自らが惚れ込んだ空間を手に入れ、そこで生業を営み、暮らすことの幸福

自らが惚れ込んだ空間を手に入れ、そこで生業を営み、暮らすことの幸福

自らが惚れ込んだ空間を手に入れ、そこで生業を営み、暮らすことの幸福

6月3日(水) 12:00

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わからないままの民藝 『わからないままの民藝』(作品社)著者:朝倉 圭一 Amazon | honto | その他の書店

◆人と出会い夢の暮らし実現
民藝を商う、民藝を求める。

店もお客も、器や道具を通して、お互いの考え、気持ちを伝えたくなるのが民藝。骨董(こっとう)趣味とは一線を画している。

朝倉圭一は、岐阜県北部高山市の中心から車で30分ほど離れた集落に、民藝店「やわい屋」を営む。築後、150年の古民家を移築し住居兼店舗を開いている。経済効率よりは、自らが惚(ほ)れ込んだ空間を手に入れ、そこで生業を営み、暮らすことの幸福が伝わってくる。飛騨では、「支度をする」ことを「やわいをする」と言うのだという。

本書の白眉は、第3章「工藝店『やわい屋』の物語」にある。高山生まれの朝倉は、30歳のアルバイトだった。アパート、壁紙や床やテーブルに違和感を抱いたところから、すべては始まった。単に民藝店を開くのであれば、手っ取り早い道はあったろう。けれど、古民家を購入して改装するのではなく、新たな土地を求め、移築する道へと導かれていく。元警察官で引退後、不動産屋をはじめた白栗(はくぐり)さん、古民家を手がけてきた現代の匠(たくみ)、上町(かんまち)さん。受け入れてくれた集落の人々。探し始めてから2年。夢の実現へと一歩一歩近づいていく様子、「やわいをする」姿が活写されていて、どきどきするくらい面白い。

第1章の「民藝の百年を遡(さかのぼ)る」は、独特の視点が明解に打ち出される。単に歴史をたどるのではない。「当たり前」の暮らしを送るには、どんな考えが必要か。夢の実現には、現実の制約を乗り越える精神力が必要だ。「社会の一員として周囲と交わり、良好な関係を結びつつ、迷惑をかけ他者による迷惑を許して、心穏やかに平穏な心持ちで暮らすこと」。資金面や土地の選定、改装とその材に至るまで、毅然(きぜん)たる生き方を貫いている。しかも柔軟であろうとする。だからこそ偶然の出会いに恵まれる。

著者は、民藝に惚れている。しかも、言葉の人である。よく調べ、よく考え、よく書く。ここには理想と生活が示されている。

【書き手】
長谷部 浩
1956 年生まれ。慶應義塾大学卒。演劇評論家、東京藝術大学名誉教授。 現代演劇から歌舞伎まで幅広く評論活動を展開。著書に『4 秒の革命 東京の演劇1982-1992』(河出書房新社)、『傷ついた性 デヴィッド・ルヴォー演出の技法』(紀伊國屋書店)、『野田秀樹論』(河出書房新社)、『権力と孤独 演出家 蜷川幸雄の時代』(岩波書店)、『天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎』、『菊五郎の色気』(いずれも、文春新書)、『菊之助の礼儀』(新潮社)など。蜷川幸雄との共著に『演出術』(ちくま文庫)。また、編著に『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』、『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』(いずれも、岩波現代文庫)などがある。紀伊國屋演劇賞審査委員。

【初出メディア】
東京新聞 2024年8月17日 / 中日新聞:2024年8月18日

【書誌情報】
わからないままの民藝 著者:朝倉 圭一
出版社:作品社
装丁:単行本(272ページ)
発売日:2024-07-02
ISBN-10:4867930334
ISBN-13:978-4867930335 わからないままの民藝 / 朝倉 圭一
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