前を殺すしかない」とかかっていくのに対し、ケンシロウは一切手を出さず、躱し続けます。自ら攻撃しないことでケンシロウのレイへの感情の深さが伝わりますし、攻撃せざるを得ないレイの葛藤も、アクションと表情、役者さんの声でうまく組み立てられたと思っています。個人的にレイが大好きなこともあって、じつは技のエフェクトも僕が率先して作っていたりします。「こうしたいああしたい!」ってやりすぎて、現場から「余計なことするな」って怒られながら(笑)。
TVアニメ「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」より


――(笑)。それでは最後に、第14話の放送に向けてファンへのメッセージをお願いします!

前田僕がこの作品で一番大事にしているのは、漫画を読んでいる時の「もう終わっちゃった。早く来週が来ないかな」と待ちわびる感覚を再現することなんです。映像のテンポ感も、ページをめくるスピードに近づけています。今後は、いよいよ北斗四兄弟が揃い踏みします。おのおのが思うところに向かって歩み、そこで交差する運命が描写されていくので、大変なことになりますよ(笑)。ぜひ、その熱量とスピード感を楽しんでいただけたら嬉しいです。

――本日はありがとうございました。

◆取材・文=岡本大介



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