パリッコ高円寺「朝から居酒屋 陽のうえ」の「ブリ脳天刺」

パリッコ高円寺「朝から居酒屋 陽のうえ」の「ブリ脳天刺」

6月4日(木) 17:00

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朝7時から夕方5時までという高円寺という街らしい時間帯で営業する酒場の存在を知り、訪れたいと思っていた。朝からお酒を飲んでも、自分の場合、それを報告すれば「仕事」ということになるだろう。誰にするでもない言い訳をめぐらせつつ電車に揺られやってきた。

ごくまれに、朝から酒を飲みたくなってしまう日がある。
というのはもちろん冗談で、飲んでいいならいつだって、朝からでも酒を飲みたい。
ふだんそれをしないのは、できれば少しでも長く健康に酒を飲みたいという酒飲みの大いなる矛盾に対するささやかな抵抗と、片づけなければならない仕事、送らなければいけない生活があるからだ。
それでもたまには、朝から酒が飲みたい。輝く朝日を浴びながら飲む酒には、特別な幸せがある。幸い僕の仕事は、今まさに書いているような文章を綴って発表すること。つまり、ある日朝から酒を飲んでしまったら、それをこの場で報告すれば「仕事だった」ということになる。
というような、誰にするでもない言い訳を頭のなかでめぐらせつつ、電車に揺られてやってきたのは、高円寺。朝7時から夕方5時までという、この街らしいフリーダムさで営業する酒場が存在することをしばらく前に知り、ぜひ訪れたいと思っていたのだ。
その名も「朝から居酒屋 陽のうえ」。
せっかく行くなら、時間は早いに越したことはない。場所は地元民なら誰もが知る「らーめん太陽」の入るビルの3階。細い階段を上がってガラス製のドアを開け、カウンター席のすみにつけたのが、9時ちょうどだった。
店内はそれほど広くはないものの、フロアの両側に大きな窓があって、そこからさんさんと朝日が降り注ぎ、気持ちがいい。厨房に沿ったカウンター席の向こうにはテーブル席もいくつかあり、さらに窓の外にはテラス席まである。昨年オープンしたばかりらしく、どこもかしこもぴかぴかで、朝酒の後ろめたさとは無縁の空間だ。カウンターに先客ふたり、奥のテーブル席とテラス席にそれぞれひと組ずつの、若者グループとカップル風。この時間から盛況だが、みな大さわぎをすることなく、穏やかに飲んでいる。
まずはドリンクメニューを見てみると、生ビールが税込550円、ホッピーセットが500円とリーズナブル。さらに興奮したのが「やかんセット」なる存在で、焼酎のナカが3杯ぶんと、好きな割りもの、氷がセットになって、なんと700円。場末酒飲みはやかんに入った焼酎に弱い。一択だ。
カウンター内はふたりの女性。そのうちのひとり、主に僕のいる側担当の、きのぴーさんという方が、お店を切り盛りされているそうだ。注文と同時に聞かれる。
「今の時間は、サービスでゆで玉子とソーセージパンがつけられるんですが、どうされますか?」
なんと朝10時まで限定で、やかんセットにサービスのおつまみまでついてくるそうで、なんて最高な酒場のモーニング。当然お願いする。

すぐに、小ぶりのやかんに入った焼酎、チューハイグラス、アイスペールにたっぷりの氷、そして割りものとして頼んだホッピーの瓶がやってきた。基本的にソトイチナカサンで飲む1セットとして確立されていて、わかりやすい。
1杯目のホッピーを作り、窓の外の街並みを眺めつつちびちびと始めていると、ゆで玉子、それから少しして、食パンを小さく切ってソーセージに巻いた、オリジナルの焼き立てパンが届く。どちらもうまく、至高の朝だ。もしかして、僕が日本でいちばん好きなモーニングセットはこれかもしれない。
つまみは、黒板とホワイトボードの2枚ぶんに、かなりの品数がある。これが、どれも魅力的で困ってしまう。まず豊洲から仕入れるという鮮魚類に力を入れていることがわかり、「カツオ刺」が300円、「メバチマグロ」が380円、「刺盛」が600円とかなり安い。「ちらし寿司のあたま」(450円)なんていう、つまみに絶対良さそうな一品もある。そんななか選んだのは「ブリ脳天刺」(650円)。希少部位であると聞くマグロの脳天は何度か食べたことがあるけれど、ブリは初めて見た。それからサイド的に「自家製青唐みそ」(200円)と「梅ゴーヤ」(300円)をもらっておこう。
青唐みそはとろりと甘じょっぱく、添えられたきゅうりの薄切りにのせて噛みしめると青唐辛子の辛味が広がり、朝酒の爽やかさをいっそう際立たせてくれる。にんにくも利かせてあるから、ひとなめでかなり酒がすすむ。ゴーヤはおひたし状のあえもので、しゃきしゃき食感と、ほのかな苦味、酸味の塩梅が素晴らしい。どちらも値段に対する妥協を感じない絶品だ。
お待ちかねのブリの脳天も到着。大きな切り身が6切れものっている。いくら大ものだったとしても、マグロよりは小さい魚。希少性はどれほどなんだろうか。さっそくわさび醤油をつけ、食べてみて驚いたのはその食感。見た目にはかなり脂がのっているのに、大とろのようなとろりとした感じではなくて、しゃきしゃき、ぷりぷりとすごく歯ごたえがいいのだ。脂の香りも上品で、くさみなどどこにもない。一般的なぶりの腹身よりすっきりしている。今まで食べた魚の刺身のなかでもかなり好きだ。選んでみて大正解だったな。
つまみがどれもうまくて、思わずやかんセットをおかわり。朝からさすがに飲みすぎている気がするけど、こういうときに遠慮したってしかたがない。
「いわしガリ巻」「レアあじフライ」「紅生姜かき揚」「ラーサラ」「生青のり酢」「金華サバ生ハム」「おつまみ脳天ツナマヨ」「おつまみ塩ピザ」「鮎の稚魚の佃煮」「トロ水晶」「冷や汁風やっこ」「自家製なめたけおろし」……まだまだ気になるものがありすぎるけど、すでに身も心も大満足状態になってきてしまった。ここにはまた来るに決まっているし、よくばりすぎるのはやめておこう。
ただ、最後に一品だけ、頼まないで済ませるわけにはいかないメニューがある。「なぞパスタ」(150円)。シメにそれを堪能し、悔いなく店をあとにした。
きのぴーさんに聞いたところによれば、この店は同じく高円寺で人気の「小粋」という酒場の姉妹店的な店らしい。オーナーは子育て世代の女性でもあり、そういった方ならではの視点、ニーズから生まれたのが陽のうえというわけだ。営業時間的になかなか行けないという社会人の方も多いかもしれないけれど、有給をとって朝から飲みにいって後悔はしないはずの名店だと思う。
あ、「なぞパスタ」がどんなパスタだったか、やっぱり気になります?まぁ、謎は謎のままにしておくのが“小粋”ということで、機会があればぜひ、お店でお確かめください。

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次回第49回は2026年6月18日(木)17時公開予定です。

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Credit:文・イラスト=パリッコ
OHTABOOKSTAND

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