黒沢清が描く戦国心理ミステリー「黒牢城」美術、撮影、音楽――“黒沢組”精鋭スタッフ陣のこだわりとは?

「黒牢城」(6月19日公開)

黒沢清が描く戦国心理ミステリー「黒牢城」美術、撮影、音楽――“黒沢組”精鋭スタッフ陣のこだわりとは?

6月13日(土) 8:00

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黒沢清監督の初の時代劇「黒牢城」が、6月19日に公開を迎える。このほど、本作を時代劇の枠を超えた「戦国心理ミステリー」へと昇華させた、映画界の精鋭スタッフ陣によるオフィシャルコメントが披露。黒沢組の圧倒的なこだわりと、本作の魅力を紐解いていく。

舞台となるのは、織田信長に反旗を翻し籠城作戦を敢行した武将・荒木村重(本木雅弘)が治める有岡城。四方を敵に囲まれ孤立無援となった城内で巻き起こる数々の不可解な怪事件。事件を解明するため村重が向かった先は、織田軍の使者として謀叛を止めるよう説得に訪れたところを監禁した、危険な天才軍師・黒田官兵衛(菅田将暉)のいる暗い地下牢だった――。

●「白と黒、光と闇」で構築された、狂気と閉塞感の美術世界

「閉ざされた巨大な密室」を表現するため、本作では松竹京都撮影所のスタジオ内に大規模なセットを建立。美術を手掛けたのは、「燃えよ剣」をはじめ、日本アカデミー賞常連のベテラン・原田哲男。「時代劇」を知り尽くす原田は、本作の撮影にあたり黒沢監督から撮影前にある“特殊なオーダー”があったことを明かす。

「黒田官兵衛が閉じられている地下牢は、史実では狭いのですが、(黒沢監督からは)“広い方が良い”というお話がありました。資料も見当たらなかったので、日本家屋としての地下ではなく、廃屋のような写真などを参考に『こんなイメージかな』というのをスケッチして監督に見せました。最終的には、最初に見せたものからどんどん広がっていきましたね」

こだわりは広さだけではない。原田は当初、本作を白黒で撮りたかったという黒沢監督の意向を汲み、セット全体の色味についてもこだわり抜いた。

「題名が“黒牢城”でしたからね。それほど派手にせず、黒っぽい方がいいかなというのはありました」と語る原田。きらびやかさではなく白と黒のコントラストを意識。広大でありながら不気味なモノトーンの空間からうまれる、密室心理サスペンスとしての緊迫感を極限まで引き立てた。

●枠に囚われない、クレーンを駆使したダイナミックな空間移動

「Cloud クラウド」に続き黒沢監督とタッグを組み、監督同様に自身初の時代劇に挑んだ撮影監督の佐々木靖之。東京藝術大学大学院映像研究科の教授を務めていた黒沢監督と師弟関係にある佐々木だが、撮影前にはどのようなイメージを共有していたのか。佐々木は次のように振り返る。

「黒沢監督はそういうイメージの話をされないタイプというか、あまり教えてくれないところが多いです。ただ、時代劇なので、室内や外、廊下という一連の空間を『連続的に捉える』という点は重要視したいといったことを話しました」

そんな佐々木が今回最もチャレンジしたというのが、クレーンを使った大胆な空間移動撮影だ。セット内に櫓(やぐら)を実際に建てるなど極力CGを使用せず行われた撮影において、佐々木は、「地下牢はすごく広いんですが、クレーンを入れてしまうと狭い場所になってしまう。なので、やはり地下牢での撮影は難しかったですね」と苦労を明かしつつも、「スタジオのセットの中でクレーンを多様に使い横移動とともに上下移動するというのは、なかなか難しくチャレンジでした。本当に面白かったし、一番頑張ったところです」と述懐。

また、綿密に計算された空間の中、主人公・荒木村重を演じる本木が圧倒的な佇まいを見せていたことを明かす。

「本木さんは、引きの画であってもその感情が全身から伝わってくる。その感じがすごく強い方だなと思って、非常に面白いなと思いながら撮っていました」

徹底した映像美とキャスト陣の怪演の見事な融合をうかがわせている。

●「伝統楽器」を封印し、登場人物の肉体や感情の揺らぎと完全に融合させた音楽設計

また、本作の音楽を手掛けたのは、国内外で数々の映画音楽を手掛け、自身も映画監督・脚本家としての顔を持つ音楽家・半野喜弘。黒沢監督からは「お決まりの時代劇音楽ではなく、そうじゃない音楽を」という極めて挑戦的なオーダーを提示されたという半野は、当時の打ち合わせの様子を振り返る。

「監督が2つのことを仰っていて。1つは、『時代に翻弄されて、どこに連れて行かれるのか分からないみたいなことを表現したい』と。音楽で心情をどうこうということではなく、映画そのものが観ている人をどこに連れて行くのか分からない。音楽そのものが、キャラクターをどこにこう運ぼうとしているのか分からないみたいなものを望んでいるのではないかと考えました。そしてもう1つは、『いわゆる時代劇の定説的な音楽ではなく、そうじゃない音楽で新しい時代劇らしさを表現して欲しい』というこの2点でした」

非常に難易度の高い課題に対して、黒沢監督の要望に応えた半野は、「単純にメロディーとハーモニーで曲という構造ではなく、時には動きやセリフや表情がメロディーに見えたりするように、音楽と交差していくような作りにしました。だから(本作では)明確にメロディーらしいメロディーがあって、それにハーモニーがついているという曲は少ないです」とこだわりを解説。

さらに、「村重と千代保の2人の会話シーンでは、2回ほどテーマ的な美しい音楽がついていて、クライマックスでもまたその音楽がかかるんです。ただ、全ての音楽はバージョンが違って、実はテンポも全部違っていて。どこでオクターブの高い音が入るというのも、その時のキャラクターの心情と会話のバランスに合わせて全部変えてあるんです」と、登場人物の感情と音楽を緻密に交差させていることを明かした。

【作品情報】
黒牢城

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(C)米澤穂信/KADOKAWA(C)2026映画「黒牢城」製作委員会
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