ジェニファー・ローレンスは“野生の獣”だった――出産、育児の重圧、セックスレス…リン・ラムジー監督が語る新作の裏側【インタビュー】

リン・ラムジー監督

ジェニファー・ローレンスは“野生の獣”だった――出産、育児の重圧、セックスレス…リン・ラムジー監督が語る新作の裏側【インタビュー】

6月12日(金) 15:00

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オスカー女優のジェニファー・ローレンスとロバート・パティンソンが夫婦役で共演した「DIE MY LOVE ダイ・マイ・ラブ」(6月12日公開)。スクリーンに映し出される2人の姿は、まさに“狂演”と言えるだろう。

【動画】「DIE MY LOVE ダイ・マイ・ラブ」予告編

描かれるのは“心の崩壊”――作家の主人公グレース(ローレンス)が出産をきっかけに、育児の重圧やセックスレス、言いようのない不安や苛立ち、深い孤独に苛まれ次第に精神的に追い詰められていくさまを描出している。

「ジェニファー・ローレンス、キャリア史上最高の演技」と評された本作。メガホンをとったのは「少年は残酷な弓を射る」「ビューティフル・デイ」でも知られるリン・ラムジー監督。映画.comでは、オンラインインタビューを敢行。撮影の裏側をたっぷりと語ってもらった。

●原作小説に感じたことは?ジェニファー・ローレンスとの待望の共作

――原作小説を読み込んだうえでの感じた感想を教えてください。この物語の「痛み」のどこに最も惹かれ、映画化を決意したのでしょうか?

作品を読んだ時にクリエイティブな形で囚われてしまう、例えばスランプに陥ることやアイデンティティを失うこと、あるいは自分の心が崩壊していくということについて、すごく立体的に描かれている作品だなと思いました。

「痛み」もそこに介在しているんですが、同時にグレースのキャラクターに言えば、ものすごく解放されていくんです。最後の彼女は完全に自由になっていて、もともと野生の獣のような彼女ですが、ありのままの自分になれるという意味では、「痛み」だけではないと思っています。

――かねて共作を望んでいたジェニファー・ローレンスからオファーを受けて、映画化に着手したそうですね。最終的に、本作に向き合うためには自身のスタイルを貫く必要があると判断し、その条件を提示したそうですが、どのような条件だったのでしょうか?

条件というものは特にないんです。この小説を映画化するにあたって脚色をストレートにはできない、すごく難しいものではありました。それほどシュールで、内に目を向けている作品なので、逆に自分は一つの実験・挑戦として、これをいかに映画にできるのか、自分のものとしていかに作れるのか、というふうに感じました。方向性・やり方を自分の作品をすごく好きでいてくれるジェニファーが“これがいい”と言ってくれたので、条件というより私にとっては挑戦という感じでした。

●妊娠を経験したジェニファー・ローレンスは「野生の獣のような演技を披露した」

――ジェニファー・ローレンスは、本作でキャリア史上最も野性的で、生々しいパフォーマンスを見せています。彼女が撮影中に実際に妊娠・出産を経験したことは、現場での演出や作品のリアリティにどのような影響を与えましたか?

妊娠している時は自分の身体を守ろうとする気持ちが働きますし、強さも帯びる気がします。それも感じましたし、同時に彼女の中で花が咲いているような、勇敢で大胆さをもって演じてくれた感じがありました。それが妊娠していることが影響したのかどうかまではわかりません。

撮影の当初はまだ妊娠初期の頃だったので自分としては心配しましたが、ジェニファーは“この役は絶対にやるんだ”と考えてくれていて、野生の獣のような演技を披露してくれました。おそらく、グレースの“母である”というところに共感できたんだと思うんです。やっぱり子供が生まれると、もちろんものすごく子供を愛してはいるけれど、アイデンティティが揺らいでくるあの感じに共感したんじゃないかと思います。

――ロバート・パティンソン演じる夫ジャクソンは、単なる「悪役」ではなく、愛情がありながらも妻を理解しきれない、非常に複雑で無力な存在として描かれています。彼にはどのようなキャラクター造形を求めたのでしょうか?

グレースのことを愛してはいるんだけれど、どういうふうに接したらいいかわからない、というところが肝だと思うんですよね。目の前で起きていることに対して盲目でいて、見えないようにしている。状況が悪くなればなるほど大丈夫だと思い込みたい、そんなキャラクターです。

愛しているので頑張ってはいるんだけれど、いつも間違った選択をしてしまう。彼よりも彼の母親(シシー・スペイセク)の方が起きていることがクリアに見えている、シシーが持ち込んでくれた側面でもありました。愛してはいるけれど、時限爆弾のようなグレースをどう扱っていいのかわからなくなってしまっていて、そういう意味では無力さというのもありますし、ネズミ退治のために猫を連れてきて欲しいと言っていたのに犬を連れてきちゃうような、応えきれない能力不足のようなところを考えていました。

●悲劇の中に見出す“滑稽さ”――主人公グレースの“狂気”とは何だったのか?

――本作には、犬を撃つシーンやガラスに突っ込むシーンなど、衝撃的な場面が多々あります。しかし同時に、どこか「不条理なユーモア」も漂っています。悲劇の中に滑稽さを見出すというバランスは、監督にとってどれほど重要ですか?

おっしゃっていただいた通りの意図なんですが、観客にとっても共感できるキャラクターだと思うんです。結婚している2人がくだらないことで口論になったりする。クレイジーな状況の中にある不条理なユーモアのようなものというのが、よりキャラクターを立体的に複雑にしてくれていて、“光と闇”のようにはっきりしたキャラクターよりも、私は面白いと思うんです。

この作品をヘビーに見せることもできたんですが、それを私は望んでいなかったので、バランスはすごく重要でした。あとは主演の2人がものすごく役者としてコメディが上手でもあり、特にジェニファーはすごくユーモアを持ち合わせていたりもするので、それを絶対に活かしたいと思った結果でもあります。

――監督はこれまでも「少年は残酷な弓を射る」などで母性を扱ってきましたが、本作における「出産後の苦悩」や「精神の崩壊」は、単なる病理ではなく、ある種の「反逆」や「覚醒」のようにも見えました。監督にとって、主人公グレースの“狂気”とは何だったのでしょうか?

まさにおっしゃってくださった反逆と覚醒、その通りだと思います。自分の人生に対しての反逆、そしてアイデンティティの喪失に対しての反逆、結婚生活の中でセックスレスになっていることへの反逆、クリエイティブな意味でのスランプに陥っていることへの反逆。まるで世界を全部燃やしてやりたいというふうに思っているような。その行為としては、自分という姿をみんなに見てほしい、“ここに自分はいるんだ”ということを可視化させたいという、そういう想いだと思うんです。

確かに崩壊してはいるんですが、実際に彼女が他の人に言うことは“言うべきではないこと”もありますが、その“言うべきではないこと”は真実に触れていたりもするわけなんですよね。なので、崩壊しつつ彼女は解放されていて、最後はありのままの自分、野生に戻っていくという描かれ方がされています。

――「音」が“重要な登場人物”のように思えました。鳴り止まない犬の吠え声や、カオスな選曲(「Hey Mickey」など)が印象的ですが、観客の聴覚をどのように刺激して「没入感」を作ろうとしたのでしょうか?

かなり初期の段階からサウンドデザイナーと話をしていて、彼女自身強烈な体験をするのに合わせて、サウンドデザインも音も強烈なものにしていこうと考えていました。違和感を感じたその瞬間からどんどん強烈になっていき、最後はカオスになっていく。そのカオスは彼女に向かってきている混沌とした世界でもあるわけです。なので、内なる彼女の心の風景を描いていますが、それに加わる部分として使っているという感じです。

●インティマシー・コーディネーターを“あえて”起用しない決断これは何故?

――本作ではインティマシー・コーディネーターが、ローレンス&パティンソンの希望も踏まえ、あえて起用されていません。その判断へと至ったのが、撮影前の準備――ローレンスとパティンソンの即興のダンスレッスン。これを提案したのは監督だそうですが、どのような効果を狙ってのことだったのでしょうか?

即興のダンスや、その他にも笑ってしまうようなダンスもやってもらったんですが、やっぱり恥ずかしいわけですよね。ですが、一緒に恥ずかしさを経験していることで、アイスブレイカーになってもらえたらいいと思いましたし、お互い恥ずかしさみたいなものがなくなればいいなと思ってのことでした。

冒頭にセックスのシーンは撮影していて、それも結構リスキーな選択だったかもしれないんですが、後回しにするとそれがもしかすると気になってしまうかもしれなくて、実際のシーンよりも大ごとのように考えてしまうかもしれない、ということを考えて最初に撮りました。2人とも3週間前にインしてくれましたが、あのレベルの役者さんになると前日くらいに入る方が多い中、撮影の3週間前には来てくれて。私が“早めに来て欲しい”と強く言ったからもあったんですが、そもそも2人がすごくケミストリーを持っていて、さらにそういったくだらないことを色々やってもらうことで、2人の間のアイスブレイカーになって、本物のカップルを見ているかのように、結婚している2人に見えるようになればいいなと思っていました。

――日本の観客は、あなたの映画を「心」ではなく「肌」で感じる準備ができていると思います。この「DIE MY LOVEダイ・マイ・ラブ」という強烈な体験を、これから映画館の暗闇で受け止める日本の観客へ、どのようにこの世界に没入してほしいか、メッセージをいただけますか?

オープンに、“なんでも来い”みたいな気持ちでぜひ観ていただきたいですね。映画というよりも、一つの経験・体験なのかなというふうに実は思っています。やはり感じてもらう作品だと思っているので、“肌で”と言ってくれたその表現がすごくピッタリきています。

今までの過去作も日本の観客の皆さんは面白いリアクションをしてくださっているので、今回もどんな反応が見られるのかを楽しみにしているんですが、ジャッジするような気持ちは捨てて、このワイルドなジェットコースターにすごくオープンな気持ちで、ぜひ一緒についてきてほしいと思います。

【作品情報】
DIE MY LOVE ダイ・マイ・ラブ

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©MUBI_Credit_Kimberley French
映画.com

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