「日本のサポーターが世界中にいる」W杯でも起きる日本ブーム
ワールドカップ(W杯)サッカーで日本がオランダと引き分けた6月14日、オランダ・アムステルダムの知人からメールが来た。
「日本の強さは本物だ。オランダが勝てなくて残念だが、日本チームを誇りに思う」
空手が好きでアムステルダムの道場に通っていた彼は、15年前、アポなしで日本の空手道場の門をたたいた。稽古に打ち込む一方でアニメやゲームなど日本の若者文化にもはまった。アムステルダムに戻りIT企業で働いているが、本人の自慢は「日本ブームが来るはるか前からの日本通」であることだ。
その彼は「今回ほどW杯で日本が優勝するチャンスはない」と力説する。「日本通」だけあって日本チームの戦力を詳しく分析し、日本サッカーのレベルの高さを熟知しているが、力説する理由はそれだけではなかった。
「今はヨーロッパもアメリカも日本ブームだ。日本という国の素晴らしさを体験するために、みんな日本を訪れる。だからW杯でも日本が気になっている。簡単に言えば日本のサポーターが世界中にいるということだ。こんなことはめったにない」
日本のインバウンドブームが、W杯でも起きているというわけだ。
欧米のメディアは、前回大会(’22年)で強豪のドイツ、スペインを破ったことや、今回のアジア予選での圧倒的な強さを引き合いにして、日本を今大会の「ダークホース」の筆頭格にあげている。世界のサッカーファンが日本チームに関心を寄せるのは、なんといってもチームの実力が一番の理由だが、インバウンドで日本への理解が進んだ分、日本への評価に厚みが生まれているようだ。
メキシコ系商店主「日本はいいチームと評判」
前回のコラムで紹介したニューヨーク・クイーンズ地区のジャクソンハイツに、別の取材で訪れた。ラテン系移民の多い街で、見知らぬメキシコ系の商店主が話しかけてきた。
「お前は韓国人か?そうやすやすとメキシコには勝てないのさ」
その前日の6月19日、メキシコは韓国に1対0で辛勝し、ひやひやしながら観戦していたようだ。韓国人でなく日本人だと告げると目の色が少し変わった。
「そうか日本か。同じグループにならなくて神様に感謝していたんだ」
この商店主は日本のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングがメキシコの4つ下の18位であることを知っていた。
「今回、日本はいいチームだってもっぱらの評判だぜ。仲間の中にはファンデュエルで日本の優勝に賭けている奴もいる」
ファンデュエルとはアメリカの大手スポーツ賭博会社のことで、今回のW杯のテレビ中継を見ていると、試合の合間に賭博会社のコマーシャルが度々、流れる。ニューヨークではスポーツ賭博は合法化されており、賭けでも日本の評価は高いようだ。
「秋に甥っ子たちが日本に旅行に行くんだ。あいつら日本のアニメや飯に首ったけでね。よろしく頼むよ。W杯で対戦することになったらお手柔らかに」
陽気な商店主は笑いながら適当なことばかり話していたが、オランダ人の知人が言うように、サッカーファンの日本に対する見方は、以前とは違っていることを実感させられた。W杯でのインバウンド効果を補強するように、日本の評判を上げているのが、スタジアムでの日本人サポーターのごみ収集である。
夕方の全国ニュースでも取り上げられた日本人サポーター
1998年のW杯初出場以降、サッカーの国際試合が行われる会場で日本人サポーターが試合終了後、ごみを収集し持ち帰る姿が話題になっている。今回も14日のオランダ戦終了後、サポーターのこうした姿が見られた。アメリカで英語での独占放送権を所有するFOXは、ゲーム終了後に試合を振り返る際、ごみを集める日本人サポーターを生放送で映し出して賞賛した。
3大ネットワークの1つであるCBSの夕方の全国ニュース「CBSイーブニングニュース」は試合翌日の15日、番組冒頭のヘッドランと最終項目のニュースとして取り上げた。
サポーターが感謝の気持ちを込めて清掃している場面を紹介したほか、試合後、日本選手のロッカールームがきれいに整頓され、時には関係者を気遣いの手紙を置かれていることを伝えた。また対戦相手のオランダと仲良くなった日本のサポーターが胴上げされているシーンなども報じ、日本人の常識ある行動と友好的な姿をアメリカ人に伝えた。
キャスターのトニー・ドコーピル氏は「日本も他国と同様に様々な問題を抱えているが、日本のファンはすでに、ほとんどの国の観光客が得られていないもの、すなわち『世界的な尊敬』を勝ち取っている」とコメントして、この日のニュースを締めくくった。
日本を訪れた外国人の多くはごみがない日本の街中の美しさに驚くが、W杯でのサポーターの姿は、日本の街をアメリカで再現した形となった。日本チームの外国人サポーターはますます増えそうだ。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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