長らく先送りされてきた皇位継承問題が動いたーー。高市早苗首相も「先送りできない喫緊の課題」との認識を示していたものの、紆余曲折が続き、一時は会期中の決着が危ぶまれたが、6月10日、衆参両院の正副議長が「立法府の総意」を決定。皇室典範改正はいよいよ「法案作成」の段階へと踏み出した。皇室史研究家・倉山満氏はここまでの道のりを「薄氷の勝利で全戦全勝、国体を守り切った」と振り返る(以下、倉山氏による寄稿)
皇室典範の改正案、7月までに通過させる予定に
ようやく皇位継承問題で立法府の総意が取りまとめられた。先週来の森英介衆議院議長の言動には、冷や汗を書かされっぱなしだったが。
思えば、菅義偉内閣の有識者会議が「①女性皇族が結婚後も皇室に残る案」「②旧皇族が養子により皇籍取得する案」を提言してからでも5年だ。
基本的には、第一案と第二案を了とする方向で、今後は政府が皇室典範の改正案をまとめ、7月までに通過させる予定だ。
そもそも、国会で何を話し合われていたのか。基を辿れば上皇陛下の御譲位の際に、国会の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に基づき、皇位の安定継承につながる議論を政府が行う運びとなった。
ちなみに、政府の有識者会議では、減少する一方の皇族数への対処に主眼が置かれ、「悠仁殿下までの流れを揺るがせにしない」との前提で、それ以後の皇位継承に関しては慎重な表現に留めている。だから「皇位継承」について話し合われているのだが、建前上は話し合われていないことになっている。暗号のような用語が飛び交っているので、本欄でも何十回と解説してきた。
薄氷の勝利で全戦全勝、国体を守り切った
多くの人が「皇位継承問題」を「次の天皇にふさわしいのは、愛子さまか悠仁さまか」と勘違いしてしまったのは、最たる誤解だ。愚かなマスコミが垂れ流した風説である。愚の骨頂が『週刊文春』で、「次の天皇にふさわしいのは誰か」アンケートまでやらかした。あの人たち、世が世なら、三条河原にさらし首だろう。あるいは四条河原か六条河原か。これ、冗談ではない。昭和三十六年にも、中央公論社の社長宅が襲撃され、死者が出ている。暴力によって言論を捻じ曲げるのは絶対に許されないが、三流マスコミや心無いSNSでの発信など、人間としての分を弁えていない言論が、あまりにも多すぎたのではないか。
これで最も大迷惑を被ったのは、愛子殿下である。「愛子天皇論」などの動きがあったが、あれは何だったのか?
はっきり言って、皇室の味方はマスコミでは産経新聞だけ。よくこの状況で、しのぎ切ったものだ。そして政界の大勢は、軽佻浮薄なマスコミを一顧だにしなかった。よく「日本の政治家は~」と言われるが、今回ばかりは世論が間違えて、政治家が正しかった。与野党ともに「令和の和気清麻呂」が大量に現れた。そして薄氷の勝利で全戦全勝、国体を守り切った。
では何が争点だったのか。
現在、次世代の男性皇族は、悠仁殿下ただ一人である。現行典範では、女性皇族は結婚したら皇籍離脱しなければならない。このままだと皇族は減る一方、悠仁殿下にお子様が生まれなければ、皇族がいなくなる可能性すらある。だから、悠仁殿下にお子様が生まれなかった場合に、今から備えようとの話なのだ。
ここで議論の大前提である。世論が「愛子様が女性だというだけで、なぜ天皇になれないの?」などとヒステリーを起こす中、政界は正気だった。なぜか。圧倒的多数が、「先例に基づく議論を行おう」で合意していたからだ。
秋篠宮家の盾となってもらう「茨の道」
さて、合意案の内容である。
マスコミでは第二案が本命のように扱われてきた。しかし、これが実現したところで、ハッピーエンドでも何でもない。茨の道の始まりでしかない。
悠仁殿下にお子様が生まれれば万々歳。しかし、絶対に子供が生まれる保証など無い。だから、いつでも皇位を継承できる宮家が存在しなければならない。そこで、GHQにより皇籍離脱を余儀なくされた旧皇族と呼ばれる方々の子孫に、本来の身分を取り戻していただこうとの案である。今後は「新皇族」となる。
ただ、悠仁殿下のお妃探し、お世継ぎづくりが第一である。仮に悠仁殿下に無事に男の子がお生まれになれば、「新皇族」の方々の子孫は天皇にならない。そうなると、国民としての自由を捨て、悠仁殿下の為に尽くすだけの人生となる。そして下衆なマスコミやSNSの連中は秋篠宮家に代えて、「新皇族」をバッシングの対象とするだろう。言わば、「新皇族」の方々には、秋篠宮家の盾となってもらう。これが茨の所以である。
実は第二案は、実現しなくても皇室が滅びる訳ではない。しかし、第一案に含まれた猛毒は、皇室を即死させる。
配偶者と子供の身分は「将来、適時適切に」
第一案の「女性皇族が結婚後も皇室に残る」自体には、日本保守党を除く全会派が賛成である。問題は、配偶者と子供の身分である。野田佳彦元首相などは立憲民主党時代から党の見解と関係なく個人の意見として「皇族にしろ」と頑なに訴え続けてきた。それを党の見解として扱ってあげた自民党(麻生太郎元首相)も、どうかしているのだが。
しかし、政界の圧倒的多数は「日本の歴史に一度も先例が無い。それを認めれば皇室の伝統の根幹に関わる」と撥ねつけてきた。
立憲民主党が中道改革連合になり、改めて党見解をまとめ直した。そこには「将来、適時適切に」とあった。内親王が旧皇族の方とご結婚される場合も含まれるから、こういう表現になった。その暗号、自民党に伝わり、最終的には「皇室の歴史に整合的であ」るべし、と入った。これで絶対に単なる一般人の男が皇族になる可能性はない。
取りまとめ前の森議長の言動が怪しかったので、見るに見かねて知恵を伝えた人がいるのだろう(笑)。
それにしても、多くのマスコミは「女性皇族の配偶者の身分に関しては明記せず」と報じている。字が読めないのか?
10日の取りまとめでは、自民・維新の与党に加え、国民・中道・公明・参政・みらいの七党が賛成。参議院第一党の立憲民主党も中立に回った。反対派の最後の拠点が参議院立憲だったが、そこも切り崩された。
皇室を潰したい側は、一回だけ勝てばよい。守りたい側は永遠に勝ち続けなければならない。
これからもだ。
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売
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