札幌地裁で4月、贈収賄事件で奥山拓哉裁判官の出した判決が物議を醸している。求刑が9万1485円だったところ、言い渡されたのは9万14「58」円と、27円安かった。刑事判決の主文は訂正できないため、札幌地検は「法令適用の誤り」を理由に控訴した。わずかな言い間違いでムダな裁判が控訴審に持ち込まれる──
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「札幌地裁 贈収賄事件追徴金言い間違え判決」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
たった27円差の判決言い違え! 裁判官のミスで意味なき控訴審
今回、本欄で紹介するのは、今年4月に札幌地裁の刑事裁判官が、法廷で判決の主文を言い間違えてしまった事件である。
収賄事件では、被告人が受け取った賄賂をそのまま保持しないように、賄賂相当額の追徴金を支払わせる。今回の事件では、被告人が9万14「85」円相当の賄賂を受け取っていたから、これと同額の追徴金を支払わせるべきところであり、検察官も、同額の追徴をすべきであるとの「求刑」をしていた。
ところが裁判官は、法廷で主文を言い渡す際に、この追徴金について「被告人から、金9万14「58」円を追徴する」と金額を読み間違えてしまったのだ。
刑事判決は、言い渡しの際にはまだ判決書ができておらず、言い渡し後に判決書を作成する。ちなみに民事判決では、これが逆であり、先に判決書が完成しており、それに基づいて言い渡しがなされる。
また、刑事判決は、法廷で言い渡した内容が正式なものとなり、それを間違えてしまうと訂正できない(ただし最高裁を除く)。これも民事事件とは異なる点だ。一方、民事判決は「更正決定」というもので簡単に訂正できる。そのため、民事裁判官は、言い渡した判決の主文が間違っていても、更正決定を作成すれば事足りることもあり、これが頻繁になされている。
刑事裁判官が主文でミスると、是正には控訴するしかない
今回の刑事裁判官は、手元のメモを見ながらだったのか、その下2桁を読み間違えてしまったのだろう。裁判官も人間だから、こうしたミスをしてもおかしくない。しかし、主文でミスると、裁判官の名前入りでデカデカと報道されてしまい、裁判官マップは大荒れとなる。
だから刑事裁判官は、とにかく主文を言い間違えないことに全力集中するのだが、どうしても間違いは起こる。そこで、法廷にいる裁判所書記官、検察官、弁護人が、間違いに気がついたら、即座に手を挙げて指摘する。裁判官が法廷にいる間であれば言い直しができるからだ。俺も、当局の嫌がらせで1年間だけ本庁刑事部に所属していたが、こうした周りの支えで何度助けられたかわからない。
刑事判決の主文を言い間違えたら、それを是正するには控訴するしかない。今回の事件でも、検察官が控訴した。本来であれば地裁で終わるはずの事件が、控訴審で引き続き審理されることになり、被告人に多大な迷惑をかける。勾留中なら身柄拘束期間も延びてしまうからなおさらだ。
しかし、こういうミスをしたからといって、その裁判官が厳重注意処分を受けることは基本的にはない。処分を受けてしまえば、その後の出世にも影響する。民事裁判官にはまったくないこのリスクを刑事裁判官だけが負っているのであって、このミスでいちいち処分をしていたら、誰も刑事裁判官になりたがらなくなるからだ。
そこで、この事件についても、担当裁判官を責めずに、大目に見てあげていただきたい。こういう明らかなミスは、普通であれば、自らその額で求刑した検察官か、または、裁判官を一番近くでサポートしている裁判所書記官が、法廷で気がつくもの。誰からも指摘してもらえなかったかわいそうな裁判官なのだから。
<文/岡口基一>
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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