決勝レースは5月16日(土)現地時間15時、日本時間22時にスタート。F1ワールドチャンピオンのマックス・フェルスタッペンが初参戦し、世界中から大きな注目を集めた
5月16~17日、ドイツ西部で開催された第54回ニュルブルクリンク24時間耐久レース。過去最多の観客が押し寄せる中、ニッポン勢のトヨタとスバルはどんな走りを見せたのか。現地で取材した自動車研究家・山本シンヤ氏が、その舞台裏を特濃解説する。
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【35万人以上が殺到し、現地は大熱狂】
1927年、ドイツ西部アイフェルの深い森の中に誕生したニュルブルクリンク。172ものコーナーと約300mの高低差、絶え間なく続くうねりが、世界屈指の過酷なコースを形成。車両開発の聖地として知られ、世界中の自動車メーカーがここでクルマを鍛え続けてきた。レースにはGTカーからツーリングカーまで多彩な車両が集結。峠道さながらの高速コースを舞台に、24時間にわたる熱きバトルを繰り広げる
――今年も現地取材されたニュルブルクリンク24時間レース、率直にどうでした?
山本
例年以上に天候が読めない年でしたね。雨、霧、強風に加えてヒョウまで降りました。おまけに1周約25kmなので、場所によって天気がまったく違います。ここではクルマ、ドライバー、チーム、そのすべてが試されます。
――今年は観客数が過去最多だったそうで?
山本
161台が出場し、観客は約35万2000人と昨年の28万人を大きく超えました。一番の要因は、F1で4度の世界王者に輝く現役トップドライバー、マックス・フェルスタッペンの参戦でしょう。
自身のチームからメルセデスAMG GT3エボで出場。パドックパスはF1と比べると安いので、ひと目見ようとピット前は大混乱。どこを見ても、とにかく人、人、人。筆者もその波に押し潰されそうになりました(汗)。
――そんな中、気になるのはニッポン勢です。
山本
はい。長きにわたり参戦しているスバル(STI)とトヨタ(TGRR)ですが、おのおのの〝ニュル哲学〟がよく表れていたレースでしたね。
スバルのモータースポーツブランドSTIが、市販の「WRX S4」をベースに、ニュル制覇を目指したチューニングマシンを投入。果たして、過酷な24時間を戦い抜けたのか!?
――まずスバルについて聞かせてください。
山本
STI(スバルテクニカインターナショナル)はSUBARU WRX NBR CHALLENGE 2026でSP4Tクラスに参戦。市販のWRX S4をベースに、将来の商品につながる技術・アイテムを搭載した開発車両です。決勝ではクラス予選トップ車両を序盤で逆転し、そのまま安定したペースを維持しました。
細かいトラブルやペナルティはあったものの、24時間ほぼ大きなトラブルなしで139周、約3527.5kmを走破。SP4Tクラス優勝、総合31位という結果でした。
――ちなみに今年は強敵が多かったと聞きましたが?
山本
今年のSP4Tクラスは、STIに加えてフォルクスワーゲン(ゴルフGTI50周年記念)、ヒョンデ(新エンジンの開発のため)とワークス三つどもえの戦いになりました。その中での勝利は例年より価値があります。
――ズバリ、今年のスバルの勝因は?
山本
格上のGT4マシンに迫る速さを追求すると同時に、トラブルやアクシデントに左右されない〝強いマシン〟づくりにこだわった点ですね。特に今年のような不安定な天候ではドライバーが安心して踏めるクルマが強い。
――スバルが掲げる「安心と愉しさ」の究極の姿?
山本
そのとおりです。ニュルは速さだけでは勝てません。耐久性、視界、悪天候への対応、乗りやすさ、疲れにくさ......量産車に求められる性能すべてが求められます。だからスバルのクルマづくりと、ニュルは相性がいい。
【〝モリゾウ〟がニュルに持ち込んだ原点】
――トヨタにとっては、ニュル24時間はまた別の意味を持つ場所です。
山本
モリゾウ、そして「もっといいクルマづくり」の原点です。2007年、現トヨタ自動車会長の豊田章男氏がドライバー〝モリゾウ〟としてここに来ました。
当時は社内の理解はゼロで、100万円で買った中古のアルテッツァでの参戦がスタートでした。興味深いのは、レースに参戦しながらも〝勝ち負け〟にこだわっていない点です。「道がクルマと人を鍛える」を実践するための「究極の人材育成の場」と言えます。
――やはり、モリゾウさんの運転の師匠である〝マスタードライバー〟の故成瀬 弘さんの存在も大きい?
山本
大きいどころか、成瀬さんがいなかったらモリゾウは生まれてこなかったし、トヨタがこんないいクルマをつくる会社になることもなかったと思います。その成瀬さんは2010年にニュル近郊の一般道での事故で亡くなっています。
実はこのとき、ニュルの活動は解散しましたが、モリゾウさんのところに成瀬さんのお弟子さんが集まり、その遺志を継いで活動を再開しました。
GRヤリス(DAT搭載仕様)は、予選でクラス首位となる好タイムをマーク。決勝でも順調なスタートを切ったが、夜のセクションへ突入するとトラブルに見舞われ......
――そんなトヨタの2026年のニュル24時間は?
山本
昨年同様に、GR(ガズーレーシング)とRR(ルーキーレーシング)が融合したTGRR(トヨタガズーレーシング・ルーキーレーシング)として、GRヤリスDATで参戦しました。
――今年のマシンはかなり進化していたとか?
山本
昨年の反省に加えて新たな挑戦も盛り込み、パワートレイン、空力、ワイドトレッド化など踏み込んだアップデート版を投入しました。
――決勝前、モリゾウさんのスピーチも話題になっていたそうですね。
山本
モリゾウさんはチームの〝お父さん〟のような存在ですね。「ニュル特有の高揚感にのまれる必要はない。これまでやってきたことを、そのまま出してほしい」。
さらに「困っている人がいたら声をかける。助けてもらったら『ありがとう』と言う。それが真のワンチームをつくる」とも話していました。技術だけでなく、チームのあり方を示す言葉だったと思います。
――今回、レース序盤は順調でした。
山本
今年のニュル24時間は序盤から大荒れで、強豪勢が次々とリタイアする展開でしたが、GRヤリスは安定して走行。石浦宏明選手は格上のマシンを追い回し、モリゾウ選手も成瀬 弘さん譲りのドライビングを見せました。
――しかし、夜明けにトラブルが発生してしまいました。
山本
ルーティン整備を行ないピットアウトした直後に車両振動が発生。なかなか原因がつかめない中で関谷正徳GMが「成瀬さんだったらどうする?」と考え、時間はかかるが確実性の高いエンジンと駆動系の交換を決断します。
――普通ならリタイアしてもおかしくない状況です。
山本
普通ならそうですね。でも、トヨタは違いました。直して、また走る。その挑戦自体に意味を見いだしている。本来は4~5時間かかる作業ですが、メカニックの奮闘で約3時間で完了。その後コースへ復帰しましたが、77周で規定周回数にわずかに届かず未完走扱いとなりました。
――粘りに粘ったものの、悔しさの残るレースでした。
山本
ニュルは失敗で終わる場所じゃない、必ず次につながる。だから戻ってくる。ニュル24時間はトヨタにとって単なるレースではなく、モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」の〝現場〟なのです。
【20周年へ続く〝終わらない現場〟】
――来年はトヨタのニュル24時間への初挑戦から20周年の節目の年となります。
山本
モリゾウさんはレース後、「ニュルの活動は今後も断固として継続する。やり抜くことも〝ニュルの原点〟。そして熟成・進化させたクルマで、今年共に戦った仲間と一緒にチャレンジする姿を見せたい」と語っています。つまり、継承だけでなく進化もあるはず。どんなクルマになるのか、楽しみです。
大荒れの天候が続く中、激闘を制して頂点に立ったのは、メルセデスAMGチーム・ラベノール。80号車のメルセデスAMG GT3が過酷なバトルを制し、総合優勝を果たした
――ちなみに今回の総合優勝はメルセデスAMGでした。
山本
同社にとって10年ぶりの総合優勝ですが、実は予選トップ10にも入っていない下位スタートのチームでした。つまり速さだけでなく、最後まで生き残った〝強いクルマ〟が勝つのがニュル24時間です。
昨年12月、GRのフラッグシップスーパースポーツ・GR GTが世界初公開されましたよね。この車両をベースにしたレーシングカー・GR GT3も存在します。当然、将来的なニュル参戦も視野に入っているはずです。
――えっ、マジっスか?
山本
モリゾウさんは、「最初に出るレースは非常に重要になると思う。まぁ、いろいろ考えていますよ」と謎すぎる意味深な発言もしています。
僕は長年ニュル24時間を取材していますが、日本車の総合優勝はまだありません。簡単には勝たせてもらえないでしょうが、その歴史の証人になるためにも、来年以降も取材に行きます!
撮影/山本佳吾
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