ワールドカップ各国のカタチ――現代戦術と代表チームの葛藤
VOL.2:アルゼンチン
世界のサッカーは、ポジショナルプレーの普及によるビルドアップの進歩と、それに伴うハイプレスの普及で、全員守備が必須な時代に突入しようとしている。しかし、ワールドカップを戦う代表チームは、それぞれ特別な国民的スターを抱えているために、全員守備に舵を切れない事情がある。
ひとりのスターを残りのフィールドプレーヤーで支える「1+9」か、それともスターを入れない「10」か。強豪国それぞれの現状を探る。
【メッシの得点力は今が全盛期!?】
この人はいったいいつが全盛期だったのだろう、と考えてしまった。
アルジェリア戦でハットトリック、次のオーストリア戦も2得点。チームの全得点をひとりで叩き出している。とはいえ、今がピークでないのは間違いない。我々は過去にもっと走れて、もっと速かったリオネル・メッシを見たことがある。けれども、その全盛期のメッシでもワールドカップの2試合で5ゴールを決められただろうか。
ワールドカップで世界を感嘆させるメッシとアルゼンチンの活躍photo by JMPA
メッシのW杯初得点は2006年グループステージ、セルビア・モンテネグロ戦。この時はまだ主力とは言えず、途中出場でのゴールだった。それから6大会に連続出場、オーストリア戦の2得点で通算18得点となり、歴代最多ゴールの新記録を更新した。
1試合での複数得点は2014年のナイジェリア戦、2022年決勝のフランス戦、そして今大会の2試合。すでに全盛期を過ぎていた前回と今回を除くと、意外にも複数得点は1回しかない。バルセロナでは得点しまくっていたが、すでに主力中の主力だった2010年大会は無得点だった。
6大会での最多得点は今のところ2022年の7得点。それに次ぐのが今大会の5得点。さらに得点を重ねて自己最多得点を達成する可能性も高そうである。35歳だった前回、6月24日で39歳になった今回――この2大会のほうが、得点力に限れば全盛期を上回っているのだ。
チームとしてメッシの得点能力をより生かせるようになった。メッシのゴールがチームを勝たせているとも言える。チームにはメッシが必要で、メッシもチームメイトを必要としている。
しかし、ここまでアルゼンチン代表とメッシが一心同体になったのは、前回2022年大会からだった。
【イチゴとショートケーキの関係】
18歳で2006年W杯に出場したメッシは、スーパーサブ的な扱いだった。疾風のウイングという印象。
4年後の2010年はディエゴ・マラドーナ監督の信頼を得てトップ下に据えられた。得点よりもアシストに回るような役回り。この大会は1点も取っていない。
2014年、ここからアルゼンチンはよりメッシ仕様になっていく。4得点で決勝まで牽引したが優勝はできなかった。
2018年、完全にメッシのチームになっていたが1得点にとどまる。ラウンド16で、この大会で優勝するフランスに敗退。これが最後のW杯になると思われた。
バルセロナの育成機関で育ったメッシにはアルゼンチンリーグでの実績がなく、母国ではどこか外国人選手に対するような眼差しが向けられていたものだ。バルセロナでの超人的なプレーを代表で再現できないこともファンを苛立たせていた。
やがてメッシは卓越したプレーでチームを牽引し、完全に中枢となっていったが、チームとメッシの間には依然としてわずかな隙間が感じられたままだった。バルセロナとの違いを埋めようとして埋まらなかった。
その微妙な隙間が完全に埋まったのが2022年大会である。
なんと、アルゼンチンはチームから完全にメッシを切り離してしまった。だが、懸命に融合を試みて埋まらなかった隙間が、これで埋まったのだから皮肉なものだ。まるでイチゴのショートケーキだった。
イチゴが乗っかっていなければショートケーキではない。しかし、イチゴとその他の部分は完全に別々の物体だ。ほぼ何の加工もされず、ただ果物としてのイチゴが乗っているという不思議な調和の仕方である。ショートケーキにイチゴは不可欠だが、イチゴだけならそれはケーキではない。
【伝統の守備力と技巧でメッシを支える】
アルゼンチンはメッシ以外の10人でひとつのチームとして機能させることにした。メッシはイチゴのようにポツンとチームに乗っけるだけ。メッシに守備はさせず、残りのフィールドプレーヤー9人で守り、ボールをメッシまで届ける。そしてメッシが得点を生み出す。
MFロドリゴ・デ・パウルは"メッシ専用機"と化した。メッシの背後を守り、メッシがほしがっていればいつでもボールを渡す。デ・パウルほど直接的でなくても、他のチームメイトもメッシを支えるために働いている。
デ・パウルのいる右サイドの反対側の左サイドには、隠れウイングを置く。前回このポジションを務めていたアンヘル・ディ・マリアの跡を継いだのは、ティアゴ・アルマダ。センターフォワード(CF/ラウタロ・マルティネスまたはフリアン・アルバレス)、メッシ、アルマダの3人がアタッカーだが、左のアルマダはMFの守備ラインに組み込まれていて、CFも守備タスクを負っている。守備時にはメッシだけが切り離される。
メッシがいるのでハイプレスはほぼできない。中盤からの待ち受け守備が基本。しかし、アルゼンチンはハードな守備力が伝統だ。待ち受け守備なので相手にはある程度ボールを保持されてしまうのだが、そこは持ち味の守備力で乗りきる。メッシ以外に守らない選手、守れない選手がいない。
一方、ボールを持てば巧みだ。こちらも伝統。保持率は大して上がらないが、保持力自体は高い。ボールを奪った後の相手のカウンタープレス回避は屈指のハイレベル。しっかり運べる。あとはメッシの出番だ。
技巧派は多いがまず守備力。そこが弱ければ「イチゴ」は載せられない。
全く別の物体であるイチゴを、そのまま載せることでショートケーキが成立しているように、アルゼンチンは完全なチームになった感がある。
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