“うまくいかない自分”を、どう肯定するのか―「お笑えない芸人」西田祐香監督&吉野真生、村山暁、北野七海に聞く【インタビュー】

左から、北野七海、西田祐香監督、吉野真生、村山暁

“うまくいかない自分”を、どう肯定するのか―「お笑えない芸人」西田祐香監督&吉野真生、村山暁、北野七海に聞く【インタビュー】

6月15日(月) 15:02

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自己肯定感をテーマに、売れない芸人・佐原一太郎が“理想の自分” (サハラ)と向き合っていく映画「お笑えない芸人」。笑いを題材にしながらも、他人と比べてしまう苦しさや、自分を受け入れる難しさを描いた本作について、西田祐香監督、主演の吉野真生(佐原一太郎役)、村山暁(瀬戸口順二役)、北野七海(村井涼葉役)に話を聞いた。(配給・インタビュー/GeneHeart)

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――西田監督は、本作を「自己肯定感を上げるきっかけにしてもらいたい」という思いでつくられました。

西田監督大学生になってから、自己肯定感について考えることが多くなりました。高校の時に学校に行けていない時期があって、自分の中で少し負い目のようなものを感じていたんです。でも大学に入って、映画学科にいる今の自分は、その経験からつながっているんだと思えるようになりました。過去の失敗も含めて自分なんだ、と自覚できたこともあり、自己肯定感を上げられる映画をつくりたいと思ったのがきっかけです。

――自己肯定感が明確に変わるきっかけがあったのでしょうか。

西田監督何かひとつの出来事があったというより、気の合う仲間に出会えたり、自分の中で大切にできる映画を見つけられたりしたことが大きかったです。高校に行けなくて、その後に転校したからこそ気づけたこともありました。だから、そういう自分も肯定したいと思いました。

――物語では、佐原が理想の自分に出会います。成功している自分に「売れる方法を教えて」と聞く展開も考えられますが、本作では嫉妬や葛藤の方向へ進んでいきます。

西田監督最初は、佐原が理想の自分に「売れる方法を教えてよ」と聞く設定でした。でも、佐原は自信をなくしていて、自分のことも肯定できていない。そういう人が、能動的に「教えて」と言えるのかと考えた時に、違うのではないかと思ったんです。そこで、理想の自分が佐原に問いかけていく形に変えていきました。

――吉野さんは、芸人役であり、さらに一人二役でもあります。役づくりはどのようにされたのでしょうか。

吉野芸人さんを演じることに関しては、芸人さんにリスペクトを持って行動していました。相方の瀬戸口を演じる村山君と、何日も漫才の練習をしました。いろいろな芸人さんを参考にして、コピー漫才をしたり、自分たちなりの形を探ったり、オリジナルの漫才をつくったり。実際にM-1に出場もしたんですよ。

――一人二役についてはいかがでしたか。

吉野最終的にはすごく充実していましたし、楽しかったです。でも最初は、現実の落ち込んでいる自分と、理想の自分をどう演じ分ければいいのか分からなくて、撮影が始まるぎりぎりまで不安でした。落ち込んでいる佐原は、監督からバックボーンを聞いていたので形が見えていましたが、理想のサハラは最初、少し危うかったです。

――どうやって理想のサハラをつくりあげたのでしょうか。

吉野歩き方です。歩き方を「これでいこう」と決めた時に、理想のサハラはこういう人間なんだと腑に落ちました。自信があってズカズカ歩くような人に見えるけれど、佐原と別人ではない。心の底から堂々としているというより、堂々としているように見せている。虚勢を張っている感じです。

西田監督私からは他にも理想のサハラについては、日常会話でもバラエティ番組のMCのような発声をしてほしいと伝えていました。

吉野理想のサハラは、僕の中では“外側の人間”という感覚がありました。だから、歩き方や発声など、形から作っていった部分が大きかったです。

――村山さんは、瀬戸口という役をどのように捉えていましたか。

村山瀬戸口は、最初から大人っぽい人間だと思っていました。もともと社会人をやっていて、その後に芸人を始めるという設定でもありましたし。佐原と出会うことで子ども心を見いだして、最初は楽しい感覚もある。でも最終的には、お笑いを仕事として捉えている人でもある。売れなきゃいけない、お金を稼がなきゃいけないという意識があるので、佐原との間に明暗やコントラストをつけることは意識しました。

――村山さんは助監督も担当されています。制作面で大変だったことはありますか。

村山とにかく人も場所も多く登場する作品だったので、自分にとっては今までにないチャレンジでした。ショッピングモールが登場したり、キャラクターの年齢層が幅広かったり、エキストラさんも多かった。合計で100人ほどのエキストラさんに出ていただいたので、事前にロケ地を見て、どこに誰が座るのか、どの年齢層の人に参加してもらうのかを全部リスト化しました。僕が混乱すると全体が混乱してしまうので、そのプレッシャーはありました。

――北野さんが演じた村井涼葉は、佐原に重要な言葉を投げかける存在です。どのように役を捉えましたか。

北野自分の内面をさらけ出していかなければならない役だと思いました。劇中で描かれていない日常も想像しました。たとえば自分の人生がうまくいっていない時に、隣の部屋で大きな声で漫才をしている人がいたらどう思うのか。ヘッドホンをつけるんだろうなとか、気分を紛らわせるためにたばこを吸うんだろうなとか。彼女が見ている景色を想像してつかもうとしていました。

――北野さんにとって、印象に残っているセリフはありますか。

北野やっぱり最後の言葉です。日常の中で、刺激や承認欲求を求めてしまうことはあります。でも、それじゃないといけないわけではない。そうじゃない時の自分も肯定してくれる映画であり、私自身の在り方も肯定してくれる言葉だと思います。(ぜひ本編をお楽しみに)

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

北野この映画は笑いどころもあり、シリアスな部分もあり、本当にたくさんの方に観ていただける作品だと思っています。観てくださった方との出会いによって、またこちらの人生も変わっていくような、そんな出会いがたくさんあればうれしいです。

村山今を生きる人たちの心の奥底に、そっと寄り添い続ける作品になってほしいと思いながらつくっていました。前を向けている人も含めて、たくさんの方に観ていただきたいです。少しでも背中を支えられる映画になっていたらうれしいです。

吉野僕自身も、人と比べてばかりいる性格です。佐原を演じてからも、人と比べること自体は今も変わりません。でも、人と比べる自分も自分だと思えるようになりました。この映画を観た方が、どんな自分であっても、それが自分なんだと肯定できたらいいなと思います。

西田監督世の中に“弱い人”はあまりいないと思っています。生きづらいと感じる人がいるのは、その人が悪いからではなく、世の中が生きづらいからだと思うんです。でも、そういう人ほど「自分が悪い」「自分だけできない」と思ってしまう。ひとりでこっそり悩みを抱えている人にこの作品が届いて、少し世の中の見方が変わったらうれしいです。

「お笑えない芸人」
夢をあきらめかけた男が、目の前に現れた“理想の自分”との奇妙な共同生活を送りながら、夢と現実、理想と本音のはざまでもがく姿をユーモラスに描いたドラマ。監督の西田祐香が、京都芸術大学映画学科の卒業制作作品として手がけた。

【あらすじ】
芸人を目指す佐原は、相方の瀬戸口と「激甘酢豚」というコンビで活動してきた。しかし、ある出来事をきっかけにコンビは解散し、佐原は夢半ばで立ち止まってしまう。そんな佐原の前に、自分に瓜二つのサハラという男が現れる。サハラは芸人として爆発的に成功した、佐原が思い描いた理想の自分だった。分身であるサハラは佐原に成功のノウハウを語り、佐原の人生に大きく介入し始める―。

「恋も噂も七十五日」の吉野真生が佐原とサハラの二役を演じ、「ハローマイフレンド」の村山暁が相方の瀬戸口役を演じる。若手映像作家の登竜門であるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025でスペシャル・メンションを授与された。配給は、感情を沸き立たせる日本の短編映画だけをラインナップする配信サービス「GeneTheater(ジーンシアター)」を運営するGeneHeartが担当。

「お笑えない芸人」公開日&劇場
ヒューマントラストシネマ渋谷6月19日(金)公開
小山シネマロブレ7月3日(金)公開
シモキタ- エキマエシネマ-K2 7月3日(金)公開
宇都宮ヒカリ座7月10日(金)公開
シアターセブン7月11日(土)公開
キネマ旬報シアター7月18日(土)公開

【作品情報】
お笑えない芸人

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(C)「お笑えない芸人」製作委員会
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