仕事終わりの一杯。ネクタイを緩めて、ふぅとひと息――そんな時間に、つい誰かに当たってしまった経験、ありませんか。料理が遅い、店員の態度が気に入らない、注文と違うものが出てきた。普段なら笑って流せることでも、疲れていたり、お酒が入っていたりすると、つい強い言葉が口から出てしまう。誰にでも、起こり得ることかもしれません。
UAゼンセンが2024年に行った調査によると、サービス業従事者のおよそ2人に1人(46.8%)が、直近2年以内に客からの迷惑行為被害を経験していると回答しています。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、ある居酒屋で若い女性店員に執拗に文句を言い続けた中年男性客の話。怒鳴り声に居合わせた客たちが息を潜めるなか、その“クレーマー客”の正体が、まさかの形で明らかになります。
記事の後半では、ここ数年で大きく変わってきた“お店と客の関係”について、少しだけ覗いてみます。
***
飲食店などでたまに目にする店員にやたら横柄な態度を取る客。延々と文句を言い続けるのは、店の業務の妨害行為にほかならず、居合わせたお客たちにとっても不快以外の何者でもない。
居酒屋のカスハラ客は、社内でも悪名高きパワハラ課長だった
今から半年ほど前、食品メーカーに勤める
小池智弘さん(仮名・35歳)
は、別の会社に勤める友人と入った居酒屋でカスハラ客に遭遇。注文したメニューがなかなか来ないことに腹を立て、アルバイトらしき若い女性店員に向かって執拗に文句を言い続けていたという。
「そのグループの席は、私たちのテーブルの斜め前だったので覚えていますが、注文したのは自分たちより後でした。私の感覚では10分経ってるか経ってないかくらいでしたし、それで『いつまで待たせるんだ!』って言いがかりにしてもひどすぎます。
そもそも彼らのテーブルには飲みかけのビールジョッキが置いてありましたし、それを飲んで黙って待ってろと言いたい気分でした」
なお、問題のカスハラ客は小池さんの知っている人物だった。トイレに行きたくなり、お手洗いに行く途中にチラ見すると、部署こそ違ったが同じ会社の課長にあたる人物だったからだ。
「大きい会社ですし、直接話をしたことはありません。向こうはまったく知らなかったと思いますが、同じ階のフロアの部署だったのでこちらは見た瞬間に気づきました。あちゃー、管理職の癖に社外で人様に迷惑かけんなよ、って思いましたね(苦笑)」
ただし、その課長のカスハラ行為自体に驚きはなかった。以前、友人として付き合っている親しい同期が彼の部下だったのだが、パワハラ的な言動や態度があまりに多く、飲むたびに愚痴を聞かされていたからだ。
「あと、社内恋愛中の彼女もこの課長の下に就いていた時期があり、『立場や肩書きで態度を変えるクソ上司』とボロクソに酷評してました。
しかも、罵声を浴びせたりはせず、言葉遣いも丁寧なのですが嫌味が多いらしく、『余計にタチが悪い』って。目の前の課長は酔った勢いもあるのか荒っぽい口調で文句を言い、あまり狡猾な感じではなかったですけどね」
店長に向かって拳を振りかざす場面も
トイレから戻ってきてもまだ文句を言っていたが、女性店員は何度目かの詫びの言葉を述べて席を離れてしまう。この時点では課長たちのグループの席にもつまみは届いていたが、納得がいかなかったのか今度は男性従業員を捕まえて再び文句を言い始めたのだ。
最終的には店長が代わりに対応したが、
「お前はスタッフにどんな教育をしてるんだ!」
など怒りの矛先をぶつけていたそうだ。
「課長と一緒に居たのは私が知らない人で、下の名前で呼んでいたのでプライベートの友人だと思うのですが、久々に会って気が大きくなっちゃったんでしょうかね。
店長には途中で殴り掛かりそうなポーズを見せるし、同じ会社の人間として恥ずかしいですよ。だから、課長たちが店を出た後、店長に『同じ会社の人間がすみません』と謝ったんです」
実は、小池さんは友人たちとたびたびこの居酒屋で飲んでおり、店長とも顔見知り。課長の行動が目に余ると判断したため、「会社に告発しても構いません」と言ったのだ。
「店長は驚いていましたが、社内でも問題の多い人物であることを話すと、なんとなく察してくれました。そこは個人店舗で店長がオーナーのため、会社名と課長の氏名、部署名を教えてあげると、『よっしゃ任せとけ!』とやけにノリノリでしたけどね(笑)」
会社に居酒屋での一件がバレ、課長もパワハラを控えるように
課長の一連の行動は防犯カメラがバッチリ記録しており、その映像を添えて店長は会社に告発。言い逃れできない決定的な証拠に懲戒処分こそなかったが、厳重注意処分が与えられることに。しかも、小池さんは彼女と同期にしか話していないが、そこから話が拡散してしまったという。
「課長は今も同じ部署にいますが、我が社は多くの飲食店と取引のある食品メーカーです。居酒屋相手に起こした問題とあって、かなりキツめに注意されたと聞いています。自分の噂が広まっているのを知っているのか、かなり肩身が狭そうです。
だから、本人は悪評がこれ以上流れるのはマズいと思ったのでしょうね。パワハラ的な言動や態度は控えるようになり、直属の部下たちからは『働きやすくなった』と言われています」
課長は居酒屋に出向いて謝罪
後日、居酒屋には課長と本社の担当者を含む3人が営業前の店を訪問。謝罪を受け入れたそうだが、店長は先日とは別人のように弱々しい態度だったそうだ。
「店長は優しい方なので『やりすぎたかな?』と気にしていましたが、店によっては出入り禁止や警察への通報もあったはず。課長も悪酔いしたのかもしれませんが、会社で責任ある立場だからこそ自分を律してほしいですね」
たとえプライベートの場面であっても何か問題を起こしてしまえば、会社に迷惑が及ぶことは避けられない。そこは肝に銘じておいたほうがよさそうだ。
<TEXT/トシタカマサ>
***
■「2人に1人」の数字が、語っていること
今回のエピソード、料理が遅いと女性店員を怒鳴りつけたアラフィフ男性。一緒にいた部下たちは、止めるでもなくただ俯いていました。怒鳴られた店員さんの目には、彼ら全員がどう映っていたのでしょうか。
冒頭でも触れたカスタマーハラスメント対策アンケート調査では、サービス業従事者のおよそ2人に1人(46.8%)が、直近2年以内に客からの迷惑行為被害を経験しているという結果が出ています。
ただ、あくまで「さすがにこれは」と声に出るレベルの話。料理の提供が少し遅れただけで強めに言われた、レジで小銭を雑に置かれた――そんな小さな“もやっ”まで含めれば、サービス業で働く人のほとんどが、日々何かしら抱えているのが現実なのかもしれません。
■変わりつつある、お店と客の関係
2025年6月には、企業にカスハラ防止措置を義務づける改正労働施策総合推進法が成立しました。「お客様は神様」が無条件に通用した時代から、「お店で働く人も、ひとりの人間として尊重される」時代へ。少しずつですが、世の中の空気は確実に変わってきています。
■それでも、グラスを傾ける夜に
仕事終わりの一杯、上司との付き合いの席、家族との外食。誰しも、ちょっと疲れていたり、虫の居所が悪い日があったりします。お店で「料理まだ?」とつい強めに言ってしまった経験、思い当たる人もいるかもしれません。
カウンターの向こうにいるのも、自分と同じように、今日一日仕事で疲れているかもしれないひとりの人間です。ふぅーとひと息ついてから、最初のひと言を選びたい。少しでも優しい人でありたいなと、自分への戒めも込めて、明日からまた気をつけようと思います。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
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