駅で通り魔、トランプ氏来訪で大暴動21人逮捕…W杯の決勝を控えたニューヨークで急拡大する「治安崩壊」

アメリカ・ニュージャージー州に位置する、世界最高峰の超大型多目的スタジアム「メットライフ・スタジアム」。最大収容人数は約82500人を誇る(写真:Adobe Stock)

駅で通り魔、トランプ氏来訪で大暴動21人逮捕…W杯の決勝を控えたニューヨークで急拡大する「治安崩壊」

6月13日(土) 15:51

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W杯の決勝を1か月後に控えたニューヨークで起こった刺傷事件

最大の駅で通り魔、市営バスで乗客射殺、女子高生が校内で刺され、街ではスポーツファンが大乱闘ーー。ワールドカップ(W杯)サッカーを直前に控えたニューヨークは粗暴犯罪のオンパレードだ。少々の事件では大騒ぎしないニューヨークだが、不穏な雰囲気は通常を上回っている。ドローンやAIという新しい技術も、大きな脅威だ。限りない不安を抱えながらW杯が開幕する。

今回のW杯は、アメリカ、カナダ、メキシコの3か国の16都市で開催される。そのうちの11都市がアメリカだ。ニューヨークでは試合は行われないが、ハドソン川を渡ったニュージャージー州の「メットライフ・スタジアム」では決勝(7月19日)を含む8試合が行われる。多くの観客や大会関係者はニューヨーク市内に宿泊するため、大会が滞りなく実施されるかどうかは、全米最大都市のニューヨークにかかっていると言っても過言ではない。

6月11日の開幕が迫った7日夜、アメリカ最大の乗降客数を誇るニューヨークのペン・ステーションで男が構内にいた6人を次々にナイフで刺した。現場は被害者の血で染まり、逃げ惑う乗降客の恐怖におののく叫び声が響き渡った。

現場で取り押さえられた51歳の男はホームレスで、精神的にかなり不安定な状態にあったという。刺された6人とは面識はなく、不特定多数を狙った通り魔事件だった。

ペン・ステーションは「メットライフ・スタジアム」での試合のために運行される特別列車が発着する駅で、現場となったのは特別列車を運行するニュージャージー・トランジットのホーム近くだ。ホームレスがそれを知っていたかどうかはわからないが、W杯直前に起きた事件としては、あまりにも不穏だ。

会場スクリーンにトランプ大統領が映し出されると、観客から大きなブーイングが……

そればかりではない。ペン・ステーションの真上には、スポーツやコンサートの会場として世界的に有名な「マディソン・スクエア・ガーデン」がある。事件翌日の8日には、プロバスケットボールの王者を決めるNBA決勝(7回戦制)の第3戦が開かれることになっていた。

半世紀以上も優勝から遠ざかっている地元ニューヨーク・ニックスが53年ぶりの優勝をかけて決勝に駒を進めていた。敵陣で2連勝してニューヨークでの第3戦に臨むとあって、ニューヨークはW杯どころではなくニックス一色だ。試合会場の「マディソン・スクエア・ガーデン」は観客のみならず、多くのファンで取り囲まれることになっていた。さらにトランプ大統領が観戦のために「マディソン・スクエア・ガーデン」を訪れることも予定されていた。

こうした中での通り魔事件は、治安への大きな不安をかきたてた。当局は大慌てし、ニューヨーク州のホークル知事とニューヨーク市のマムダニ市長がコメントを発表するなど、事態の沈静化に務めた。

夜が明けて、ニューヨーク市民が待ちに待った第3戦の8日、市内は最大級の警戒態勢となった。トランプ大統領が訪れるとあって「マディソン・スクエア・ガーデン」周辺の道路は閉鎖され、市民生活は分断された。平日だというのに、通常のビジネスが行えるような環境にはなかった。

興奮と混乱の中で行われた第3戦では、国家斉唱の際に会場のスクリーンにトランプ大統領が映し出されると、観客から大きなブーイングが起きた。ニューヨークはトランプ大統領の出生地で大統領にとっては地元だが、圧倒的に反トランプ派が多い。ファンの多くは、大統領の試合観戦を歓迎しない意思を表した。

試合は接戦の末にニックスが敗れた。不満が高まったファンは試合後、パブリックビューイングが行われていたブライアントパークで大暴れし、警官隊と衝突した。警察官5人がけがをし、ファン21人が逮捕された。ブライアントパークは市内でもおしゃれな公園として知られ、映画などにも数多く登場する。そんな公園が大乱闘の舞台になってしまったことに、ニューヨーク市民は大きなショックを受けている。

トランプ大統領が試合を観戦しなければ、パブリック・ビューイングは「マディソン・スクエア・ガーデン」の外側で行われるはずだった。「大統領のせいで無用な混乱が起きた」との印象は強く、今後のW杯運営に不安を残した。

安全が保たれていない中で、W杯を開幕していいのか?

不穏な事件は市内の他の地域でも起きた。8日午後には市北部のブロンクスで、運行中の市営バスの内で発砲事件があり、41歳の男性が射殺された。容疑者は10代の少年とみられ、男性から「携帯電話の会話の声がうるさい」と注意されたことに逆上し、銃を取り出して発砲したという。少年は逃走している。9日昼過ぎには、ブルックリンの公立高校で17歳の女子高生が手や足を複数回刺された。容疑者はその場で身柄を確保されたが、身元は公表されておらず、現時点で起訴されていない。

本来、安全であるべきはずの場所で安全が保たれていない。そんな中で、W杯が開幕する。
連邦政府はW杯警備のための特別部署を設置して警備にあたっている。FBI(アメリカ連邦捜査局)は2年前から警備の準備を進めてきた。前回のカタール大会後、大会をめぐる脅威はがらりと変わった。警備関係者は、地上でのテロや群衆の動き以外に、ドローンによる攻撃やAIによる偽情報の流布などについても十分な対策を練らなければならなくなった。

変化に対応して準備を進め、1月に連邦と各地の警備関係者が集合して訓練を実施したが、2月にアメリカとイスラエルがイランを攻撃したことで、それまでの警備の想定が一変してしまった。専門家は「戦争状態にある国から、資金援助を受けるテロリストへの対策という最大級の警備が加わった」と指摘する。

トランプ政権のW杯対策本部の事務局長アンドリュー・ジュリアーニ氏は「安全保障の観点から見ると、アメリカ史上、これほど厳しい夏はない」と話している。祝祭ムードの裏側で、W杯警備はかつてない難題に直面している。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。

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