ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"⑦「江戸時代みたいに、うんこやおしっこを肥料にできないんですか?」【この件について】

藤井一至氏いわく「19世紀のドイツの化学者は『日本の糞尿リサイクルを見習うべき』と言ってます」

ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"⑦「江戸時代みたいに、うんこやおしっこを肥料にできないんですか?」【この件について】

6月2日(火) 8:00

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藤井一至氏いわく「19世紀のドイツの化学者は『日本の糞尿リサイクルを見習うべき』と言ってます」

藤井一至氏いわく「19世紀のドイツの化学者は『日本の糞尿リサイクルを見習うべき』と言ってます」





ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との7 回目です。江戸時代の日本みたいに、人のうんこやおしっこを畑の肥料として使えば、化学肥料はいらなくなるのでは?ひろゆきさんが、そんな素朴な疑問を投げかけました。さて、糞尿肥料は現代でも使えるのでしょうか?

***

ひろゆき(以下、ひろ) 江戸時代から第2次世界大戦前の日本は、人のうんこやおしっこを畑の肥料として使っていたと聞いたんですけど、世界的に見るとかなり珍しいことなんですか?

藤井一至(以下、藤井) かなり珍しいです。19世紀のドイツにユストゥス・フォン・リービッヒという化学肥料の理論的な基礎を作った化学者がいたんですが、彼は当時のヨーロッパに対して「日本の糞尿リサイクルを見習うべきだ」と言っています。

ひろ 化学肥料の生みの親みたいな人が、わざわざそんなことを言ったんですか。

藤井 そうなんです。リービッヒは「土から作物を奪い続けたら、そのぶんちゃんと栄養を返さないと土は持続しない」と考えていました。当時のヨーロッパでは、土が痩せたら別の土地に移動するという略奪農業が当たり前だったんです。それを「借りたものは返せ」と批判したのがリービッヒでした。

ひろ その視点で日本を見たら、ちゃんと返してたと。

藤井 当時のロンドンは、排泄物をテムズ川に垂れ流ししていて、それがコレラの大流行の原因にもなっていました。一方で同じ頃の日本は、農家が町までわざわざ糞尿を買いに来ていたんです。

ひろ 売り物だったんだ(笑)。

藤井 ええ。「昨日した小便京(今日)は汁に入れ」という川柳まであります。糞尿(下肥)で育った野菜を食べて、それがまた糞尿として畑に戻る。江戸時代には循環型の有機農業をやっていました。

ひろ でも、なんで日本だけ循環システムが発達したんですか?ヨーロッパのほうが進んでいたイメージありますけど。

藤井 一番大きな理由は人口密度です。江戸時代の日本の人口は約3000万人で、当時としてはかなり過密でした。一方のヨーロッパは麦と牛を中心とした農業文化で、人口密度が低いことを前提にした設計なんですよ。

ひろ 設計が違うんだ。

藤井 麦と牛で生きていく社会は、「土地が痩せたら別の所に移動すればいい」という選択肢が取れるんです。だから、牛の糞尿は利用しても、人の糞尿を資源として再利用する必要はなかった。

ひろ 日本は逃げ場がなかったから、循環させるしかなかったと。

藤井 そういうことです。江戸時代の循環農業は、エコロジー思想とか美徳の話以前に、人口密度が高すぎたことに原因があります。

ひろ じゃあ、ヨーロッパは何を肥料として使っていたんですか?

藤井 最初の化学肥料の材料は家畜の骨でした。例えば刀剣のさやを作るときに骨の余りが大量に出るんですけど、それを捨てた場所の周りは作物がよく育つということに気づいた人がいた。さらに、そこに硫酸をかけたら吸収されやすくなることもわかった。これが「過リン酸石灰」というヨーロッパ最初の肥料の始まりです。

ひろ うんこやおしっこに比べると、ずいぶん間接的ですね。

藤井 しかも、骨を捨てた場所だけだと足りないので、イギリス人はベルギーのワーテルローの古戦場から、戦死した兵士や馬の骨を大量に持ち帰って肥料にしようとしたという話まであるんです。ワーテルローはヨーロッパでも有数の激戦地で、何万人も戦死した場所ですから骨の量は膨大でした。

ひろ すごい話ですね。

藤井 そうしたらリービッヒさんは「あいつらは大切な肥料源を奪っていく」と怒り出すんです。骨を巡って、けっこう生々しい争いが起きていました。

ひろ 骨肉の争いですか(笑)。でも、うんこやおしっこを使えば一気に解決する気もするんですが。

藤井 そうなんです。だからリービッヒさんからすると「日本を見ろ」になるんです。



ひろ ヨーロッパには、糞尿を肥料にする発想はなかったんですか?

藤井 なかったわけじゃないんです。「ナイトソイル」といって夜中にこっそり畑に糞尿を運ぶ習慣を指す言葉がちゃんと存在しています。だから、イギリスの一部とかではやっていたようです。

ひろ でも一般的ではなかった。

藤井 ええ。やっぱり人口密度的に余裕があったから、そこまで踏み込まずに済んでいたんでしょうね。骨で済んでいるうちは骨で済ませる。糞尿に手を出すのは最後の手段だった。

ひろ 日本は最初からそこに行かざるをえなかったと。さすがリサイクル大国ニッポンと言いたいところですけど、それって不衛生じゃなかったんですか?

藤井 まさにそこが影の部分で、戦後しばらくまで、日本人の7割が回虫などの寄生虫に感染していたといわれています。子供の頃にぎょう虫検査をやった世代だと、なんとなくわかりますよね。

ひろ ぎょう虫検査って、肛門にセロハンテープみたいなのを押しつけて提出するやつですよね。

藤井 そうです。糞尿を使わずに育てた野菜がわざわざ「清浄野菜」として特別扱いされるくらい、感染が常態化していた時代があったんです。

ひろ そういう名前で売り出したってことは、普通の野菜は〝清浄じゃない〟のが当たり前だったってことですよね。

藤井 そうです。江戸からつながる人糞文化が日常に染みついていたわけです。

ひろ でも、ちゃんと処理すればいけるんですよね?

藤井 はい。堆肥として時間をかけて発酵させれば、寄生虫もその卵も発酵熱で死にます。本来はそれが正しい使い方なんですけど、現場では十分に発酵させずに使うケースが多かった。お世話になっていた山の中の畑では、トイレからそのままじかに畑に肥料が流れていく〝源泉垂れ流し〟みたいな仕組みがあったんですよ。

ひろ 源泉垂れ流し(笑)。その野菜を食べると、やっぱりみんなおなかを壊すんですか?

藤井 調査仲間は全員おなかを壊していました。なぜか私だけは壊さなかった。みんなが「やられた」「私もやられた」って順番に倒れていく中で、僕だけ「なんで?」みたいな。

ひろ 藤井先生には耐性がついていたってことですか?

藤井 かもしれません(笑)。土の研究をやっていると、膨大な微生物にさらされているので、知らず知らずのうちに鍛えられていたのかもしれません。

ひろ そうなると「江戸の循環農業に学ぼう」みたいな話って、どう受け止めればいいんですかね。

藤井 江戸の循環自体は、都市と農村を結ぶよくできた仕組みで、3000万人くらいの人口だったらやっていけました。でも、1億人を賄おうと思ったら難しい。だから化学肥料に依存するようになったというのが歴史なんです。

ひろ なるほど。

藤井 それに当時は、7割の人が回虫に感染している状態の上で成立していた循環なわけで、「江戸の暮らしを取り戻そう」とは簡単には言えません。

ひろ 規模も衛生環境も違いすぎると。

藤井 さみしい部分もありますが、理想となる農業のかたちは設定する人口や時代によって変わるのだと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)

元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など

■藤井一至(Kazumichi FUJII)

1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など



構成/加藤純平(ミドルマン)撮影/村上庄吾

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