孤独な男の日々、品よく描写

孤独な男の日々、品よく描写

孤独な男の日々、品よく描写

6月4日(木) 12:00

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ぼくのともだち 『ぼくのともだち』(白水社)著者:エマニュエル・ボーヴ Amazon | honto | その他の書店

◆孤独な男の日々、品よく描写
恥ずかしい限りだが、著者のエマニュエル・ボーヴのことを私は知らなかった。十九世紀の終わりに移民の子どもとしてパリに生まれ、コレットに見い出されて本書でデビューを飾る。華々しい文学的活躍を遂げたが、方法的実験の先行したフランスの文学の世界で、徐々に忘れられた。

もちろん、文学史に鮮やかな刻印を残すほどの作品というわけではない。だが、滅法(めっぽう)おもしろい。主人公のヴィクトール・バトンは第一次世界大戦で負傷、傷痍(しょうい)軍人年金で暮らしている。

全体に向上心というものがない。遅く起きる。街をブラブラする。孤独である。「孤独がぼくを押し潰(つぶ)す。ともだちが欲しい」。バトンはそう呟(つぶや)くが、意外と人間関係はある。カフェの女主人と愛し合ったり。でも仕事はしていない。自分が寝ている姿の描写はこんなふう。「脛(すね)の上には脱いだ服がのっている。ぺしゃんこになって、片側だけ温まっている。」

私はこの文章を読んで、びっくりした。主人公は孤独な男かもしれないが、彼を取り巻くモノの描写が正確この上ない。文章に品があって、過不足がない。ボーヴの本格的紹介を望む。



【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2005年12月22日

【書誌情報】
ぼくのともだち 著者:エマニュエル・ボーヴ
翻訳:渋谷 豊
出版社:白水社
装丁:新書(219ページ)
発売日:2013-07-02
ISBN-10:4560071845
ISBN-13:978-4560071847 ぼくのともだち / エマニュエル・ボーヴ
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