通勤電車の車内、会社の広報写真、何気なく上げたSNSの投稿ーーそんな日常の一コマが、ある日突然、性的なフェイク動画や画像の“素材”に変えられてしまう。生成AIを悪用した「性的ディープフェイク」は、芸能人だけでなく一般女性や子どもにまで被害を広げ、しかも本人が気づかないまま拡散が進むケースも少なくない。削除も加害者特定も難しく、被害者は孤立しやすい。いま静かに広がる“ステルス性暴力”の実態を追った。
「性的ディープフェイク」被害が激増
身に覚えがない性的な動画がネット上に拡散される――。そんな悪夢が今、女性たちの現実となっている。X上で性犯罪の問題を発信する「女たちのデータベース広場」の管理人氏が語る。
「生成AIを悪用し、性的な画像や動画を合成する『性的ディープフェイク』被害が激増しています。その標的は芸能人だけでなく、一般女性や子どもにまで及んでいます」
ディープフェイクの“素材”にされるのは、必ずしも性的な画像とは限らない。
「電車内など日常の何げない姿を隠し撮りされたり、企業の広報ページやインスタグラムに掲載された顔写真を悪用されたりするケースがあります。同僚の手によってオンライン会議の録画データが素材にされ、逮捕に至った事例も日本国内で実際に起きています。また、父親が自分の娘の写真を『かわいいコの投稿』に見せかけてコミュニティ内にばら撒き、性的な素材として共有させるという、家庭内での被害も報告されています」
被害者は誰にも打ち明けられず、孤立することが多い。
「ある女性は、勤め先のホームページに掲載されていた自分の写真が素材に使われ、性的なディープフェイク動画がすでにネット上に拡散されている状態で被害を発見しました。しかし、『誰にも知られたくない』と、会社にも警察にも相談できず、かといって放置すれば拡散が広がる一方で、どうにもできない状態でDMを送ってきた。そういう女性が後を絶ちません」
被害が進行し続ける「ステルス性暴力」
被害は単にヌード画像を作られるだけにとどまらない。
「職場や学校、名前などの個人情報とともに『レイプされたい』といった虚偽の文言が、女性本人の発言であるかのように見せかけて拡散される事例が相次いでいます。『○○学校の校門前で待っています』などと書き添えられ、身体への直接的な危険に直結するケースもある」
同意なき性的な動画が生成・拡散され、現実の身の危険に直結する。しかも被害者本人が気づかないまま被害が進行し続けるケースも多い。まさにこれは「ステルス性暴力」と言える。
自分が被害に遭っているかすら気づきにくい、性的ディープフェイク問題。では、誰がそのような蛮行を繰り返しているのか。ネットパトロールをボランティアで行う「ひいらぎネット」代表の永守すみれ氏は、加害者コミュニティの構造を次のように明かす。
「性的ディープフェイク動画・画像がやり取りされるのは、Discordやテレグラムなどのクローズドなコミュニティです。その規模は数十人のグループから数千人規模まで多岐にわたります。まずXなど利用者の多いSNSで繫がり、次第にDiscord、カカオトーク、テレグラムといったより閉鎖的なツールへと移行していく。コミュニティ内では加害行為がバレないよう、逮捕者のニュースをもとに対策を共有し合うなど、手口がどんどん巧妙化しています」
一般的な生成AIサービスでは、性的コンテンツを作ることは規制されている。
「しかし、コミュニティ内では規制をすり抜けるプロンプトが『呪文』として共有され、さまざまなノウハウが蓄積されています。例えば水着化しようとしてはじかれても、別の言葉に言い換えるだけで回避できてしまう。まさにイタチごっこです。古い画像でも悪用でき、10年前の写真が今になって素材にされるケースもあります」
加害者グループ内で経済が循環
さらに、こういった性加害コンテンツを作ることが、今ではビジネス化されている。
「一枚500円でヌード化を請け負う『請負型』と、性的ディープフェイクが大量に投稿されたコミュニティへの参加費として1000〜2000円を徴収する『会員制型』の2種類のビジネスが堂々と行われています。作成サービスは登録無料で、紹介者にポイントが入る仕組みになっているため、利用者自身が勧誘の担い手になる。性的欲求だけでなく、投稿に対して称賛し合うことで歪んだ承認欲求を満たし、さらに金銭的利益まで得られる構造が、被害をとめどなく拡大させています」
性的ディープフェイクは、ネットの海にひとたび投げ込まれたら、回収するのは極めて困難だ。
「実は、某コミュニティへの潜入調査中、自分のディープフェイク動画を偶然発見したんです」と、永守氏は自身の被害を打ち明ける。
「投稿から20日後の発見でした。こういう活動をしている私ですら、たまたま見つけるまで気づけなかった。これが『ステルス性暴力』と呼ばれるゆえんです。警察に即相談し、名誉毀損罪に該当すると判断されました。しかし海外SNSでの事案だったため日本の警察からは発信者情報の開示請求ができず、30万円を投じて民事で開示請求を行いましたが、追跡されにくいVPNを経由していたことから特定には至りませんでした。もし被害者が未成年なら、費用を工面できるかどうかで被害者救済へのアクセスに格差が生じてしまう。そのことを痛感しましたね」
諸外国では規制が進むが日本では…
性的ディープフェイク被害を食い止める策はあるのか。生成AIに詳しい岡田淳弁護士はこう解説する。
「現時点で性的ディープフェイクを正面から取り締まる包括的な法律はありません。現在は名誉毀損罪や侮辱罪、ストーカー規制法など既存の法律で個別に対応しています。ただAIの加工度が上がり『特定の人物』と判別しにくくなると、表現の自由を抵触し、法規制のグレーゾーンになりかねません」
諸外国では規制が進む。韓国では性的ディープフェイクの所持・閲覧までを処罰する新法がすでに成立。米国では同意なき性的コンテンツの48時間以内の削除をプラットフォームに義務づける法律が今年5月に施行された。
「一方、日本は伝統的に新たな規制の導入に慎重です。しかし、被害の深刻さから、性的ディープフェイクに特化した法律の導入を検討する余地は十二分にあります」
気づかぬうちに誰もが被害者になり得る――それが性的ディープフェイク被害の本当の恐ろしさなのだ。
【「女たちのデータベース広場」 管理人氏】
Xでセクハラなどの性被害についての情報を発信。フォロワー数12万人超。性加害の告発が加害者逮捕に結びついた事例も。@females_db_park
【「ひいらぎネット」代表 永守すみれ氏】
'20年から盗撮などの性的被害画像・動画の通報活動を同志と開始。「被害者も、加害者もつくらない」を合言葉に発信を行う
【弁護士 岡田淳氏】
東大法学部卒、ハーバード法科大学院修了。米国法律事務所を経て、内閣府AI戦略会議委員など政府・自治体のAI・知財関連委員を歴任
※2026年6月16日号より
取材・文/週刊SPA!編集部
【関連記事】
・
「舌がねじ込まれて…」元ジャンポケ斉藤“ロケバス事件”で被害者が証言、車内での異常行動と“屈辱的な発言”
・
「渡されたお酒を飲んだら意識が朦朧として…目覚めたら知らないタワマンだった」ハロウィンで性被害に遭った女性たちの悲痛な叫び
・
「ちょっとカメラ回していい?」海でナンパされた21歳女性が性被害に遭うまでの一部始終を告白
・
10歳のとき、母の彼氏から「性被害を受けた」25歳女性の今。「自分が穢れているなんて思わなくていい」と主張できるようになるまで
・
「初めての相手は父親」16歳で“実父の子”を妊娠、流産… 7人の子を持つ母となった性虐待サバイバーの告白