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思いもよらない出来事を経験したり、困難に直面したりと、ままならない日々を生きる人物の姿を描く、話題のシリーズ作品「シリーズ 立ち行かないわたしたち」。子どものいじめ問題や中学受験、貧困や格差などの社会問題を取り扱ってきたこのシリーズの新作として、今年2月に『心の不倫は罪ですか?』が発表されました。熟年夫婦の不仲と中年クライシスを描いたこの作品を紹介しつつ、著者のとげとげ。さんにお話を伺っていきます。
■『心の不倫は罪ですか?』あらすじ
主人公は結婚20年目、43歳の主婦・胡桃(くるみ)。中学生の息子は不登校状態に陥り、夫は胡桃に「甘いんだよ!」「きみは責任取れるのか?」など上から目線で責めるような物言いばかり。高校生の娘には「私は絶対ママみたいになりたくない」と言われ、自分は「いいお母さん」だと思っていたのに、気がつけば家庭に居場所がなくなっていきます。
そんなある日、胡桃は世間から取り残されたようなさびれた公園で、宅配業者の物静かな男性・匠と出会います。肉体関係はなく、ただ寄り添うだけの関係に、胡桃は心の安らぎを覚えますが……。
■誰にでも立ち行かなくなる瞬間はある。その背景に思いを巡らせて
――本作『心の不倫は罪ですか?』で描かれているのは、配偶者以外の異性と「肉体関係はないが、精神的に深く依存する関係」です。この関係性についてどう捉えていますか?
とげとげ。さん:「不倫」という言葉には、裏切り、悪、制裁、事情や背景に関わらず、強い負のイメージが先行します。一方で、同じような関係を「セカンドパートナー」と呼ぶと、どこか合理的で、場合によっては前向きな選択のようにも聞こえてしまう。その印象の違いに、とても興味を持ちました。
実際には中身が大きく変わるわけではないのに、呼び名ひとつで私たちの評価や感情は簡単に方向を変えてしまう。人の行動も、結果だけを切り取れば強く批判されますが、その背景やそこに至る経緯を知ることで、見え方がまったく変わることもあると思います。
――描き下ろしの長編は初めての挑戦かと思いますが、この作品で新たに挑戦したポイントがあれば教えてください。
とげとげ。さん:この作品では少し歪んだ家族の構造も描きたいと考えていました。本来は夫以外の男性と親しくなることは家族への裏切り行為でもありますが、その男性のおかげで夫との会話が少し楽になったり、息子との関係が良くなったりしていく。そうした矛盾や複雑さも、この物語の大切な要素として表現したいと思いながら描きました。
――この作品を描ききって、難しかったところ、あるいは手ごたえを感じたところなどあれば教えてください。
とげとげ。さん:難しかったのは、主人公の胡桃とその癒しになる匠の関係がゆっくり進んでいく流れを描くことでした。本来であれば恋愛のような関係には踏み込まないタイプのふたりが、それぞれの状況や背景、タイミング、そして心の中で求めているものが重なった結果として、少しずつ距離を縮めていく。その過程を不自然にならないよう、丁寧に描くことにはとても悩みました。一方で、後半に入ってふたりの関係に危機が訪れてからは、物語のテンポがうまくはまり、手ごたえを感じながら描くことができたと思います。
――この作品に込めた思いを教えてください。
とげとげ。さん:誰にでも、立ち行かなくなる瞬間はあると思っています。だからこそ、表面的な言動だけで断罪するのではなく、その背景に思いを巡らせる“余白”を持てたらいいのではないか。そんな思いを込めて、この物語を描きました。
***
家族の中に居場所を失い、静かに壊れていく日常。そんな胡桃が手にしたのは、淡く切ない「心の平穏」でした。ゆっくりと、けれど確実に変わりゆくふたりの距離感と、後半に待ち受ける展開。とげとげ。さんの新境地とも言える本作で、揺れ動く大人の感情の機微を味わってください。
取材・文=レタスユキ
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