地域猫の数を必要以上に増やさないようにするTNR活動とは…?/拾われた猫たちが教えてくれたこと(3)

地域猫の数を必要以上に増やさないようにするTNR活動とは…?/拾われた猫たちが教えてくれたこと(3)

6月17日(水) 0:00

◆地域猫の数を必要以上に増やさないようにするTNR活動とは…?/拾われた猫たちが教えてくれたこと(3)

拾い猫の愛しさとぬくもりが、そっと絆を育てる優しい物語



◆【第3話】チー ~それはひとつの家族の形~




(C)琴織ゆき・ねこまき(ミューズワーク)/スターツ出版無断転載禁止


――動物愛護団体の活動のひとつとして、TNR活動というものがある。

これは、野良猫を一時保護して、避妊去勢手術を施したあとに元の場所へ返す活動のこと。Trap(捕獲)、Neuter(不妊手術)、Return(元の場所へ戻す)の頭文字をとったもので、地域猫活動とも呼ばれるものだ。

猫の繁殖力は尋常ではない。理論上では、雌猫一頭から、年間十五匹以上の子猫が生まれる可能性があるとされている。さらに、生まれた子猫は生後半年もすれば妊娠可能になるため、その子がまた子どもを産み――そうした孫猫も合わせれば、一匹の雌猫から生まれる命は年間五十匹以上にも及ぶ。

そんなふうに、野良猫というのは放置すれば無限に増え続けてしまうのだ。

その連鎖を食い止め、地域猫の数を必要以上に増やさないようにするための活動がTNR活動なのである。

ちなみに、避妊去勢手術済の猫は、その目印として耳を小さくカットしてから地域に返される。これがいわゆる『桜猫』と呼ばれているもので、私たちは野良猫が『桜猫』かどうかでTNR済か否かを判断しているわけだ。

とはいっても、現実はそう甘くない。どれだけ継続していてもTNR活動は追いつかず、毎年新たな子猫の命が生まれてしまう。

しかし、自然界の過酷な環境で生まれた子猫の生存率は非常に低く、その多くが子猫のうちに命を落としてしまうのも事実だ。

母猫からの育児放棄のほかにも、病気や感染症になってしまったり、カラスに食べられてしまったり、天候や環境の悪さに耐えられなかったり、満足に栄養を摂れなかったりと原因はさまざま。自然界は私たちが思っているよりも厳しく、半年以上生き延びられる子は本当にわずかしかいない。

だからこそ、子猫が生まれてしまったら子猫のうちに保護して危険から守り、里親さんを探すのだ。そうすることで、結果的に妊娠する猫の母数も減り、野良猫が増え続けるのを抑制できる。

野良猫が繁殖している地域の住民は、ありがたいことに、この活動に協力してくれる方々が多かった。

いくら猫好きでも、増え続ける猫に危機感を抱いているのだろう。


私たちの活動理由や、そういった野良猫タウンになるまでの背景を丁寧に説明すれば、大半の人は理解を示してくれる。

もちろん、すべての人の理解を得られるわけではない。なかには『猫嫌い』の人もいるし、『どうせ愛護活動なんて言葉で釣って金儲けしているんだろ!』という心ない言葉を投げつけてくる人もいる。

これには悲しくなるけれど、ぐっとのみ込んで活動するしかないのだ。

とはいえ、全国的に見れば、野良猫の数は昔よりも減ってきている。

猫が繁殖する環境――空き家が密集していたり、軒下に隠れられる古民家が多かったりする地域は、そもそも高齢化が進んでいる場合が多い。そして、外猫に馴染みがある高齢者は、野良猫へごはんをあげることへの抵抗がない傾向にある。

つまり、飼い猫でなくとも、ごはんをもらえる場所がたくさんあるわけだ。
食いっぱぐれることがない環境は、必然的に野良猫の生存率を上げる。そこに猫の繁殖力の強さが相まったとき、K町のような野良猫タウンが誕生してしまう。

こうした地域性によって自然と成り立ってしまったものを、すぐにどうこうするのは難しい。だからこそ私たちは、この状況を少しでも改善するために、根気強くTNR活動をしていくしかないのである。

猫が好きで餌やりを楽しみにしている人も、避妊去勢手術後、もとの場所に猫を戻すTNR活動ならばと受け入れてくれることが多いのだ。

野良猫とはいえ、飼い猫のような扱いで家に立ち寄る猫をかわいがっているご年配も少なくないし、私たちもそういったよき関係性を崩したいわけではない。

人と猫がよりよい環境で過ごせるように――互いに理解し合って、自由気ままに生きる野良猫たちと共存できる未来を目指して活動しているのだ。



――例えば、ひとり暮らしをしている、とあるおばあちゃんがいる。

その家に住み着いている野良猫の『チー』は、何年も前にTNRのために一時こ
ちらで保護し、地域猫として元の場所へ返した子だった。

隣のおうちでは『シロ』と呼ばれていたし、おばあちゃんが『チー』と呼んでいるだけで、きっとほかにもたくさん名前があるのだろう。


それでもひとり暮らしのおばあちゃんにとっては、気ままな野良猫も大事な家族。

気まぐれに家にやってきては我が物顔でリビングでくつろぎ、美味しいごはんをもらって、ストーブの前に用意された専用の座布団で暖を取る――。

そんな『チー』の存在があるからこそ、孤独を感じないでいられるのだろう。

年金暮らしでお金がなくても、猫のごはんだけは高いものを常備しているし、猫との触れ合いがおばあちゃんの生活の糧になっているのは間違いなかった。

『自分のごはんなんてなんでもいいんだよ。でも、猫のごはんだけは買ってこないといけないし、億劫でもそのために外へ出るんだ。だけどね、そんなふうに世話できる存在があるのは幸せなことだよ。さみしくないからね』

お腹の上にチーを乗せながらそう言っていたおばあちゃんの言葉は、この活動をしている立場としては『意味』となり『理由』となるもので、ずっと胸に残っている。

おばあちゃんにとって、『チー』はかけがえのない家族。

チーにとっても、『おばあちゃん』は大好きな人間のひとり。

飼い主と飼い猫という関係性ではなくとも、ふたりのあいだにはたしかに絆があるのだろう。

そんなふうに、人にとっても猫にとってもよい環境を崩さず、バランスの取れた天秤のなかで共存できる世界になればいい、と思うのだ。





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