第79回カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞し、大きな話題となった『急に具合が悪くなる』の公開記念舞台挨拶が、6月20日にTOHOシネマズ日比谷で開催。岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代、濱口監督が舞台挨拶に登壇した。岡本らが、撮影中のエピソードや、岡本とともに最優秀女優賞を受賞したヴィルジニー・エフィラとの裏話までたっぷりと語った。
【写真を見る】第79 回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞をヴィルジニー・エフィラとともに受賞した岡本多緒
『ドライブ・マイ・カー』(21)でアカデミー賞国際長編映画賞およびカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞し、『悪は存在しない』(24)でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞、『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた濱口監督の最新作となった本作。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、世界中から熱い視線が注がれるなか、現地時間5月15日にワールドプレミアを迎え、見事、W主演を務めたエフィラと岡本が、最優秀女優賞を共同受賞するという歴史的快挙を成し遂げた。
物語の中心となるのは、介護施設で理想のケアの在り方を探求するマリー=ルーと、独創的な舞台演出家でありステージIVのがん患者である森崎真理。同じ名前を持つ2人が偶然に出会い、やがて友情という枠組みをも超えた深い絆を結んでいく姿を描き出す。
盛大な拍手と歓声のなか、真理役を演じた岡本は「早い時間からお越しいただき本当にありがとうございます」と感謝を述べ、「観た後の余韻があるとおっしゃる方がいらっしゃるので、なるべくそれを邪魔しないかたちで少しお話しさせていただければ」と挨拶。
清宮吾朗役の長塚も、「観客の顔を見て安心した」と微笑み、「いままで見たこともないような感覚の映画だなと思って感動しました。皆さんもそうであったらいいなと思います」と作品への自信をのぞかせた。また、窪寺智樹役の黒崎は、日本でのスタンディングオベーションが初めての経験だったと明かし、「カンヌのときの思い出がグッとよみがえってきて嬉しかったです。あと10分ぐらいやってくれても(笑)」とジョークを交えて会場を和ませた。
濱口監督も、朝9時半からの上映に集まった観客に深く感謝しつつ、「作った人間が言うのもなんですが、本当に余韻がある映画なのではないかと思っておりますので、それを壊さぬように。一方で『意外と楽しかったんですよ』ということも含めてお伝えしていけたら」と語った。
公開初日を迎え、身の周りでどのような反響が届いているかという話題では、それぞれの視点から熱い思いが明かされた。岡本は、高校の恩師から「観てきました」と連絡があったことを紹介し、「お母様が認知症を患っていらっしゃるということで、『もう少し歩かせた方が良かったかなぁ』など、ご自身のすごく身近な話とリンクさせて観ていただいたみたいで、私も胸熱になりました」と語った。
長塚が「ご近所の方たちが、いままでとは違った目で見てくれています(笑)。とってもヒットしているということなんでしょうし、大きな期待があると思いますね」と笑顔で答えると、黒崎は自身の元に届いた感想として「『境界線って一体何なんだろうね』という、まだ考え中みたいな感想がよく寄せられていて。それはとてもこの映画的で、すてきなことなんじゃないかなと嬉しい思いで見ています」と真摯に答えた。濱口監督は「母が『緊張感が続いてよかった』と一言感想をくれて、ありがたいことだなと(笑)」と明かして会場の笑いを誘った。
多言語が飛び交う本作ならではの苦労や、フランスでの撮影を振り返るトークでは、時間をかけた役作りや共演者との絆が浮き彫りになった。岡本は、濱口監督から撮影終盤に体重を絞るようリクエストがあったことを告白。「『人間って少し食べないだけでエネルギーが湧かないんだな』と体感できてありがたかったんですけど、『絞って』と言った監督が横で美味しそうなものを食べてたりして(笑)」と裏話を披露した。
さらに、エフィラとともに言語の壁を乗り越えた日々を振り返り、「NGを出してしまったりすると、私の腕に噛みついてきたりするヴィルジニーがメイキング映像に映っていて。彼女だから一緒に乗り越えられたなと思いますし、今日いないのがすごく不思議で、寂しいです」と、ともに苦労を分け合った戦友に思いを馳せた。
長塚は、そんな岡本とエフィラの努力を間近で見ていたと語った。
「ものすごく大変だったと思うんです。それを決して表に出さずに頑張ってこられて。最優秀女優賞の授賞式を見てるとき、多緒さんがちょっと涙をこぼされたのを見て、不覚にも僕も一緒に『あぁ、大変だったな、よかったな』と泣いてしまいました」と、カンヌでの受賞発表時の感動を振り返った。
また、フランスの録音スタッフから監督経由でメッセージを受け取ったといい、「『多緒さん、僕、黒崎くんを含めた日本の俳優のパフォーマンスに大変感動した』と。国籍や言葉の違いに関係なく、僕たちのお芝居が相手に届いたんだなと、とても嬉しく思いました」と喜びをかみしめた。
一方、言葉を発しない難役を演じた黒崎は、「苦労はしてないです、ずっと楽しかったです」と笑顔を見せつつも、トラムと並走するシーンでは苦労したと述懐。
「あのシーンが初日だったんですけど、回数も限られていたなかでやらないといけなくて必死でした。ゆっくり走ってくれる運転手さんもいれば、そうでもない人もいて。見知らぬ、しゃべったこともない運転手さんと息を合わせるというのは大変でしたね(笑)」と、現場ならではの苦労を明かした。
舞台挨拶の最後には、登壇者たちから観客へ向けて熱いメッセージが送られた。黒崎は「何度見ても面白い作品だと思うので、ぜひもう一度観てください」と力強くアピール。長塚は「皆のために最善を尽くすという非常にいい空気のなかで仕事ができました。ヴィルジニーがいまここにいないんですけれども、僕たちのこと、どうか忘れないでください。なにかにつけて思い出してください」と呼びかけた。
岡本は「私にとって本当に人生を変える1本になっていて、自分が出ていることを一旦置いておいて『こんなにすばらしい映画があるのか』と思っております」と作品への並々ならぬ愛情を語り、デザイン性が高く内容も充実したパンフレットや、原作もぜひ手に取ってほしいとPRした。
最後に濱口監督は、「ヴィルジニーがいないのは本当に残念ですが、今日のことを報告したいと思っています」と語りかけ、「もし今日、まだ『言葉にならない』っていう人がいたら、ぜひそれを大事に抱えて帰っていただけますか」と観客にメッセージを送った。
そして「俳優、スタッフ、宣伝スタッフの皆さんに至るまで、こんなに幸福に仕事ができたことがあっただろうかというぐらい、とても幸せな気持ちで過ごさせていただきました」と感謝の言葉で締めくくり、大きな拍手に包まれながら舞台挨拶は幕を閉じた。
文/山崎伸子
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