今年4月にテレビ東京で放送された『最強大食い王決定戦2026春』では過去のレジェンドが残した記録が次々に更新され、この競技が積み重ねてきた歴史と技術の革新を強烈に印象づける内容となった。
今大会で優勝を果たしたのは、“大食いターミネーター”ことRyuさんだ。大食いというジャンルに足を踏み入れてまだ2年足らずの彼が短いキャリアにかかわらず日本一を獲得できた理由は、言うまでもなく日々の鍛錬のおかげだ。
10㎏を完食できるのは3人だけ
「僕は最初から食べられた天才型ではなくトレーニングして食べられるようになったタイプで、まずは胃を広げるトレーニングに励みました。事前に重量をはかってデカ盛りメニューを食べきり、限界をねらって胃の容量を増やす。
今、国内の現役で10㎏を完食できるのは、今大会の決勝に進出した僕とカワザイル君とていねい木下さんくらいです。僕の胃の最大値は11㎏で、国内で一番食べられる位置には来たと思います」
この2年間は苦労の連続だったという。実は、トレーニング以外の困難が彼の行く道を阻んだそうだ。
「大食い界に入ってすぐ、この業界ではメジャーな、とあるYouTubeのコンテンツに呼んでいただきました。しかし、僕が徐々に大食いで力をつけていくと、急に声がかからなくなり、一部の友人を除き業界内で力を持っている人たちからは露骨に距離を置かれるようになりました。
でも、そこで逆に動きやすくなった。それからは全国の大食い記録を片っ端から塗り替えていきました。現役最強の大食いファイターになって発言権を得て、業界を盛り上げるためにみんなが今まで言ってこなかったことを口にしていこうと考えたんです」
編集でごまかす配信者も珍しくない
Ryuさんは、ファンに本物と偽物を見分ける目を持ってほしいと訴える。
「つい最近も、食べていないデカ盛りメニューをまるで食べきったように編集した大食い系YouTubeチャンネルが炎上していましたよね。5㎏しか食べていないのに『7㎏食べました』と発信して、それがまかり通ってしまっている。
僕からすると『きついトレーニングをして努力した意味って何?』と思っちゃうし、難しい大食いチャレンジに成功しても真っ当に評価されなくなるかもしれない。このままだと、日本の大食いはエンタメのままで終わってしまう」
食費は「月に40万~50万円」
さらに、大食い業界が持つ構造にメスを入れる必要があるとも考えている。
「大食いはトレーニングがしんどいだけじゃなく、食費もかかる。僕も月に40万~50万円くらい出費します。だからこそ、見返りのある業界に変えていきたい。今は大食いをベースにしたインフルエンサー活動で稼ぐ人が多いですが、『大食いできる』という能力自体が稼ぎに直結する環境にしていきたいです。
『ここに懸けたい』と思えるくらいの見返りがあれば、頑張る人たちが出てきやすいと思います。新しい人たちがもっと入ってきやすいオープンな業界にしていきたいですね」
つまり、新人が足を踏み入れづらい環境だったのだ。既得権益を持った人たちが自らのポジションを守るため、力を持つ新人を村八分にする構造が業界内にあった。過去に干された経験を持つRyuさんがそれを証明している。
「でも、ガチの気質を持っていればそんなふうにはならないはずです。今の国内の大食いは2年間努力しただけの自分が日本一に到達できてしまうレベルだったということ。
そんな業界を変えて、真の意味で大食いを流行らせるために必要だった最後の実績が『大食い王』の優勝だったんです。いくら偉そうなことを口にしても『いや、大食い王で優勝してないじゃん』と思われかねない。だから、有無を言わさない実績が必要でした」
昔と比べて大食いのレベルは上がっているのか?
今回の『大食い王』では、過去の記録が次々に打ち破られる場面が頻発した。しかし決勝のラーメン対決を例に挙げれば、過去の大会では「スープ完飲」が必須だったルールが、現在は「スープを飲まない」に刷新されている。つまり、今と昔の記録をグラム数で単純比較するのはアンフェアである。果たして、本当に大食いのレベルは上がったのだろうか?
「全体的なアベレージは上がっていると思います。昔の大食いって上位と下位の差がめちゃくちゃ激しいんですね。ほかの選手と比べ、ジャイアント白田さんと小林尊さんだけがずば抜けていた。このお二人を僕はものすごくリスペクトしています」
逆に言えば、現役時代の白田と小林の勇姿は今も現役選手にとっての高い壁としてそびえ立っている。
「昔、本気の大食いが流行っていた時期が日本にもありました。僕が業界に入ったときは『おいしく、楽しく、きれいに食べてください』というエンタメ寄りの風潮だったけれど、僕が子ども時代に見ておもしろいと思ったのは白田さんと小林さんの時代です。本気の大会や番組が増え、あの頃みたいな熱狂できる空気感がよみがえれば、eスポーツみたいにスポンサーも付くだろうし、勝手に選手に返ってくる。そんな環境にしたいです。
エンタメに寄った仲良しこよしの派閥ができているから、これまで業界の問題点について発言する人は誰もいなかったんですね。現役最強になった今が、やっとスタートラインなんです」
“優勝”というお墨付きを得た彼が第二の大食い黄金期を切り拓くべく、これから業界を牽引していく。
MAX鈴木が明かす「大食い用トレーニング」
そもそも大食い用のトレーニングとは何なのか。フードファイターのレジェンドであるMAX鈴木さんは、大食い用トレーニングのノウハウを確立したベテランだ。もちろん、胃に大きな負担をかける行為であり、一般の人が安易に真似すべきものではないが、その前提で、彼が編み出したトレーニング内容を公開できる範囲で教えていただいた。
まず重要なのは、「胃袋の拡張」だ。MAX鈴木さんの場合、炭水化物をお腹いっぱいまで入れた後、水やジュースなどの水分を摂取し、胃の中で膨張させることで、少しずつ許容量を高めていくという。
さらに、本番で出される「食材への対応力」も欠かせない。例えば、ラーメン対決が予想される場合は、手首に重りをつけた状態で箸を持ち、濡れタオルを持ち上げて手首を鍛える。また、咀嚼が必要な食材の場合は、奥歯で噛むと顎全体を動かすために疲れやすい。そこで、前歯だけで細かく噛む「ハムスター食い」を修練するのだという。
「疲労で顎が機能しなくなり、噛めずに大きい状態のままの食材を飲み込んでも、それは胃袋のなかで“下手なテトリス”をしているだけ。食材を細かく刻み、“うまいテトリス”をする必要があります」(MAX鈴木さん)
単に胃袋が大きいだけでは勝てない。食材の種類、噛み方、胃の中での収まり方まで計算する。大食いの世界では、見た目以上に緻密な技術と準備が必要なのだ。
【Ryu】
2026年『最強大食い王決定戦』優勝。わんこそば1300杯や10kg超級チャレンジの完食など数々の実績を持ち、スピードと持久力を兼ね備えた競技スタイルで注目を集める。トレーニングと大食いを両立しながら競技に真摯に向き合い、「日本一」に満足することなく世界トップレベルを目指して挑戦を続けている。
【MAX鈴木】
フードファイター。EATers代表取締役社長。’15年に『元祖!大食い王決定戦』で新人ながら優勝を果たし、’17年、’20年にも同大会で優勝。国内外の大会で活躍している、まさに大食い界のレジェンド
<取材・文/寺西ジャジューカ>
【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。
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