「海が走るエンドロール」作者が「エレノアってグレイト。」を鑑賞たらちねジョンの映画の愉しみ方

たらちねジョン先生近影(中央)

「海が走るエンドロール」作者が「エレノアってグレイト。」を鑑賞たらちねジョンの映画の愉しみ方

6月19日(金) 6:00

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俳優スカーレット・ヨハンソンが長編初監督を務め、自身と家族のルーツを背景に、パワフルな老婦人と母を亡くした学生の友情を軽やかにつづった映画「エレノアってグレイト。」(公開中)。年齢にとらわれない新たな挑戦、そして世代の異なる登場人物たちの友情を描く本作と共通するテーマを持つ日本の人気漫画「海が走るエンドロール」作者・たらちねジョン氏が、映画の魅力や自身の作品について語ってくれた。

たらちね氏の「海が走るエンドロール」は、宝島社「このマンガがすごい!2022」オンナ編で第1位を獲得したコミック(秋田書店刊)で、アニメーション映画として2027年の劇場公開が決定している話題作だ。夫と死別した65歳の茅野うみ子が、美大生の濱内海(カイ)と出会ったことをきっかけに、美大へ入学、学生として年齢の離れた若者たちと友情をはぐくみながら映画制作を学び、作り手たちの映画への情熱と葛藤、それぞれの人間関係を繊細かつさわやかに描く。

「エレノアってグレイト。」は、長年の親友ベッシーを亡くした老婦人エレノアが、ホロコーストの記憶を語っていたベッシーになりきって半生を語り始めたことから、ジャーナリスト志望の学生ニナがエレノアに興味を持ち、思いもかけない波乱が巻き起こる物語。

■シニアの奮闘記だけではない、人の痛みと優しさを描く「エレノアってグレイト。」

――まずは「エレノアってグレイト。」をご覧になっての感想をお聞かせください。

めちゃくちゃ元気をいただける映画でした。私が漫画で描くときもそうなんですけど、単に「お年寄りが頑張る」という話が主軸ではなくて、「人が頑張っている姿」や「人の痛み」のようなところが主題なのかなと思いました。個人に対しての優しさが出ている映画で、すごく楽しかったです。

――年齢や性別を超えて、個人に対しての優しさというのは、先生の漫画「海が走るエンドロール」からもひしひしと感じられて、心が温かくなります。こちらは大スターであり大女優のスカーレット・ヨハンソンの初監督作ということですが、そのあたりも期待してご覧になりましたか?

スカーレット・ヨハンソンが撮る映画ってどんなものだろう、と考えましたね。色々な作品に出られている方ですし。ただ、考えてみると「この俳優さんが撮る映画」というのは、相当なファンじゃない限りはちょっと世界観が想像できないんだな、と思いました。そこが新しい気づきでした。俳優さんは人間性が出る仕事でもあるのでしょうけど、その趣味趣向がそのまま出るわけではないんだな、と改めて思いましたね。

――物語の進み方や脚本について、物語を紡ぐ漫画家としての視点で、気になった部分や面白かった部分はどこでしたか?

ギミック的というか、ホロコーストの話を自分に置き換えて話すところの感情の推理ですね。「エレノアは今、何を考えて代弁しているんだろう」というところを、最後まで名言化しない。一見ただの嘘つきにも見えるし、もちろん愛情深い行為にも見えるんですが、第三者が見たら「この人何してるんだろう…」と思うような狭間のバランスを、ちゃんと描いているところが素晴らしく、真似したいなと思いました。

ちょっと残酷な目線もあったり、おばさまの嫌なところも結構ちゃんと書かれているのが、逆に愛嬌として捉えられます。最初は「嫌な人だな」と思われかねない描写もあるのですが、表現としてそこがいいなと思いました。

――「女性監督だから」という言い方はあまりしたくないのですが……スカーレット・ヨハンソンが撮っているからこそ、女性のリアルなふるまいを描けていたのかもしれませんね。

スカーレット・ヨハンソンさんは、おばさまの細かい嫌なところなどを感度高く捉えている人なんだな、と少し身近に感じました。そして彼女はそういう部分に対して嫌だと思っていたんだ、というのがわかって、勝手に嬉しくなりました。

――撮影当時95歳だったという主演のジューン・スキッブさんの演技や佇まいはいかがでしたか?

本当に映画的で、まさに日常にいそうなおばさま感がありますよね。私は自分の母を思い出したりしました(笑)。佇まいにすごく親しみを感じるんですけど、冷静に深く見たらとても上品で、そのバランスが素晴らしい俳優さんですよね。それを気づかせないのが彼女の演技力なのかなと思います。

■映画が好きになったきっかけ、鑑賞作品の選び方

――たらちね先生自身が映画を好きになったのはいつ頃ですか?きっかけとなった作品を教えてください。

何度も見るほど映画にハマったのは高校生の16歳くらいの時で、最初「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を見てすごいなと。そこからジョン・キャメロン・ミッチェルを知り、「パーティー・モンスター」なども見て、格好いいなと思いました。そして当時、ある洋楽のミュージックビデオが物語的で、それを描き起こしたことが初めて漫画を描いた経験です。映像に載っている流れのようなものが、自分にとっての漫画としての最初のアプローチだったのかなと思います。

――当時は便利な映画情報サイトやSNSはなかったと思いますが、ミニシアターで上映されるような新作はどのようにして情報を得ていたのですか?

地元は神戸と大阪の間にあって、電車で大阪にも神戸にも10分くらいで行ける恵まれた環境で、単館系の映画館がいくつもありました。そこでチラシをもらったりして知っていったんだと思います。映画のビジュアルなど、おしゃれそうなものへの憧れがあって、当時から映画は基本的に一人で見に行っていました。

――たらちね先生が仕事とは関係なく映画を見るとき、作品を選ぶ基準はどこにありますか?

年代によって変わってきています。10代、20代のころは「自分が知らないことを知りたい」「人が見すぎていない映画を見たい」という気持ちがあって、ちょっと王道からずれたミニシアター系をすごく見ていました。でも、20代半ばくらいになると「王道も見ておいた方がいいな」となって王道を見始めました。30代半ばを過ぎた今は、ようやく感性だけで、ただ見たいものが選べるようになったなと思います。「この日はポップコーンムービーを気軽に見て、この日は重い題材で腰を据えて見る日にしよう」というのを、格好つけずに選べるようになりましたね。

――映画をテーマとした「海が走るエンドロール」の会話や扉絵でチョイスされている作品について教えてください。

「太陽を盗んだ男」や「ソナチネ」など会話の中に出てくる映画は、当時実際に授業などで見て、友人たちと話していたものです。扉絵に使っている映画は、その回ごとの裏テーマや大きなテーマに沿って、思い出した映画を描いていました。

――「エレノアってグレイト。」は、トロント国際映画祭出品作ですが、「海が走るエンドロール」では、うみ子さんと海くんがトロント国際映画祭に参加しますね。たらちね先生も実際に現地に取材に行かれたのでしょうか?

はい、担当編集者さんと一緒に行きました。海外の映画祭は初めてだったので、街全体の映画へのフットワークの軽さやテンションに感動しました。トロントは映画が良い意味で高尚化されていなくて、住んでいる方もラフに参加していて雰囲気がすごく良かったです。「ここで自分の映画が流れたら嬉しいだろうな……」なんて月並みなことを思いながら取材していました。

■洋画を見る面白さ、歴史を疑似体験すること

――日本はアニメーション作品の隆盛の一方で、若者の「洋画離れ」という傾向もあるようです。学生時代からさまざまなジャンルの映画に触れてきたたらちね先生にとって、洋画を見る面白さとはどこにあるでしょうか。

そうですね、以前、現役大学生に「海外に行きたいと思ったことないです。Googleマップで見ればいいじゃないですか」と言われて衝撃を受けたことがありました。私にとって洋画を見ることは、日本とは遠く離れた非日常を体験する一方で、学びでもあります。他人の人生の上で、その人がどう物事を捉えているのかを簡易的に疑似体験したり、歴史を確認できたりしますよね。「エレノアってグレイト。」では、映画を通してホロコーストのことや当時の時代感、当事者が何を思っていたのかを知ることで、初めて他人事ではなくなり、歴史が「本当にあったことなんだ」と実感として伝わります。世界の何かを知るきっかけとして、映画、洋画を見ることは向いているのではないでしょうか。

――この「エレノアってグレイト。」をもう一度見直すとしたら、どんなタイミングで見たい作品ですか?

友達と遊んで楽しかった日や、逆に友達とうまくいかなかった日など、“友情に関して思いを馳せるとき”に見ると、また大事にしようと思うものが見えてくる映画なんじゃないかなと思います。

「海が走るエンドロール」全9巻は好評発売中。「エレノアってグレイト。」は全国公開中。

【作品情報】
海が走るエンドロール

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「海が走るエンドロール」京アニ制作で27年にアニメ映画化「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の石立太一が監督

(C)2025 ELEANOR INVISIBLE FILM, LLC AND TRISTAR PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED (C) たらちねジョン(秋田書店)/海が走るエンドロール製作委員会
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