動乱のさなか、敵語で書く

動乱のさなか、敵語で書く

動乱のさなか、敵語で書く

6月18日(木) 12:00

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文盲: アゴタ・クリストフ自伝 『文盲: アゴタ・クリストフ自伝』(白水社)著者:アゴタ・クリストフ Amazon | honto | その他の書店

◆動乱のさなか、敵語で書く
『悪童日記』 三部作を読んだときの衝撃は忘れられない。研ぎ澄ました文章。残酷な内容。童話のような語り口。

アゴタ・クリストフが小説を発表しなくなってから十年以上の歳月が流れている。いつまで待たされるのかという焦りにも似た気持ちに、少しだけ応えてくれる本だ。

一九五六年のハンガリー動乱のさいに、乳飲み子を抱いて祖国を離れスイスに移り住んだ女性は、もともと何よりも本を読むことが好きだった。四歳で読むことができた、とある。だが、祖国を離れた途端、ふたたび「文盲」に戻らなければならなかった。「フランス語で書くことを、わたしは引き受けざるを得ない。これは挑戦だと思う。そう、ひとりの文盲者の挑戦なのだ」

どれほどフランス語に習熟しようと、フランス語は「敵語」であり、それを使って書くことは「挑戦」なのだ、という言葉は、胸に響く。

詳細な伝記というわけではない。事実関係はさほど書き込まれているわけでもない。だが、彼女の他の小説と同じく、ギリギリまで刈り込まれた文章が、苛酷(かこく)な状況で書くことを選んだ意志の重さを伝えてくる。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2006年3月22日

【書誌情報】
文盲: アゴタ・クリストフ自伝 著者:アゴタ・クリストフ
翻訳:堀 茂樹
出版社:白水社
装丁:新書(112ページ)
発売日:2014-09-23
ISBN-10:4560071950
ISBN-13:978-4560071953 文盲: アゴタ・クリストフ自伝 / アゴタ・クリストフ
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