満員電車で、突然怒鳴り声を浴びせられたら……あなたならどう対応しますか?
今回は、そんな理不尽な言いがかりに立ち向かった女性のエピソードです。
突然の怒声、おじさんの標的にされた瞬間
ある日の夕方、植野美沙さん(仮名・33歳)は、いつも通り帰宅ラッシュの電車に揺られていました。
「仕事で疲れていたけど座れなかったので、ドア横のスペースに体を預けながら、できるだけ周囲と距離を取るように立っていたんですよ」
車内は押し合うほどではないものの、身動きが取りづらい程度の混雑。誰もが無言でスマホや窓の外を見つめていたその時……。
「おい、さっきから邪魔なんだよ」低い声が、すぐ背後から突き刺さったのです。
「振り向くとスーツ姿の50代ぐらいのおじさんがこちらを睨んでいて、一瞬『え、私?』と意味がわかりませんでしたね」
目は据わり、眉間には深いシワ。おじさんの声量と苛立ちのボルテージは、「カバンだよ、それ! ぶつかってんだろ」と言いながら上がっていったそう。
端に追い詰めて肩をぶつけてきた
「確かに混雑で多少触れてしまっているかも? 程度のことでしたが、波風立てたくなかったので私は『すみません、少し寄せますね』と言ってカバンを逆方向に持ちかえたんですよ」
しかし、それで収まる相手ではありませんでした。おじさんは「少しじゃねぇよ! 分かんねぇのか?」と言葉遣いを荒くするだけでなく、体をじりじりと近づけ、美沙さんを追い詰めて逃げ場を奪ってきます。
「ヤバい、理不尽に絡むタイプだと直感で分かりました。空気も静まり返っていましたね」
周囲の乗客たちも異変に気づきながら、視線を落としていたそう。
すると、さらに追い打ちをかけるように「ほら、ちゃんと持てよ。迷惑なんだよ」と吐き捨てながら、おじさんはわざとらしく肩をぶつけてきました。避けようのない距離で、明確な攻撃としか思えなかったそう。
「安全に乗車する権利がありますので」
「痛みで頭にきた私は、気がつくとスマホを取り出していたんですよね」
感情に任せて言い返すのではなく、静かに「今の行為も含めて、記録させていただきますね」そう淡々と告げると、おじさんの表情が一瞬だけ崩れました。
続いておじさんは「は?」と眉をひそめましたが、美沙さんは「こちらとしても、安全に乗車する権利がありますので」と一切引かなかったそう。
おじさんは「記録ってなんだよ? 勝手に撮るんじゃねーよ」と声を荒らげながら、スマホをさえぎるように手をかざしてきましたが、その動きには明らかな動揺が感じられました。
「私は『映像と音声です。このまま続くようでしたら、駅員さんにそのまま提出します』とハッキリ伝えながらも撮影する手を止めませんでした」
黙っていた人たちが、次々に声を上げてくれた
その瞬間、張り詰めていた空気が別の形で動き出します。隣の女性が「私も見ていました」と声を上げたそう。
「すると後方から誰かが『さっきから一方的でしたよね』、さらに別の誰かが『必要なら僕が証言しますよ』と、次々に言ってくれて……気づけば、何人もの人が私の背中を支えてくれていたんですよ」
沈黙していた車内に、確かな味方の気配が広がっていきます。
「そしたら、おじさんの視線が泳ぎ始め『大袈裟なんだよお前ら、別にたいしたことじゃねーだろ』と声は急に小さくなり、言葉もどこか言い訳がましくなってきて」
それでも美沙さんはスマホを下ろさず「念のため、このまま記録は続けます」とキッパリと言い切りました。
やがて次の駅に電車が滑り込み、ドアが開いた瞬間。おじさんは何も言わず、人をかき分けて逃げるように降りていったそう。
「その背中を見送りながら、やっと肩の力が抜けていくのを感じましたね」
張りつめていた緊張が解けた車内には、先ほどまでとは違う柔らかな空気が戻っていました。
「すると真っ先に声を上げてくれた女性が「大丈夫でしたか?」と優しく声をかけてくれて。周りの人たちからも温かいアイコンタクトを感じ、ようやくホッとすることができたんですよ」
「見ず知らずの人たちが、あんな風に私を救ってくれたことが本当に心強かったんですよね。あの時の感謝はずっと忘れません」と微笑む美沙さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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