私は総合病院で働く看護師です。慌ただしくも、やりがいのある毎日を送っています。プライベートでは、交際半年の彼からプロポーズを受け、婚約したばかり。少し展開が早い気もしましたが、結婚は勢いも大切だと思い承諾しました。
しかし、その直後から、私は思いもよらない理不尽なトラブルに巻き込まれることになったのです……。
最高の結婚祝い、のはずが
そんなある日、彼の実家へご挨拶に伺うことになりました。到着すると、彼のご両親は和やかに出迎えてくれました。手料理が並ぶ食卓を囲む中、彼のお父さんが突然口を開きました。「2人の結婚祝いに、マンションをプレゼントしようと思う」その言葉に耳を疑いました。詳しく聞けば、駅前に完成したばかりの、あの高級マンションだというのです。
思いがけない申し出に、私は驚きのあまり言葉を失ってしまいました。あまりにも高額な贈り物に戸惑いましたが、私を歓迎してくれているのだと前向きに捉え、好意を受け取ることにしたのです。詳しい手続きや契約関係は「俺たちに任せておいて」という彼の言葉を、すっかり信じ切っていました。
その後も仕事は相変わらずハードで、本格的な引っ越し作業はなかなか進みませんでした。彼は自分の荷物を少しずつ運び込んでいましたが、私は実家から病院へ通う日々です。さすがにこのままでは申し訳ないと思い、夜勤明けの休日に少しだけ荷物を運ぶことにしました。カードキーをかざし、静かにドアを開けます。
「おはよう。ちょうど良かった」玄関の先に立っていたのは、彼のお母さんでした。予想外の光景に、開いた口がふさがりません。
「私たちの荷ほどきは今日中に終わるからね! あなたは夜勤で忙しいんだし、家のことは私たちに任せて、安心して稼いでおいで!」笑顔で言い放つ彼のお母さん。同居の話など、私はこれまで1度も聞いていません。戸惑う私にさらにたたみ掛けるように、その後ろから彼のお父さんが顔を出しました。
聞いてないよ……?
「そうそう、ローンと生活費もお前たちでよろしく頼むよ」信じられない言葉の連続に、全身の血の気がサッと引いていくのを感じました。マンションはプレゼントではなかったの……? 震える声で尋ねると、お父さんは得意げに胸を張ります。そこは人気物件で、たまたま出たキャンセル住戸に運よく滑り込めたこと自体が、最大のプレゼントだというのです。
隣にいた彼は「父さんたち、気が利くだろ?」と無邪気に笑っています。さらに部屋を見渡すと、見覚えのない高級本革ソファや、やたらとハイスペックなドラム式洗濯機などの最新家電がずらりと並んでいました。
「家具は俺のカードで買っておいた。俺の口座からローンを支払うから、君の給料は全部こっちに送って! 俺の収入だけじゃ家具代も生活費も全然足りないから助かる」悪びれずに笑う彼を見て、背筋が凍りました。彼は単独では生活できないほどの、身の丈に合わないローンを組んでいたのです。
私が進めていたこと
「忙しい君に代わって、俺が家計管理するよ」という結婚前の彼のやさしい提案も、結局は私の給料をまるごと握るための口実でした。この瞬間、私の中で彼との結婚は完全に白紙になりました。しかし、ここで感情的になっても意味はありません。私はスッと表情を戻し、静かに告げました。
「わかった。ただ、しばらく急患が多くてまったく時間が取れないの。引っ越しはもう少し待ってね」そう言って新居を後にした私は、彼からの身勝手な連絡にはまともに取り合わず、やり過ごし続けました。もちろん、その間マンションのローンは彼自身の口座から引き落とされていきます。
案の定、私の援助がないことで彼の資金繰りが苦しくなり始めたのでしょう。「一体いつになったら引っ越してくるんだ」と、焦った声の彼から電話がかかってきました。そこで私はついに、これまで密かに進めていた自分自身の切り札を出すことにしました。
「ごめんなさい、私、来月から海外の病院へ行くことになったの。だから、そのマンションには住めない」
手元にある正式な採用通知書を見つめながら、そう告げました。
私がすぐに婚約破棄を突きつけなかったのには理由がありました。あのマンションで彼らの本音を知った瞬間、結婚の意思は完全になくなっていましたが、感情的に別れを告げれば「一方的に婚約を破棄された」と言われかねません。だからこそ私は、ローンや家具の契約名義、彼から送られてきた「給料を全部送って」という身勝手なメッセージ履歴を一つずつ確認し、証拠として残しておくことにしたのです。同時に、結婚のために一度諦めかけていた海外医療スタッフへの応募手続きも再開しました。彼と暮らすためではなく、自分の人生をきちんと取り戻すために。
空欄の婚姻届を手に
電話の向こうで、彼が息をのむ気配がしました。直後、「話が違う! 結婚したら財布を一緒にする約束だっただろう!?」と声を荒らげる彼に、私ははっきりと伝えました。私に無断で同居を決めたこと。私名義ではないローンや家具代の支払いを当然のように求めたこと。結婚前から私の給料をすべて管理しようとしたこと。そのどれもが、夫婦になる相手として信頼できない十分な理由だと。
もちろん、婚姻届は私の署名欄が空欄のまま手元にありました。彼からの身勝手なメッセージ履歴も残してあり、ローンや家具の契約もすべて彼自身の名義です。法的に私を責める隙はどこにもありません。
「もう付き合いきれない。それじゃあ」私は静かに電話を切り、彼の連絡先をすべてブロックしました。その瞬間、胸の奥につかえていたものが、ようやくほどけていくのを感じました。
現在、私は海外の医療現場で、忙しくも充実した毎日を送っています。後から風の便りで聞いた話によると、彼はほどなくしてローンの支払いに窮し、あのマンションを手放したそうです。結婚という人生の大きな決断の前に、相手の本性に気付くことができて、本当によかったと心から思っています。
◇ ◇ ◇
自分のキャリアと人生を守り抜き、きっぱりと関係を断ち切った彼女の決断からは、理不尽な状況に立ち向かうための勇気をもらえるのではないでしょうか。どんなときも自分らしく生きる姿勢を大切にしていきたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
著者:ライター ベビーカレンダー編集部/ママトピ取材班
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